確かな幻想の熱さ
悲愴より。
テンペストより。
悲愴より/
幻想だったのです
そんな人はいなかったのです
いいえ いいえ
確かに この手で触れました
熱い 熱い 人でした
そして 嵐が去った後
荒れ果てたのは わたしであって
その人ではなかったのです
偽物だったのです
全てはうそだったのです
いいえ いいえ
確かに本当だったのです
瞳と瞳に真実はあったのです
そして 白々とした朝に
ふっと 遠くなってしまった 昨日が
広がっていく わたしとその人の隙間に
哀しく冷めた秋のひかりになって流れ込みました
炎は消えようとして ひと時燃え上がるけれど
手放してしまったものは もう還らないのです
そんなこと 分かっていたはずなのに
喪失の真空が また 深呼吸を始めるまで
わたしは 恋をしないでしょう
このまま 静かなままで いたいのです
テンペストより/
わたしは思い出してしまうでしょう
やがて必ず消える炎の
狂おしく身悶えして燃えていた
あの震えるようなスパークを
真っ白なアークの閃光が
あなたとの 隙間を 溶融していく
盛り上がるビードは虹色の輝き
愚かさと愚かさの溶接現象により
わたしたちは確かに一つだった
その曲の深淵に届かずとも、わたしから発する言葉の群れ。
悲愴より/ 幻想である故の確かさへと。
テンペストより/ 恋愛の不確かな故の熱さへと。