キグヌスのルーナ
トップバッターはジャスパー。私の斜め後ろで肩を揺らしたのが見えた。
「僕トップバッターかよ…」
ポツリとそうつぶやいて、壇上に上がる。
「さあ、杖で1回軽く触れて」
ボンッ
ジャスパーが杖で触れると、杖の木と似たような木で出来ている箒が現れた。
おおー、と歓声が上がる。
「今度は2回」
コンコン、と軽く杖で触れる。すると、杖の先から炎が飛び出し、それが水晶を包み込む。…そしてそれが晴れると、透明だった水晶がピュアホワイトに変化していた。
「うおおおお!!」
「ヘリオスを取ったぞ!」
歓声を上げたのは、向かって右側の長テーブルの寮。
「おめでとうございます、貴方はキグヌス寮です。…そして、素晴らしい炎魔法の才能をお持ちですね」
ローレンス先生が指を鳴らすと黒いとんがり帽子が現れた。
「こちらがとんがり帽子です」
巻かれたベルトの色は、爽やかな空色だ。
次に先生が制服のベストの胸ポケットのところに杖を当てると、銅の校章が現れた。
「最後に、とても大事なものです」
そう言って先生が水晶に杖を当ててブツブツ唱えると、どこからともなく銅でできた鍵が現れた。中心にはなにか宝石が光っている。
「これは後に配られる生徒手帳と、寮への扉を開くための重要なものです。そして同時に、ここの生徒の身分証明書の様なものでもあります。…大切にするのですよ」
「…はい!」
壇上から降りたジャスパーは、先ほど歓声を上げたキグヌス寮の長テーブルに付いた。
その何人か後に呼ばれたハンナ、ロバート・フランクはどちらもキグヌス寮で、ジャスパーとハイタッチをしていた。その何人か後のリア・ファネルは茶髪のショートヘアの美人だったが少々気が強そうだ。コルヴィスに決まった時も“当然ね”って感じだった。(向って1番左のコルヴィスのテーブルからは大歓声が上がっていた)
その次のダニエル・ゲンズブールはアクイラ寮。最後に深々とお辞儀をして、真面目そうだった。アクイラの右から2番目のテーブルからは拍手が巻き起こった。
ジャスミン・ハリセイはパヴォ寮。…気のせいだろうか、どこよりもパヴォ寮が光を放って見える。華やかだし、美男美女も揃ってるし………
なんてことを考えている間に、私の番が来た。
「マリーネ・インディーコ!」
深呼吸を繰り返し、心臓を落ち着けつつ壇上に上る。
「緊張しなくても大丈夫です。魔力を見ているだけですから。さあ、杖を」
コン、と杖を当てる。すると、杖と同じ木で出来た箒が飛び出した。
「次は、2回」
再び深呼吸する。そしてそっと2回、杖で水晶に触れた。
ザザザザアアッ、とものすごい勢いで水が溢れだし、何の前触れもなく消え去る。…そこには、ピュアホワイトに色を変えた水晶が。
「よっしゃあああ!!!」
「ルーナだぞ!」
私の所属する寮_キグヌス寮から大歓声が巻き起こる。
「貴女はキグヌス寮です。強い魔力ですね。強力な水魔法の使い手になるでしょう。使い方を誤らなければ素晴らしい魔法使いになりますよ」
「あ、ありがとうございます!!」
そして、ジャスパーの時と同じ空色のリボン(どうやら女子はリボン、男子はベルトの様だ)がついたとんがり帽子を受け取り、校章をつけてもらう。六芒星がデザインされていた。
そして、先生が水晶に杖を当てて唱え始めた。…あの“鍵”を取り出した。
鍵には校章と同じ六芒星がのデザインで、真ん中にはパールが埋め込まれている。
「鍵です。大切にしてくださいね。…さあ、キグヌスのテーブルへ行きなさい」
「ありがとうございました!」
ローレンス先生に一礼して、キグヌス寮のテーブルに小走りで向かった。
「マリーネも同じだったわね!」
「良かった。知らない人ばっかの寮だと心細かったから…」
「これで残るはトムとベルだけか」
女子2人で喜んでいると、ジャスパーがポツリとそう言った。
「ここまで来れば皆一緒がいいよねえ」
のんびりとした口調でロバートも言う。
「でもあの2人…悪運強そうだし。大丈夫じゃない?」
真顔でハンナがそんなことを言うものだから、思わず吹き出してしまった。
「イザベル・モルーガ!」
そんなことを話しているうちに、ベルの番が来た。
箒を出した後、ベルが2回水晶に触れる。すると、ベルとローレンス先生の周りをミルク色の風が包み込んだ。
「さすがは風精霊のルーナね…」
そんな声が、唐突に聞こえてきた。思わず振り向くと、その声を発した人ら人物とバッチリ目が合った。
「あら、貴女は確か…マリーネね。水精霊のルーナの」
プラチナブロンドの髪をハーフアップにしておでこも出しているこの人は…気品あふれる雰囲気だ。
「え、なぜ、私がルーナだと?」
「見ていればわかるわ。ルーナやヘリオスは寮分けの水晶のテスト_クリスタルテストの時属性魔法の威力がケタ違いなのよ…ヘリオスと言えば、そこの茶髪の彼は炎の精霊のヘリオスね」
「気が付かなかったです…あの、所で貴女は………?」
そう私が尋ねると、その人はまあ、と驚いた。
「私ったら自己紹介がまだだったわね。…私はハウラ・ネージュ。3年生よ。名乗るのが遅くなったこと、許してね?」
「い、いえいえっ!」
先輩_ハウラさんに謝られてしまったものだから、首をブンブン振って大丈夫だとアピールする。
「うふふ、ありがとう。…ああ、言い忘れていたけれど、私もこう見えてルーナなのよ。」
「え…っ?」
私が驚いていると、ハウラさんの肩に真っ白でふわふわな髪の精霊が乗った。
「彼女はキオーシア。雪の精霊よ」
じゃあ、つまりハウラさんは………
「…雪の精霊のルーナ」
そう私がつぶやくと、ハウラさんは手のひらから小さな雪の結晶を作り出した。
「魔法使いは基本的に、杖なしで魔法を使うのは不可能なの。でも、ルーナやヘリオスは自分を守護してくれている精霊の力を借りて、その精霊の属性の魔法なら杖なしで使えるのよ」
「へえ………」
「詳しい事はまた、クリスさん_6年生で氷の精霊のヘリオスの人が説明して下さると思うから」
ほら、彼女_ベルが来たわよ。と言いながら、ハウラさんは別の集団のところへ引っ込んでいった。




