アストラ学院のディナータイム
ハウラさん…不思議なひと………
雪の精霊はむしろあの人の方なのではないか…なんて思ってしまうほどに、神秘的な人だった。
「マリーネ!! 同じだ!!」
ガバッ、と人目も気にせずベルが抱きついてくる。
「わっ、ベル! ね、良かったね」
「なにベタベタしてんの、暑苦しい」
炎の使い手のくせに冷ややかな瞳を向けるジャスパーも、少し嬉しそうだ。
「これでトムだけだね」
「トムなら大丈夫でしょ」
「………悪運?」
ハンナの根拠の無いトーマスへの信頼? に、悪運? と聞き返すベル。…ベルも同じこと言われてたし、それさっきも言ってたし…
「やっぱり誰から見ても悪運強そうに見えるんじゃないか? 大丈夫だろ」
…悪運強そうって、喜んでいい部類の言葉なのだろうか。
「アリッサ・リプソン!」
壇上では、アリッサ・リプソンが呼ばれていた。_リア・ファネルと同じ雰囲気だ。金髪の巻き毛の横髪を、サイドでまとめている。
_コルヴィスから大歓声が上がった。やっぱり、当然というような態度だ。
その後も何人かがキグヌスにきて、先輩からの祝福を受け、同時に向かい側の椅子はどんどん無くなってきていた。
_そして、数分後。
「よ! 俺もキグヌスだったぞ!」
「ほんとに大丈夫だったわね…」
見事トーマスは、キグヌス寮の一員となったのだった。
「トム、お前もキグヌスだったか」
「さすがはロメーリング家の次男ね」
そこに声をかけてきたのは、背の高い男の先輩と、ハウラさん位の女の先輩。
「兄貴、姉ちゃん!」
「え?」
ベル、ジャスパー、ハンナ、ロバート、私の5人は一斉にトーマスを振り向いた。
「トムの兄弟って…?」
「もしかして、トムのお友だち? 随分短い間にたくさん出来たのね」
ということは、女の先輩は3年生で男の先輩は5年生か。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。オレはアンドリュー。5年生で、ロメーリング家の長男。よろしくな」
「あたしはレイチェル。3年生よ。ロメーリング家の真ん中で長女。よろしくね!」
私たちも順に自己紹介をする。
「マリーネ、ベル、ジャスパー、ハンナ、ロバートね。よろしく!」
「よろしくお願いします!」
なんていうか、雰囲気がトーマスとそっくり! さすがは家族…なのだろうか。
「晩御飯は遠慮せずに食えよ。遠慮してるとすぐになくなっちまうからな」
「じゃあねー」
先輩たちがそれぞれの椅子に戻るのを見届けると、ローレンス先生の咳払いが聞こえてきた。
「これで1年生は全員寮分けされましたね。…では、皆さんお腹も空いていることでしょうし、さっそく晩御飯にしましょう!」
ポンッ、と音がして、目の前にはたくさんの銀の大皿と取り分け用の人数分の小皿、木製のコップフォークなどなどが出てきた。
「では、頂きます!」
「頂きまーす!」
元気な声とともに、寮生皆が皿に手を伸ばす。(一応取り分け用のトングは使われていた)参戦しなければ!!
「う、取れない…あっ、………よし!」
トマトとレタスゲット!! 次はお肉かお魚だな…
「あら、マリーネ。食べれてる?」
「ハウラさん! それに、レイチェルさんも!」
主食を求めてキョロキョロしていると、ハウラさんとレイチェルさんが現れた。
「ハウラ、マリーネのこと知ってたんだ?」
「ええ、組み分けの後話したの。レイこそ彼女のこと知ってたのね?」
「うちの弟の友達なの。ね?」
レイチェルさんに同意を求められ、はいと頷く。するとハウラさんは驚いた様に目を見張った。
「どうしたの」
「…ロメーリング家の人ってどうしてこう、ルーナやヘリオスと接点があるのかしら」
ボソッとハウラさんが呟いた。
「ああ…そういやあたしもアンディもそうだもんね。ま、偶然でしょ」
不思議がるハウラさんを尻目に、当のロメーリング家のレイチェルさんは大して気にとめていない様子だった。
そして、そろそろ大皿に向かわなければ…と思い、折角なので先輩2人にどれが美味しいかお聞きすることにした。
「うーん、メニュー変わってたりするからなあ。あ、でもね、そこにあるお皿のお肉、めっちゃ美味しいから! 食べてみー」
ちょうど私たちのいる左斜め前辺りにある大皿を指さして先輩がおっしゃった。
「分かりました! ありがとうございます!」
「いいのよ。私たちこそ引き止めてしまってごめんなさいね」
「じゃあ、また寮でね!」
ハウラさんとレイチェルさんにお辞儀をして、私は例の皿のところに向かった。




