クリストンと先生
ドンッ、タッ、2つの音がレトロな宿に響く。無論、前者の情けない音は私のものだ。
「クリストン…その子、新入生かしら?」
雰囲気の上品な女性が、クリストンさんに話しかけた。…この人が、マリモアさんかな。
「ええ、こちらはミス・インディーコ。…マリーネ、彼女はマダム・マリモアです」
「マリーネ・インディーコと申します…」
テレポート?で少し気分が悪くなったのを必死に我慢していたからか、語尾が少しだけ弱くなってしまった。
「宜しくね、マリーネ。それにしてもこの魔力…彼女、ルーナね?」
「さすがハーブ先生。そのとおりです」
…ん? “先生” ?
「あの、先生って………」
「ああ、君には話しそこねていました。実はマダム・マリモアは私が学院時代にお世話になった先生なのです」
「ええ。薬学の教師をしていたのよ。今は結婚して離任しましたけどねえ」
先生だったのか…マリモアさんって。しかもクリストンさん学院の生徒だったんだ。何気なく話してたけれど、私は初耳だ。
「娘も学院の元生徒でね。今は学院で母の私と同じ薬学の教師をしたいって猛勉強中よ」
「ミントももうそんな歳ですか」
「確かあなたの5つしただったわよね」
「そうです。1年だけ生徒と先生として学年がかぶりました」
娘さん_ミントさんはクリストンさんの後輩………? なんだか、私そっちのけでお話が続いているような。おばあちゃんもたまにこういう所あったんだよね…。マリモアさんは見たところ、おばあちゃんより少し若そうだけど。50代くらいかな。
「あの、私はどうすれば…?」
私が声を発すると、マリモアさんとクリストンさんは「あっ」と同時に声を発した。
「すみませんね、マリーネ」
「あら、ごめんなさい。話しすぎましたわ」
「いえ…」
やっぱり気づいてなかったのか…まあ、いいけれど。
「そうね、夕食まで時間があるし疲れているだろうから…部屋で休むといいわ。先に来たお嬢さんと相部屋ですけど、宜しいかしら」
「君と同い年の“ルーナ”です。彼女にはもう、貴女のことは話してあります」
同い年の女の子か…! しかも私と同じだ。
「もちろんです」
「では、付いてきてください。案内します」
トランクを持ち直し、私はクリストンさんに続いた。