過去 -2-
それから毎日、太一は浅井と二人で帰った。
最初は無言なことが多かったが、日が経つにつれて徐々にお互いの身の上などについても話すようになった。
どうやら浅井も親とは上手くいってないらしい。
両親が二人とも教師で夜遅くまで仕事をしている為、親と会う時間は短い。そのくせルールや規則にはとても厳しい最悪な親だ。彼らに自分の人生を壊された。
浅井は親へのそんな愚痴をよく口にした。
太一も共感できる部分が多かった。
次第に太一は浅井にシンパシーを感じるようになった。
浅井と共に帰るようになって数か月、それはとても平和な期間であった。
太一も"力"を手にし、それは日ごとにほんの少しづつではあったが増していった。
浅井を虐めていた人間も、太一が浅井と共に下校するようになってからはターゲットを変えたのか、浅井に危害を加えなくなった。
(上手くいったな......)
太一は作戦の成功を確信した。
(この調子で徐々に友達を作っていけばいい......)
そう思っていた。
――しかしそれは幻想だった。
ある冬の日、それは雪が多い日であった。
太一はその日、職員室に用事があったため、浅井と共に帰ることが出来なかった。
「そんじゃあ今日は用事あるから先帰っていいよ」
「分かった。それじゃあ明日な」
その日はそこで浅井と別れた。
太一が異常に気づいたのはその日の夜だ。
(あれ......"力"が消えてる)
家の階段を上る途中、ここ数日に比べて足が重くなっているように思えた。
(気のせいか......)
その日の夜はそのまま眠りについた。
翌日、太一は学校に登校すると、浅井の姿はそこには無かった。
(やっぱりおかしい......何があった......)
ここまで順調であったはずの計画の乱れに太一は焦った。
二時間目が終わった時、浅井が教室にやってきた。
だがその浅井の顔はパンパンに腫れていて、所々に傷の跡が見られた。
まさか浅井がもう一度ターゲットになるとは思っていなかった。油断していた。
「浅井、誰かにやられたのか?」
太一は浅井のもとに行き、そう尋ねる。
しかし、浅井はそれが聞こえているはずにも関わらず、太一の言葉を無視した。
浅井は太一を素通りして、クラスのリア充グループの元に向かった。
そこでどうにか必死に会話に混ざろうとしていた。
(どういうことだよ......)
太一は訳が分からなかった。
「おい浅井、お前どういうことだよ?」
太一は放課後、浅井を強引に呼び出し、自分を無視した理由を問いただした。
浅井は興味なさげに太一に答える。
「うるせぇなぁ。別に俺がどうしようが、誰と関わろうが勝手だろ」
「それはそうだけどさ......、なんだよ突然」
太一の言葉に、浅井は笑う。
その笑い声は酷く耳障りだった。
「突然って......、突然友達になろうと言ってきたお前が言うのか」
「良いよ。特別に教えてやるよ、俺がお前を無視した理由」
そう言うと、浅井はにっこりと笑いながら太一の心をナイフで突き刺した。
「俺気づいちゃったんだよね、お前と友達になる理由なんて一つも無いってことに」
「お前みたいに一人の"力"の無い奴と友達になったところで得られる"力"なんてたかが知れている」
「それよりも"力"のある奴と友達になった方が得られる"力"はずっとずっと大きいんだよ。"力"の大きい奴の友達になればその周りにいる人間とも仲良くなれるからな」
つまり、と言葉を繋ぎ、浅井は太一にとどめを刺す。
「お前みたいな"力"の無い人間と関わる時間はないんだよ。そういうことだから、じゃあな」
そう言うと浅井は何処かへ立ち去って行った。
太一は浅井の言葉の何処にも論理の綻びを見つけられなかった。
確かに自分と仲良くしても得られる"力"は一人分だ。どれだけ深い仲になったところで、一人から得られる"力"
には限界がある。
それに対して"力"のある者=リア充達と仲良くなれば、その周りにいる人間ともつながりが生まれる。例え多少浅い関係であったとしても、一人から得られる物より大きな"力"が得られる。
限られた時間の中で、どちらの人間と付き合うのが効率が良いか、答えは明白であった。
つまり......
("力"の無い俺は、友達を作ることは出来ないんだ......)
その日から、太一は再び一人に戻った。
浅井はクラスのリア充達と関わろうとし続けた。
しかし、その試みはどうやら失敗に終わったようだ。
ある日を境に、浅井は学校に来なくなった。
そしてそれから数日後、クラスの担任からそれは伝えられた。
浅井興毅は自殺した。家の中で首を吊ったようだ。
この世界に希望は無い、それが彼の遺書に残されていた言葉だった。
(そうか、お前のやり方もだめだったか)
"力"を持つ者に近づくことで"力"を得る。
そのやり方も上手くいかないことを、浅井は自らの死を持って示した。
それはかつて友達であった人間からの餞別なのかもしれない。
つまり......。
(あぁ、俺はもう"力"を手に入れることは出来ないんだな)
この世界に希望は無い、浅井の遺書に残された言葉を思い出す。
それが、この世界の真理であった。




