魔法使い
「………え?」
簡潔すぎるクリストンの説明に、マリーネはめまいがした。
「いくら何でもいきなり過ぎましたね。…まあ、つまり貴女は魔法使いなのです。それも、とびきり特別なね」
「魔法使い…とびきり特別な…」
「そう。貴女は水魔法の素晴らしい才能を持った、魔法使いなのです」
そこからのクリストンの説明を、マリーネは自分なりに必死にまとめて整理した。
_アストラ学院は魔法界という、近くて遠い異世界にあること
_6年制で、1年生は13歳、6年生は18歳であること
_当たり前だが、先生も生徒も皆魔法使いであること
_ルーナやヘリオスはなかなかいない特別な存在であること
「ちなみに、精霊には種類があって…貴女の守護霊である水の精霊をはじめとして、炎や樹木、雪、雷など8種類の精霊が主な精霊です。精霊に好かれ、守られている魔法使いを男性ならヘリオス女性ならルーナと言います…しかし」
「しかし…?」
「チカラが大きいゆえ、自分自身を傷つける可能性もあります。時には、周りの人たちも。そうして、ルーナやヘリオスは周りから距離を置かれ、怖がられ、無実の罪で殺されることもあるのです。…意に反しますが、その逆もしかりです」
「その、逆も…」
マリーネは、その想像をして真っ青になった。あんなにお世話になった人たちを、自分の手で…
「い、嫌ですっ!!」
マリーネの剣幕に、クリストンはたじろいだ。
「す、すまないね。怖がらせてしまったみたいで…でも、大丈夫。学院で学べば、正しいチカラのコントロールを身につけられます。…入り、ますか?」
「も、もちろんです!」
そう言い切った後で、マリーネは思い出した様に顔を曇らせた。
「…でも、私唯一の身寄りだった祖母が亡くなったばかりで入学金とかもありませんし、ここは…来た時わかったかも知れませんけど古書店で、古書も譲る宛がないんです。どうすればいいのでしょうか…?」
不安そうなマリーネに、クリストンはニコリと笑いかけた。
「金銭面での心配なら要りません。貴女は、言ってしまえば半強制入学ですからね。本校がバッチリカバーします」
「太っ腹ですね…」
マリーネは心の底から驚いた。
「本の方は…そうですね、本校で引き取りましょうか」
「え、いいんですか!? かなり量ありますけど…」
「問題ありません。うちの図書室は広いですからね、しまう場所などいくらでもあるはずですから」
マリーネは、心から安堵していた。古書たちは、1冊1冊がマリーネにとって祖母との大切な思い出の品なのだ。
「あ、あの、1冊だけ自分で持ってていいですか?私の宝物なんです」
「構いませんよ。貴女の本なのですから」
”宝物“の本とは、人魚とアクアマリンの宝石にまつわる物語の本だ。マリーネが小さい頃、祖母が読み聞かせてくれたのはその本だった。
「あ、ありがとうございます! よかった…!」
満面の笑みになるマリーネを見て、クリストンは微笑んだ。
「君は本当に本が好きなのですね」
「はい。小さなころから本に囲まれてましたから」
「ふふ、司書のアンナが喜びますね。…アンナ・オーレンは学院図書室の司書なのです。親切で明るい人です。彼女も本が大好きでね、最近の子は本を読まなくなってる!としょっちゅうこぼしていますよ」
「そうなんですか」
魔法の勉強、広い図書室、たくさんの本、友だち___マリーネは、自分の気持ちがワクワクと盛り上がっているのを感じていた。
「さあ、準備をしてきてください。貴女は今はひとり暮らしのようですからね、今日の内に宿に行きたいのです」
「分かりました!」
言うが早いか、マリーネは2階へ続く階段を駆け上がった。