友だち
クリストンさんの後に続き、階段を上る。
木製の階段は、古そうなのにピカピカだ。きっと、マリモアさんが毎日丁寧に磨いているのだろう。
「ここです」
クリストンさんが立ち止まったのは、互い違いに並ぶドアのうち、向かって右側、1番奥のドアだった。
5号室と書いてある。
トントン、とクリストンさんが軽くノックをして
「ベル、いますか?」
と問うと
「はい、どうぞー」
明るくてよく通る声が返ってきた。ベル、だっけ。割と元気な子なのかな。私結構人見知りなんだけど…大丈夫だろうか。
入りますよ、の声とともにクリストンさんがドアを開く。
「クリストンさん、どうかしましたか…って! 貴女もしかしてマリーネ!?」
「はっ、えっ、うん…?」
何なになに!? 確かにこの子に私のこと話したって聞いたけど…
「あー、ゴメン、ついつい…ね。嬉しくって」
えへへ、と笑いながら頭をかく女の子_ベル。
「マリーネ、こちらがベルです。さっき話した、君と同じルーナで新入生です…ベル、よろしくお願いしますね」
「はーい! じゃあ、マリーネ、中入ってよ」
「う、うん! あっ、クリストンさん、ありがとうございました」
私がお礼を言うと、クリストンさんはニコリと笑って階段の方に戻っていった。
「荷物はそこに置いといて。ベットは、あたしが左の使ってるから右でいい?」
「オッケー。ありがとう」
私が荷物を置くと、ベルが目をキョロキョロさせているのに気がついた。
「あ、えっとさ、なんて呼べばいいかな?」
「呼び方? えっ、でもさっきマリーネって呼んでくれたじゃない。いいよ、マリーネで」
というかそれ以外ないしね。まさか“インディーコさん”なんて呼ばれるのも距離感あって嫌だもんなあ。
「良かった〜。いきなり呼び捨ては馴れ馴れしかったかなって…」
「ううん、大丈夫だよ? あっ、私もベルって呼んでいい?」
「うんっ!! 大歓迎だよ!」
コロコロと表情が変わって、ベルには悪いけど…ちょっと面白い。愛嬌があるって言うのかな。
それから暫く、クリストンさんが来た時の話や持ってきたものの話、学院で楽しみなことなんかを話していた。…墜落したフクロウの話をしたら、ベルは大笑いしていたな。
「そう言えばさ、マリーネの家族って皆魔法使い? うちはそうなんだけど、非魔法族の両親から魔法使いが生まれるって話も聞いたことあるから」
ベルが何気なく質問してきたけれど…私は迷ってしまった。魔法使いなんて今日初めて知ったし、親は…全然わかんないし、おばあちゃんが何か意味深だったくらいで。下手に同情されるのは嫌い。………でも。
_ベルに嘘はつきたくない、な…
せっかく仲良くなれたんだ。それに、どうせ分かること。正直に話そう。
「分かんないの。物心ついた時からずっとおばあちゃんが面倒見てくれてたから、親のこと何にも知らないし、そのおばあちゃんもこの間亡くなっちゃって…その前に意味深なこと言ってたくらいでそんなこと聞いたことないんだ。だから、非魔法族の生まれなのかもね」
私の正直な感想。…非魔法族じゃないと思う、と。そう、言った。
_引かれちゃうかな…どうしよう、気まずくなったら………
今更そんなことをグルグルと考える。
「そうだったんだ…ごめんこんなこと聞いて。………でも、話してくれてありがとう」
ありがとう、なんて…びっくりして下向きになっていた顔をベルの方へ戻せば、彼女が眩しいほどの笑みを浮かべていた。
「話しにくかったでしょ? でも、あたしには何でも話してね?」
あたしたち、もう友だちだもん!
その言葉は、私の心にゆっくりと、心地よく染み渡っていった。