黒木沙羅 -3-
四月、黒木は二年生になった。
美樹とは違うクラスになったが、相変わらず仲は良かった。
しかしこの時期から、徐々に平和な日常が崩れ始めた。
オカルト研究会は先輩が完全に卒業し、後輩の勧誘にも失敗したことで、美樹が完全に一人になった。
そして美樹とクラスが別になったことで、彼女と会う時間が減ってしまった。
新しいクラスに、美樹は上手く馴染めていないようだった。
これらのことから、彼女は徐々に孤立していった。
そして恐らく孤立により、徐々に美樹の精神は衰弱していった。
黒木もなるべく美樹と会う時間を多く取るようにしたが、それでも孤独が徐々に彼女の精神を蝕んでいった。
「ねぇ沙羅、神様っていると思う?」
美樹と数日ぶりに一緒に帰り道を歩いていると、唐突にそんなことを聞かれた。
「どうしたの? 突然」
以前から美樹はオカルトには興味があったものの、宗教の話をしてきたことは無かった。
「いや、神様ってホントに居るのかなって思って。」
「居るなら、いつ私のことを救ってくれるのかなぁ......」
そんなことを言って、美樹は静かに泣き始めた。
「美樹、何かあったの? 悩みがあるなら何でも聞くよ?」
そう言ってみるものの、美樹は大丈夫と言うばかりで、悩みを打ち明けてはくれなかった。
美樹が弱っていってる、それは分かっていても、どうすればいいのかが黒木には分からなかった。
しかし、そうして何か解決策を探す間にも、美樹の精神はすり減っていく。
黒木は美樹があれほどまでに弱っている原因を探ってみた。
すると、美樹がクラスで嫌がらせを受けているという噂があるようだ。
しかしその犯人を見つけることは出来なかった。
そして美樹に直接聞いてみても、言葉を濁されるだけであった。
結局その問題を解決することは出来なかった。
日増しに黒木の胸にも不安が増していった。
下校前には必ずオカルト研究会の部室によるようになっていた。
しかし、大抵美樹はいない。
美樹の相談に乗ろうにもその当の美樹に徐々に会えなくなっていった。
電話しても中々つながらない。
状況は悪化の一途を辿っていた。
そして夏、その日が訪れてしまった。
放課後、いつものように美樹に電話するがつながらなかった。
美樹のクラスにいてもそこには居ない。
ならば思い当たる場所は一か所だけだった。
「ここにもいない......」
オカルト研究会の部室。そこにも居なかった。
「どこにいるのよ......美樹......」
声が震える。
もう一度電話しようとしたところで後ろから声が聞こえた。
「あれ......沙羅?」
振り返る。そこには探していた美樹がいた。
しかし、その姿は変わり果てていた。
顔は腫れあがり、制服はボロボロになっていた。
いたるところに生傷が見える。所々に赤いシミが出来ていた。
「美樹......どうして......」
あまりにも痛々しい美樹の姿に衝撃を受け、黒木は彼女に駆け寄り抱き着いた。
「誰にやられたの? 私に相談してよ......、私はそんなに頼りない?」
涙があふれ出る。
「沙羅......、気にしないで、大丈夫だから」
「大丈夫じゃない!」
つい声を荒げてしまう。
「こんなの、大丈夫なわけないよ! 誰かから虐められたの?」
美樹は目を逸らす。それが肯定を意味すると黒木は知っていた。
「誰? 言ってよ! そいつ、ただじゃおかないから」
「沙羅」
美樹が優しく言う。
その目には涙が浮かんでいた。
「ありがとね。でももう大丈夫だよ」
「でも......」
黒木は何か言おうとしたが、続く言葉が出てこなかった。
(何か言わなきゃ、このままじゃ美樹が......)
しかしいくら探しても、適切な言葉は見つからない。
すると、美樹は腫れた顔で、ニッコリと笑って言った。
「それじゃあ、また明日ね」
――それが、黒木が聞いた美樹の最後の言葉となった。




