空の旅
ストンッ、と軽い音を立てて私たちは森の入口に降り立った。
「あっ、少しなれたかも…」
やはり、2度目だからだろうか。以前のように尻餅をついて目を回すこともなく着地ができた。
「あたしも1回目のとき、柱に頭ぶつけちゃってさ…これでたんこぶ出来てないのが不思議なくらいだってハーブさんに言われちゃったよ」
苦笑いしながら頭をかくベル。彼女も同じような感じだったらしい。
「では、森の奥に向かいましょう。そこから馬車に乗って学院へ向かうのです。1年生は早く行って色々しなければなりませんからね、少し急ぎましょうか」
「クリストンさ…クリストン先生はどうするのですか?」
そう、もうクリストンさんじゃない。クリストン先生だった。
「私たち教師は森で待機して生徒たちが全員乗り込んだのを確認するメンバーと学院に早くから泊まり、新学期の準備をする係に分かれます。私やルベレットは前者の係ですから、次に会うのは入学式でしょうね」
「そうなんですか」
少しさみしい気もするけど…学院で会えるからね。しんみりしてないで馬車に乗らなくては。
「つきました。ここがマナの森奥地、馬車乗り場です」
そこかしこに、黒いローブをかぶった魔法使い。とんがり帽子をかぶっているのは、おそらく2年生から上_私たちの先輩方だろう。
「おーい、マリーネ、ベル!」
「ジャスパー!」
「ルベレット先生も!」
さあどうこの人ごみを掻き分けようかと考えていたその時、ジャスパーとルベレット先生が現れた。
「ルーナのお2人、昨日ぶりかしら? ちょうど良かったわ。1年生はまとめていかせた方がいいからあなた達を探していたところなのよ」
「そうだったのですか。…馬車はここの1番奥です。ミスター・トナードが受付をしていたはずです」
トナード先生…男の人なのか。
「じゃあ、いってらっしゃい。向こうでまた会いましょう」
「はい!」
「失礼します」
「行ってきます!」
私とベル、ジャスパーは馬車を目指した。
「あっ、あれじゃない? 今同い年くらいの子が3人乗ってったやつ!」
ベルが指さす方向には、確かに馬車があった。
「そうみたいだな」
「定員何人なのかな…早く行かなきゃ乗り遅れちゃうかも」
トランクがかなり重かったけれど、先頭を歩くジャスパーに続き、私とベルも遅れないように急いだ。
「すみません! まだ、これ乗れますか?」
ジャスパーが声を上げる。
「おう! あんたら1年だな? よし、じゃあ、さっさと乗った乗った!! あんたらでちょうど6人、マナの森から出る1年は全員だ」
マナの森から? という事は、他にも馬車乗り場があるってこと?
そんなことを考えつつ、馬車に乗り込む。
「大丈夫か? ほら」
「あっ、ありがとう」
トランクを上げるのをジャスパーに手伝ってもらい、何とか3人乗りこめた。
「じゃあ出発だ。昼飯は持ってるな? 適当な時間に食っておけ」
その言葉を最後に、グングンと上へ登っていく馬車。_高い!
