その2
とても風が強い日だった。
風に乗ってきたハンカチが
僕の目の前で地面に落ち、
それを拾い上げて名前がないことを確認して
誰のだろうと周囲を見渡した時に
僕は異変に気付いた。
周りが灰色になっていて、
誰もピクリとも動いていない。
風に舞っていた桜の花びらさえ
空中で止まっている。
そんな中、1人色を失っていない少女が
車道にいる男の子めがけて走っていた。
その男の子の1メートル横には車。
男の子は転がったボールを
追いかけているようだった。
男の子は事故に遭う寸前だった。
彼女が男の子を抱き抱えこちら側の
歩道についたとき、灰色の世界が
色を取り戻し、何事もなかったかのように
世界が動き出した。
車のブレーキ音、
男の子の泣き声が聞こえる。
僕は急いで彼女の元へ向かった。
彼女はリバースライフウォーカーだ。
僕の時間は止まらなかった。
ハンカチには髪の毛がついていた。
つまり、このハンカチは彼女の物だ。
走って彼女の元へ行くと、
彼女は肩で息をして額には汗が滲んでいた。
額に張り付いた髪を払うと同時に
彼女はうめき声をあげ頭を抱えた。
そして、糸が切れたかのように倒れた。
近くにいた男性が
「この子はリバースライフウォーカーだ‼︎
早く逃げないとみんな殺されるぞ‼︎」
と言った。
その瞬間、さっきまで泣いていた男の子も
周りにいた人たちも顔を真っ青にして
逃げ出した。
僕も親に
「もし、リバースライフウォーカーに
会ったら、すぐに逃げなさい。
彼らは、殺人をしても平気な人たちだ。
何をしてくるかわからない。」
と教えられていた。
しかし、僕は逃げられなかった。
リバースライフウォーカーらしい少女は
見た所僕と同い年くらいだ。
それに、男の子を助けていた。
絶対に悪い子じゃない、そう確信した。
僕は彼女に駆け寄り、息をしていることを
確認して、周りの大人に助けを求めるべく
顔を上げた。
しかし、周りには誰もいない。
みんなリバースライフウォーカーだと気付き
逃げていったのだ。
仕方なく僕は
落ちていた彼女のカバンから住所がわかる
物がないかを探した。
入っていた手帳に彼女の家の住所が
書いてあったので、
僕は彼女を背負うと、歩き出した。