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野ばら
シューベルト『野ばら』より(ゲーテの詩からの着想)
明るい野に
野ばら咲いて柔らか
パステルの悲しさを知っているの?
どうぞ その棘で 刺して
深紅の朱玉を あなたにあげる
緑の風吹いて
穏やかな熱から
昂っていく
あの空まで もうすぐ とどく
でも陽は陰り
野ばらはうつむく
アリが嘘を運んでいく
つらつらと連なっていく
澄んだ滴が ひとつ ふたつ……
ミツバチが ぶんぶん 鳴いている
野ばらは こくり うなずいた
雲間から ひかりのカーテンが降りてきて
あたたかに 野を 包む
陽は ずいぶん長けた
静かに しばらく何もなくて
夕日の頃合いに
冷たい風が すーっと 撫でた
野ばらは震えて
ひとひらの花弁を落とした
ああ……
そうだったのか
全ては過ぎてから分かってしまうこと
頑なだったころ 愚かだったころ
野ばらよ
おまえが いちばん 綺麗だったころ
ゲーテって残酷なやつですね。芸術がそうであるように。