その3
「…ここか。この子の家は。」
5分前から同じ壁の横を歩いていた。
ようやく門が見え表札を見る。
名字を確認すると門を見上げる。
「それにしても、家デカすぎじゃない?」
左右を見ても見える限りはずっと同じ壁。
塀の高さも僕の身長の2倍近くある。
ジャンプして少し見える家も
ちょっとしたお城といった感じの大きさだ。
ここまで来て僕は少し怖気付いた。
しかし、彼女を背負った僕は限界に近い。
彼女のすべての体重を支えている
腕もいつ力が抜けてもおかしくない。
今はもう、「女の子を落としてはいけない」
というちっぽけなプライドで
なんとか持ちこたえている。
一か八か、覚悟を決めて。
僕はいっぱいに息を吐き
吐いた分以上の息を吸い
インターホンを鳴らした。
少し待ってから中年の女性の
声がインターホンから聞こえた。
家政婦さんかな?
「どちらさまでしょうか?」
「…あ……。あの……。」
緊張してなかなか声が出ない。
「こ…ここは!〇〇さんのお宅でしょうか‼︎」
声量の加減ができなかった。
あっちがもし受話器で受け答えしてたら
耳がキーンてなったんじゃないかな。
「はい。そうですが。」
冷静に家政婦さんから返ってきた。
「あ。えと…。多分、〇〇さんの
お嬢さんだと思うんですけど。
倒れてしまったようなので。
ここまで運んできました。」
そう言うと、
「え⁉︎今そちらに向かいます!」
と慌てて言った。
30秒ほど経つと、門の向こうから
パタパタと2人の足音が聞こえた。
ガチャ。
門のドアが開き、中から
家政婦さんと男性…こっちは執事さんかな?
が出てきた。
執事さんが僕が背負っていた彼女を
「失礼します。」
と言って抱きかかえた。
僕がふぅっと息を吐くと家政婦さんが
「お時間ありますか?」
と聞いてきた。
はい。と答えると
「お嬢さまを送っていただいたお礼に
飲み物でも飲んで行かれませんか。」
と言ったので、甘えることにした。
中に入ると、僕の想像以上に
豪華な家だった。