呪文学の教師
クリストンさんに準備をするように言われて、私は2階に上がってきた。
「たしか、おばあちゃんが使っていたものがあったはず…あった!」
茶色の、すこし古いトランク。おばあちゃんが言ってたっけ。”マリーネが遠出するようなことがあったら使いなさい”って…
そう言えばおばあちゃん、水の精霊が何とかって言ってたな…もしかして、私が魔法使いってこと知ってたのかな………?
「まさか、ね…」
それよりも、早く荷物詰めなきゃ。クリストンさんが待ってる。
「本と、着替えは…2着かな。羽織ものがあればいいやあと、それから…」
ポシェット(こちらは新品で、茶色だ)に身だしなみを整えるものと、袋に入れたキャンディ、筆記用具を詰めて、………うん、大丈夫な、はず。
「クリストンさん! 準備できました」
下に降りると、クリストンさんは先ほどのフクロウともう一羽、
違うフクロウに手紙を託して飛ばしていたところだった。
「本当に魔法使いってフクロウ使うんですね。本で読んだことしかなかったです」
「へえ、人間の本にはそんなことが書いてあるんですね。…君も向こうに行けば慣れますよ。嫌というほど使いますから」
嫌になるほどフクロウ使うのか、魔法使いは…と思ったが、あえて突っ込まないでおいた。
「ああ、ちょうど今からここの古書を学院に魔法で転送する所でした。見ますか?」
「是非!」
魔法使いが魔法使うところ、初めて見る!…当たり前だけれども。
「エラ!古書よ来い!」
古書がそこらじゅうから飛んできた。私のトランクの中の本は、動かなかった。…これが魔法のコントロールか。
そこからは、早かった。小声でクリストンさんがブツブツ呟くと本は縛られてまとめられ、宙に浮いて、フッと一瞬で消えてしまった。
「き、消えた…!」
「魔法の呪文は、最初は呪文を唱えないと難しいのですが…そのうち無言呪文もできるようになります」
ちなみに、私は呪文学の教師なのですよ、とクリストンさん。どうりでひとつひとつの動作が滑らかで無駄がないわけだ。
「では、私たちもテレポートしますよ。しっかり捕まっていてくださいね、振り落とされたらおしまいですから」
私が悲鳴を上げるよりも早く、
「メタフォーラ、マダム・マリモアの宿!」
という声がした。