「良い旅を!」
トナード先生の声がかすかに聞こえた。
「ねえ、せっかく同い年で同じ馬車なんだし自己紹介しようよ。あ、あたしはベル! ベル・モルーガよ」
早速自己紹介を始めたベルに続き、私とジャスパーも名乗る。
「僕はジャスパー・アグレインだ。よろしく」
「私はマリーネ・インディーコ。よろしくね!」
すると、薄茶の髪の男の子が口を開いた。
「俺はトーマス・ロメーリング! 気が向いたらトムとでも呼んでくれよ」
次に話し出したのは、ハニーブロンドの髪を持つ女の子。
「ワタシはハンナ・フランクよ。」
「ボクはロバート・フランクだよ。」
そこで、ん? と思った。もしかして、この2人………
「あの、ハンナとロバートは双子なの?」
「ええ、そうなの。ワタシとロビンは正真正銘双子よ。しかも一卵性のね」
「道理で似てるわけだ」
ジャスパーが感心した様につぶやくと、
「だろう? 俺はこの双子とマナの森近くの駅まで乗る汽車で会ったんだけどさ、ソックリで驚いたよ」
と、トーマスが付け加えた。
「そっちの3人はどこであったの?」
ロバートが遠慮がちに聞いてきた。
「僕たちは学用品を買ったアルヒ商店街ってとこさ」
「あたしとマリーネはたまたま同じ宿だったんだけどね。制服仕立ててもらって受け取る時に偶然会ったのよ」
「それで、こっちに来た時もたまたま一緒になったから一緒に行動してるの」
三人で代わる代わる説明をすると、質問したロバートは「へえ~」と素直に感心していたようだった。
それから、お互いのことや学院で楽しみなことを話し合ったりしているうちに
ぐう〜
と盛大にお腹の音が鳴った。
「ちょっ…う、う~」
わかりやすく真っ赤になるベル。どうやらベルのお腹の音だったらしい。
「えーと、お昼にしようか?」
戸惑いがちに私が提案すると、他の皆も頷いた。
最初は、「お昼!?」なんてびっくりしたけれど…そういえばハーブさんから出る前にサンドイッチを貰ったんだった。
「皆どんな感じのやつ?」
トーマスが皆を見回す。
「あたしとマリーネはサンドイッチ!」
「僕も同じだ」
「ワタシとロビンはドーナツね」
「トーマスは?」
「俺はな、ホットドック!!」
なんとなく流れでお弁当を交換しあったりして、楽しいお昼を過ごしていた。
「そういえばさ、ここって全寮制じゃんか、4つの寮に分かれるって知ってたか?」
フランク家のドーナツを片手に、トーマスが投げかける。
「えっ、4つもなの?」
「寮に分かれるのは知っていたが、そこまでとはな…」
僕も色々調べたつもりだったんだけど。と、ジャスパーが落胆する。
「落ち込む必要は無いぜ。だって4つにわかれるなんて入学前のやつは知るわけないし」
なんてことない表情でそう言うトーマス。…いやいや? 少し矛盾してないか?
「トーマス、話飛ばしすぎじゃない? ベルがショートしそうな顔してるよ」
横を見ると、ベルの頭の上には疑問符が大量発生。
「あ、わりい。俺さ、学院に兄貴と姉ちゃんが1人ずついるんだよ。5年と3年に1人ずつ」
だから学院のこと、少し詳しいわけ。そう付け加えた。
「…なんだ、そういう事だったの」
ベルが納得した様子で呟いた。
「びっくりしたよ、話矛盾してたから」
「いや、そういう事は先に言ってくれよ…」
私たちが口々に言う。…とそこで、ハンナとロバートはけろりとしていることに気がついた。
「もしかしてハンナとロバートは知っていたの?」
「そうなの!?」
私とベルが問い詰めると、ハンナがストップをかけた。
「ごめんって。まあ、ワタシらも初めて聞いた時は頭がハテナになったけど。だからアレ、同じよ!」
「というかトーマスが言葉足らずなんだよ」
今度はトーマスが責められる流れに。
「本当に悪かったって〜!」
そんな感じで笑いあっている間に、学院が近づきてきた。
「ねえ、もうすぐじゃない?」
ハンナが外を見ながら声を上げた。
「………本当だ!」
私も馬車の窓から外を見て、思わずそう返す。
「すっごく綺麗!」
私たちの乗る馬車は、学院のすぐ真上に来ていた。そこから見る学院の、美しさといったら!
白い壁に紺色の屋根のついたお城のような校舎。一番立派な塔は金の装飾、その右は銀の装飾、左は銅の装飾が施されている。そして、その塔を囲むようにしてそびえ立つのは4つの別の塔。色の違う旗が、それぞれの塔のてっぺんではためいている。そして、その4つの塔と中心の塔の間には通路があった。
奥の方には森が見え、森と塔の間にはビニールハウス? のようなものがある。
その他にも沢山建物がある気がするけれど…認識できたのはこれだけだった。
「広い…」
「大きいな…」
トーマスも、実際に目にしたのは初めてだったのだろう。目を見開いていた。
「お、そろそろ地上につくっぽいぞ」
ジャスパーの声に、各々が我に返ったように身の回りを簡単に整理し始めた。
_いよいよ、学院生活の始まりだ!!




