部屋
お風呂に入って、着替えて、談話室から続くらせん階段の右側を上る。…のは良いのだが
「ねえ、長くない…? 階段…」
一番後ろを上っていたベルが苦しそうな声を出す。…無理もない。だってもう5分近く上っているのだ。
「306よね。…今通り過ぎたのが216だから、もうすぐな筈よ」
そう言ったハンナはまだ余裕そう。何かスポーツでもやっていたのだろうか。
「220まであるんだよね。ていうか、階ごとに決まっているわけじゃないのになんで2とか1とかつけんのかなー」
…確かに。2階で202号室ならわかるけれども、ここの寮はらせん階段の両脇に交互に部屋に続くドアがある感じだ。
「まあ、あれよ。細かいことは気にするなってことじゃないの?」
ハンナがクールに返す。…適応力高いな。
「あ、ここじゃない!?」
ベルがはしゃいだような声を上げる。
「あ、ほんとだ!」
「306号室…間違いないわね」
らせん階段の向かって左にあるドアにかかったプレート。そこには、“306号室・ハンナ、マリーネ、ベル”の文字。
「…入るわよ?」
ハンナがドアを開け、その後に私とベルが続く。
「………おお」
「結構、広い…?」
「ベットだー!」
部屋は円形で、小さな窓もついている。奥の方の左右に2段ベットが置かれ、フカフカして気持ちよさそうだ。
2つの2段ベットの間には、小さな丸テーブルと椅子が人数分…つまり3つ。
「ねえ、トランク届いてるわよ!」
ハンナが声を発した方をみると、そこには確かに3人分のトランクが置いてあった。
「着替えとかタンスに入れちゃおうよ! ほら、そこの壁際にあるでしょ?」
「そうだね」
「明日からは忙しくなるものね」
長方形の小さめなタンス。とはいえ入れるものは私服がせいぜい2、3着着と下着、替えのシャツとかくらいだからちょうど良いサイズだ。
「あ、制服はあそこに掛けるみたいだよ」
私が指さした方にあったのは、3本の洋服掛け。帽子とかマントもあるし、そこに制服をかければ良いのだろう。
…と、ふと考えた。私たちは、宿題とかどこでやればいいのだろう?
確かに丸テーブルはあるけれど、3人で教科書や羊皮紙のノートを広げたら狭すぎるだろう。
「ねえ、これってどこで宿題とかするのかな?」
私がハンナとベルに問うと、2人とも表情を凍りつかせた。
「ま、まあまあ」
「また明日考えようよ! ね?」
「ええ! そうね!!」
「え、あ、うん…?」
…絶対今考えたくないって感じの表情だなあれは。ま、いいか。
「とにかく今日は寝よう! もう眠い…」
「そうね。あ、ベット誰がどこにする?」
「あたし寝相悪いから下がいいかなあ…」
とベル。あとは私とハンナだ。
「ハンナ、どうする? 私はどっちでも大丈夫だよ」
「そう…? じゃあ、ワタシも下でいい? 実は高いところあんまり好きじゃないの」
「うん、大丈夫よ」
そんな訳で私とベルは右側の上と下を、ハンナは左の下を、それぞれ使うことになった。
「じゃあ、ランプ消すよ?」
「はーい」
「オッケー」
ハンナがランプを消してくれて、部屋が暗くなる。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみなさーい」
「おやすみ〜」
瞼を閉じると、すぐにうとしてきて、私は一瞬で眠りに落ちた。




