夕方の訪問者
「1人か…」
空がオレンジ色に染まる、午後5時。少女_マリアーネ・インディーコはぽつりと呟いた。
大好きな祖母、エレンとの最期の別れを済ませたのは、もう5日も前のことだ。エレンはマリーネ、ことマリアーネの育ての親であり、この家_古書店の主であった。ここに住んでいたのは2人だけだった。_だから、少女は、1人なのだ。本当の本当に。
「孤児院だろうな。やっぱり」
彼女は孤児院が嫌な訳では無い。…ただ、“あの目”を向けられるのが嫌だった。
学校の子たちの、同情に満ちた目。可哀想、可哀想、と。それだけが嫌なのだ。
祖母の他に身寄りのないマリーネが祖母の最期の式を行えたのは、祖母を慕っていた近所の大人のお陰であった。…しかし、いくら近所の人が親切といえど、子供ひとりを萎えるほどの余裕がある家もない。もはや選択肢などなかったのだ。手続きの仕方だったら、近所の人に聞けば済む話。迷う暇などない。とにかく、荷物の整理だけでもして置かなければ。
「自分の荷物だけでも片づけないと…」
そんな独り言を言いながらマリーネが2階に続く階段を登ろうとした時だ。
ドンドン、ドアを叩く音がする。
「おかしいな…お客さん? 外に休みの札立てといたのに」
そうブツブツ呟きつつも、無視するわけにもいかずドアに向かう
「…マント?」
除き穴から音の主を見ると、山高帽にマントという奇妙な出で立ちをしていたのだ。
_異国からのお客様かな…だとしたら、道に迷っているのかも?
だとしたら尚更放っておけない。急いでドアを開けた。
「はい、どちら様でしょう?…あいにく古書店は、本日休業なのですが………」
マリーネがそう告げると、マントの男は目を見開いた。
「マリアーネ・インディーコ様ですね?」
「は、はい」
「私はジェームズ・クリストン。王立アストラ学院の教師をやっております。君をお迎えに来ました」
山高帽を取ってお辞儀をするクリストンに、マリーネはただただ困惑していた。