初めての朝
『_…マリーネ、マリーネ!! 早く、思い、出して………ねえ、忘れ、ないで…!』
_思い出す? 何を…? ごめんなさい。わからない………貴方は、いったい…誰?
トントン、トントン、トン、トントン…
「ごめんなさい…私、思い………」
トントン! …ドン!
「ごめんなさいっ、たあ………」
ゴン!! 鈍い音がして、頭にはズキズキとした痛み。…勿論頭とは、私の。
みゃあ〜
あ、猫だ。何でこんなとこにいるのかな。おうちに帰らなくていいのだろうか?
_………猫?
「猫!?」
そう。意識が覚醒した私の現在地は、王立アストラ学院、キグヌス寮306号室の二段ベットの上。そして、その部屋の扉のところには、何故か…猫。
「…誰の?」
そう、誰の猫なのか。それが今一番の疑問である。だって、野生の猫なわけ、ない…はず。
「ポピー? 貴女、また何かやらかしてないでしょうね?」
「みゃあ!」
ポピー…名前なのだろうか。それにしてもこの声、どこかで…
「…あら、おはよう。1年生の部屋だったの。貴女確か、マリアーネ、だったっけ?」
「リサさんおはようございます! あ、はい、マリアーネです! あの、でもマリーネで大丈夫です。皆そう呼ぶので」
「そう? じゃあ遠慮なく。…あ、この猫気になるでしょ? この子私の相棒なの。ポピーよ」
やっぱり、リサさんだった。確か6年生で、えらい人だったような。…それにしても
「相棒…?」
相棒、とはなんだろうか。
「あ、知らないか。魔法使いはね、自分の手助けをしてくれる相棒を持つことが出来るの。種族はなんでもいいんだけど、主に猫、フクロウ、ネズミかな。2匹持つことも出来るけど、お世話は大変ね。…ちなみにパヴォ寮で生物学の先生であるミルワード先生はカメレオンが相棒よ」
「か、カメレオン…っ」
どんな趣味をしているんだ、その先生は。
「まあ、変わっているのはその先生くらいだから。でも、生物学取るようになったら気を付けてね。毎時間出てくるから。カメレオンのレオン」
何があったのか分からないけれど………レオン、そういった時のリサさんの目は明らかに遠くの方にいっていた。
「あ、こんな話してる場合じゃないわ。マリーネ、あとの2人も起こしといてね!」
「はい!」
「あ、あと頭お大事にね? さっき凄い音してたよ」
「………はい」
何で分かったのだろうか。…恥ずかしい。
まあ、とにかく2人を起こそう。
「ひゃっほーい! 朝ごはんだーっ」
ベルのテンションがとても高い。さっきまで髪ボサボサで顔もひどかったのに。
「…切り替え早いのね、ベルって」
忘れがちだけれど、ベルと私はほんの数日前、私たちとハンナは昨日出会ったばかりなのだ。だから、そりゃ驚くはずだ。昨日あった人が朝からテンションの上げ下げ激しかったら。
「うん。私もあった翌日こんなテンションだったからびっくりしたよ…」
「それにしても、マリーネは朝強いの? さっきも起きてたし、なんか眠そうじゃないし」
「うーん、慣れてるから? うち古書店やってたんだけど、おばあちゃんが店主でね、朝早くから手伝いしてたの。ほら、歳をとると朝早く起きるとかいうじゃない? ちなみに、さっき起きてたのはね…」
と、朝のリサさんとポピーの話をした。…そこにいつの間にかベルも加わっていたけど。
「なるほどね」
「相棒かー。そういやうちの親もお母様がシャム猫、お父様がメンフクロウを連れてたな」
思いだすようにベルが呟く。
「ベルってご両親も魔法使いなの?」
「うん。お父様はあんま家にいないけど。魔法外務省で働いててさ。お母様はいつも家にいるんだけど」
…なんか、よく分かんないけど
「「ベルってお嬢様なんだね…」」
思わずつぶやくと、ハンナとかぶる。
「やっぱり」
「思うわよね?」
ハンナと顔を見合わせて、ね? と確かめ合う。
「もー! まあ、それっぽくないからよく言われるけど! それより、ハンナはどうなの?」
ぷーっ、と膨れつつもベルが聞いてくる。それを見てハンナは吹き出しそうになるのをこらえつつ(というように私には見えた)話し始める。
「うちは片方_ママが魔法使いよ。パパは銀行員。でも、ママは家じゃ全然魔法使わないのよ。ママも非魔法族の生まれらしくてね。今更魔法使う方が違和感あるわよ、とか言ってたの。パパと出会った頃なんて、魔法使いだとバレたら振られるんじゃないかってしばらく言い出せなかったくらいなのよ」
「そうだったんだ…」
「じゃあハンナはハーフってことね!」
「ええ、そうなるわ」
そんな感じで話していると、講堂に着いた。




