初授業-箒の呼び出し方-
アストラ学院での初授業_それは、全寮合同の箒の乗り方についての授業。ちなみに、この学院の授業は基本的に寮ごとに受け、2つの寮が合同で受けるらしい。担当教師は事務員のルパート・コネリー先生だ。コネリー先生も学院の卒業生で、在学時は学年、学院1の箒乗りと言われていたらしい。
コーン、コーン…と特徴的な鐘の音が鳴る。それと同時に、後ろから誰かが来る気配がした。
「はーい、1年生並べー」
何だか気だるそうな声とともに箒に乗って現れたのは、噂をすればなんとやら、コネリー先生だった。
「…っていうか箒乗っていいのね、学院の中って」
ボソリとハンナが言うのを聞き、私は心から同感だと思った。…普通に危ないだろう、箒に乗っていたら。
でも、さすがは担当の先生なだけあり、着地はとても華麗である。
「おし、寮ごとに並んだな。いない奴は?…いないな。んー、じゃあ…キグヌスのロメーリング、号令かけて」
いきなり指名されて戸惑うトムだったけれど、上に2人在校生がいるからか、すぐに平常を取り戻した。
「気をつけ、礼!」
「お願いします!」
トムの号令に続いて、元気に挨拶をする。…でも、コルヴィスの生徒たちはキグヌスの生徒が選ばれたのが面白くないのか、嫌々という感じだった。
「はい、お願いします…っと。ロメーリング、ごくろーさん。まあ、今いきなり指名して号令掛けてもらったけど。箒でも何でも、魔法には”いきなり“がつきもんだ。特に、箒も杖と同じで生き物だから、こっちがちゃんと扱えねえと暴走しちまう。いかに対応するかがキモだからな、覚えとけよ」
気だるい口調に惑わされるけれど、これってもしかして、さっきトムに号令させたのも授業の一部、計算だったってことになるのだろうか?
「さて、箒に乗るって言ってもまずは箒を呼び出せねえとだなあ。今からそれを教える。よーく見とけよ…エラ、箒!」
コネリー先生がそう唱えると、いつの間にか校庭の端に置いていたらしい先生の箒が、先生目掛けて飛んできた!
「おお〜………」
「すげ…」
エラ…クリストン先生と杖売りの人も使ってたな。
「ポイントは、”自分の箒“を頭に思い浮かべて唱えること。じゃなきゃ他の奴のとか掃除用の箒が飛んできちまう。…言っとくが、俺が清掃員の仕事してる時、何回か俺の使っていた掃除用箒が生徒に呼び寄せられた。掃除用具箱の蓋を突っ切って箒が外に飛び出したこともあるからな」
なるほど…つまり、ただ箒と唱えると自分のものが飛んでこないからイメージを具体化する必要があるという事か。
「ま、俺が話してても仕方ねえし実際に呼んでみろ。いいか、具体的にな!」
先生の「散れ!」を合図に、1年生はグラウンドのあちこちに散らばった。
「エラ、箒!」
「ぎゃあっ」
「お前、どこに呼んでるんだよ!」
「“我が国の決め事がわかる本-法規1-”…ってこれ図書室の本じゃない!?」
呼び出した箒に顔面アタックされたり、友だちの目の前に箒を呼んでしまったり、ちゃんと物は呼べたけれど“ほうき”違いだったり…周りの人は皆、四苦八苦している。…私もやらないとなあ。
_私の箒、私の箒………
「エラ、箒!」
すると、私の手元には、なんと…箒が! ………でも、これ、まさか。
「…実家の掃除用の箒?」
後ろから覗き込むジャスパー(頭の痛みはだいぶ良くなったらしい)の察し通り、埃にまみれた古い藁箒は…
「どうしよう、向こうから呼び出しちゃったみたい…」
「おいおいマジかよ!?」
するとそこに、幸運にも? 先生が通りかかった。
「…インディーコ、お前それお前ん家の箒か?」
私があたふたしてジャスパーが呆れる中、コネリー先生はいち早く状況を察したらしい。
「仕方ねえ。それお前の自室にしばらく保管な。…それにしてもマイ箒持ってる奴がいたとはな」
「祖母のお古だったんですけど…まさかそっちが来るとは思いませんでした………」
そりゃあそうだわ、と言い残し、コネリー先生は去っていった。
「次はちゃんと“空飛ぶ”箒呼び出せよ、マリーネ」
あっさりと纏まった話に突っ込むかと思いきや、ジャスパーは何も言わなかった。…勘づいて気を使ってくれたのだろうか。
「うん、分かってるよー」
_ありがとう。
心の中で呟いた。
「エラ、箒!」
再び集中して呪文を唱えると、今度はきちんと、“空飛ぶ”箒が呼び出せた。