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と、ある夫婦の日常

作者: かこ

SIDE A



夏と言えば海


今年は雨ばかりで夏そのものが何処かへと

バカンスに行ってしまった感じでしたが

しっかりと伊豆方面には顔を出していたみたいなので

ひと夏の思い出にいってみた


昔と比べて圏央道が出来たおかげで16号の橋本五差路なんて

ダンジョンを通らなくなり東名までスイスイと走る

厚木のJCTを抜けて一路、沼津を目指して快調にクルマを

飛ばしているとあっという間に沼津だ


西湘バイパスならまだ熱海にも着いていない時刻なのに

沼津ICから伊豆縦貫道に接続されて快調にクルマは進む

西湘バイパスの左手に海を見ながらドライブするのも

悪くは無いが海岸線に見どころは少ない


伊豆縦貫道は距離が短いので2つの有料道路を走りながら

天城峠まで3時間ほどで着いてしまう

道の駅でわさびソフトを舐めながら休憩をして

天城峠に向かえば強烈な緑が目に入ってくる

旧天城峠に浄蓮の滝にと見どころはあるが

ここは素早く走り抜ける


峠を抜けると河津町に入る

峠の麓にあるセブンイレブンを右折すれば

下田の街の裏手から下田駅にぶつかる道路なのだが

それだと海岸線を目にする機会が無い…

それに2000ccのSUVでもすれ違いが困難な道幅だ…

ここはやはりカーナビに反して直進が正解

海が見える交差点までは10分くらいなので

心が海を求めてアクセルを強く踏み込んでしまう


T字路にぶつかれば正面に海が見える

家を出てから初めて目に入る海でテンションが上がる

この交差点から熱海方面に向かってしまうと

海の砂は黒いのだが右に曲がって下田方面に向かうと

海の砂は白くなる

漁港みたいな海岸もあるがここまで来て小規模な海岸に行く意味は無い

地元の人の遊び場に足を踏み入れるのも無粋だろう


少し走れば大学生の聖地である白浜海岸が現れる

ウェ~イ系の集まる海岸なので家族には向かないが

夏の思い出を作るには良いかもしれない


そこを通り越してしばらくすると下田港だ

ズンズンと進むと右手に下田駅に東急ストアがある

貸別荘組はこの東急ストアで買い物をするのだが

駅前にある地元のお土産物に行くのも

市街地の干物屋などに行くのも

ブラブラするにはこの駐車場は本当に便利なのだ


だが、自分の目的地はまだ先である

伊豆に来たと言う雰囲気を味わながら

目的の海岸までクルマを走らせる


いつも曲がる交差点を左折し

いつもの貸別荘にクルマを停める

海までは徒歩10歩である


チェックインは14時であるが子どもたちは待ちきれない様子だ




青空も空気も色彩までもが鮮やかで

住んでいる地区とは大違いだ

大きく息を吸って伸びをすればバカンスの始まりである








SIDE B




明日から夏季休暇なのに私の心は晴れなかった…

天候不順という事もありお盆期間の売り上げが

過去最低を記録したのである…


こんな気持ちでは夏休みも楽しめないのであるが

仕事が終わってしまったのもまた事実である…

片づけは手が空いている時にしてしまったので

カーテンを閉めて施錠すれば帰宅できるのだが

このまま直接に帰宅するには気が引けた



帰り道にGSに寄り、タイヤの空気圧までチェックして

ガスも満タンに入れる

ドラッグストアにも寄って明日の為に麦茶やお菓子も調達する

車内で食べるようにとお菓子をかごに山積みしてレジに向かうが

ワゴンセールで日焼け止めが2個500円で売っていた

こんな天候では日焼け止めも売れないのであろうと思い

2個を手に取り、かごに入れた



3千円ほどの会計だったが先ほどまでの落ちた感情は

上向きになる兆候を見せ始め頬も自然と緩むようになった

お金を使うと幸せになれるって今夜も実感した



家に帰り明日の準備に取り掛かる

その時に何気なく奥さんに言った


「3千円も買い物してきたから日焼け止めのさ~ 500円だけくれない??」



奥さんの答えはいつも簡潔である



「いやだ」




心でなにかが弾けてイラッとした心が噴出した



ここからはお決まりの夫婦喧嘩になり

準備もろくに進まぬまま奥さんと子供は寝室へ行ってしまった


「明日は行かないから!!」という決まり文句を吐いて

居なくなった奥さんに心の中で「上等だ!!」と言葉を投げかけ

酒を煽る…


25時過ぎまで酒を飲みDVDを見ていると奥さんがやってきた

明日は行かないのかと聞いてくる…

行く気があるんだなと思ったので就寝…

朝の5時には目が覚めるだろうか…



数時間の睡眠の後にひとり目を覚まし

準備を始める

6時には準備も終わり、子どもたちと奥さんがやってきた

そそくさとクルマに乗りこむが車内は静寂に包まれる

いつもの家族旅行とは雰囲気が違う事を子ども達も

察知しているように思えた


圏央道も終わりに指しかかった頃にDVDを見たいと

子どもたちが言ってきたが、なにを見るかでケンカになった

いつのまにかそれが夫婦喧嘩に発展して厚木から沼津まで

「降りろ」「帰る!!」の言い争いが続く…


伊豆縦貫道に入り天城峠に向かうと道の駅がある

休憩を取って子どもたちにアイスなどを買ってくる

奥さんはタイミングを外して買い物に向かう


そしてバックミラーから自分を見えなくするように

雑誌を買ってきていた

バックミラーからはお互いの顔は見えなくなった



峠道は右に左に曲がり、急坂も続く

360度のクルクルと回転する橋まであるのが天城峠である

つまりは酔いやすい道なのである

峠の麓にあるセブンイレブンでトイレに行くのが習わしであるが

駐車場に止めた瞬間に後ろから聞こえてきた




「げろげろげろ~」




だからいわんこっちゃない…




青い顔をした奥さんが店内に入っていくが

トイレがスゴイ混んでいる…



すこし私は反省した…




海岸線にぶつかり子ども達はワイワイしてお菓子を食べているが

夫婦に会話は無い…

白浜海岸には伊豆半島で一番古い神社である白浜神社がある

結婚前にJTBのバスツアーで来た神社だ

後席に寄るかどうか尋ねると子どもが「いかな~い」と返事をしてきた

そのままクルマは止まることなく走り続けて海岸に到着した


子どもは海を見に走り、私は深呼吸をして腰を伸ばす

その時だった



「白浜神社に寄りたかったんだけど…」



まるで呪詛のように発した声の主はひとりしかいない…

後ろを振り返り目を合わせる…

この時の選択肢はひとつしかない…


子ども達を呼び戻し、またクルマは走り出すのである

先ほど走った道を戻る為に…




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