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最後の部活


 木曜日、この日も雨は降り続いていた。


 部室には当然太一一人しかいない。

 雨音だけが部室に鳴り響いている。


(これで良かったんだ)

 太一は椅子にもたれかかり、何もない天井を見ながら考える。

(最初から一人で戦う予定だった。あの二人が居たのがイレギュラーだったんだ。)

 本を読んでも全く面白くなく、時間も潰せはしない。

(明日の対決前に、あるべき姿に戻ったんだ......)

いつもと同じはずの部室がやけに広く見える。

 

 本棚近くの椅子に、小木の姿が浮かぶ。

 革命部が何か大きな活動をするときは、いつもあいつが真っ先に提案をしていた。

 当たり前のようにここに来たあいつには既に居場所があった。

 ならば何故ここに来て、何を思い過ごしていたのか。

 もうそれを知る術はない。

 彼はいなくなったのだから。

 


 向かい側の椅子に、黒木が読書している姿が浮かぶ。

 興味が無いと言いながらも、いつも真剣な表情でオカルト本を読んでいた。

 今思えば、そこに亡き親友の思いの残痕を探していたのだろうか。

 彼女は親友がかつて過ごしていたこの部室で何を思っていたのか、確かめる術はもうない。

 彼女はもういないのだから。



 もう誰も居ない。

 かつてこの部室を使ってきたオカルト研究会の部員も、白井美樹も、小木も、そして黒木さえも。

 太一一人だ。そしてそれは自ら望んだことだ。

 

 雨が激しくなる。

 天気予報では今日の夜まで降り続くらしい。

 帰りがめんどくさいな、と太一は呟く。

 だが誰も答える者はいない。

 言葉は沈黙に飲み込まれる。


「............」


 大声で何か叫びたくなるが何故それほど気持ちが不安定であるのか、その理由が見当たらない。

 戦いを前にした緊張がおかしくしているんだと自分を納得させる。

 とりあえず一息つくべく、コーヒーを用意する。


「マズイ......」


 いつもは美味しかったはずのコーヒーが、ただのどす黒く苦いだけの液体に思えた。


「なんだよこれ......、黒木は相当上手く淹れてたのかな......」


 その名を口に出した瞬間、何かに押しつぶされそうになる。

 太一は必死に頭を振り払い、頭からその名を締め出した。

 自分で淹れたコーヒーを一口で飲み干す。

 その不味さで、太一の頭はリセットされる。


「チッ......舌治ししないと」


 何か美味しい物は無いか部室内を探しまわる。

 初日にだいぶ買い置きしていたカップ麺もおかしも、ほとんど無くなっていた。


「......」


 そこから何とか一つカップ焼きそばを見つけだし、作り始める。


「......味しねぇよ......」


 作り方は間違っていないはずだが、全く美味しく感じられなかった。

 

「どうなってんだよ、ホント......」


 部室内のソファーに横になる。

 その匂いから、訓練が終わりの記憶が鮮明に呼び起こされる。


「やめてくれよ......」


 部室の至るところに、思い出が溢れている。

 その思い出が、太一を苦しめた。


「俺は間違ってなかっただろ......」


 つい胸の内にある言葉が漏れだした。

 もとから明日には解散するはずであった部活である。

 しかし、それを崩壊させたのは紛れもなく太一であった。

 小木も黒木も、太一が部室から追い出した。

 

「っ......!」


 だが、元々二人は必要としていなかった。

 一人で戦うはずだった。不要であったものを切り捨てた、それだけに過ぎないはずだ。

 一人で戦うこと、それが太一の元々の望みだった。

 だから今のこの状況は、自分で望み、自分が生み出した物のはずだ。

 

「......だめだ、今日は帰ろう」


 自分が望みを叶えたこの空間が、息苦しかった。


 太一は帰宅し、遂に明日へと迫った戦いに備えた。


 

 ――そして運命の日が訪れる。

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