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革命部活動報告 合宿 ー2ー


「それじゃあ行ってくるから」


 土曜日、合宿のための準備を整えて家を後にしようとする。


「あら太一。どこに行くの?」


 玄関から母が出てくる。

 まさか返事があるとは思っていなかったため少し驚く。


「今日から合宿。明日帰る」

「合宿ってあなた部活入ってなかったでしょう? 何の合宿なの?」


 思ったよりしつこく聞いてくる。

(いつもは俺のことなんか気にしていない癖にこういう時だけ......)

 心の中で毒づく。


「母さんには関係ないだろ。色々あんだよ」

「そう。なら気をつけていってらっしゃい」


 ようやく母親から解放され、家を後にする。

 見送る母の顔に見えた微笑みは願望が見せた錯覚であったのだろうかと自

問しながら、太一は集合場所へと向かった。



「遅いでイッチ」

「これで全員揃ったわね」


 集合場所には既に二人共揃っていた。

 小木はキャンプセットなどの宿泊に必要なものをすべて持っているため随分と大荷物であった。

 大して黒木はいくつか小木に比べれば持っている荷物が少なく、軽装備である。

 そして当然二人とも私服である。小木はともかく黒木の私服姿は、見るのは二度目であるとはいえいつもと違う印象を太一に与える。その姿に太一の胸は高まった。

 しかしその高揚を表に出すこともなく太一は言う。


「いや、時間通りだから。別に遅れて無いし」

「せやな。まあ揃ったんやし早速山に向かおうか」


 小木の言葉を合図に山への移動を始めた。





「なんかすげぇな、山って。雰囲気が学校と全然違う......」


 太一は他の二人と共に山道を進む。

 目的地は山の中腹、そこにテントを設営し、その周辺で訓練を行う予定である。

 その道中の山の雰囲気に太一は心を奪われた。

 

 当然のことながら周辺には木と、草と、落ち葉だらけである。

 歩くたびにパリパリという音と共に落ち葉がひび割れる。

 かつて太一の目に移った赤は、いつの間にかくすんだ茶色になっていた。

 時はゆっくりと、だが着実に進んできたことを実感する。

 途中で倒木を見つける。倒木からはコケと無数の草が生えている。

 生命のたくましさの象徴としてよく出てくる構図だ。

 死した命が新たな命を育む。

 生物界はそうして時代の担い手が受け渡される。人間社会も本質的には変わらない。

 古き体制を打破した先に新たな体制が生まれる。その体制の担い手になる、と太一は再び決意を固める。

 葉の間から差し込む日差しはキラキラと輝いている。

 世界に遍在している光も、こうして木々の間から覗き見れば、キラキラと輝いて見えた。


「たまには自然の中を歩くのも良いわね」


 黒木も周りの景色にを眺めながらつぶやく。

 どうやらこの風景に満足しているようだ。


「別にたまにでなくても、毎週末ここに散歩に来てもええんやで?」


 小木がニッコリ笑いながら黒木に言う。


「毎週はちょっと。虫とかもたくさんいるでしょうし、たまにだからいいのよ」


 黒木は幻想的な風景とは対照的な現実的な問題により、小木のその提案を却下した。

 人は幻想には生きられない。現実に生きねばならないのだ。



 それから十分程歩き、目的の場所にたどり着く。


「よっしゃ着いたで! ここにテントを設置するんや」


 小木は荷物を降ろしそこからテントを取り出すと、テキパキと設営をし始めた。

 その手際の良さに、太一は思わず黒木と顔を見合わせて感心した。


「二人共なに突っ立って見てるんや。ちょっとは手伝ってや」


 太一は黒木と共に小木のもとに向かい指示を仰いだ。

 力が必要な作業は太一の得意分野だ。小木の指示のもと、役割分担をしながらテントを作ると、思ったよりもあっさりとそれは完成した。


「よっしゃ二つともできたで~。二人ともお疲れさまや」


 小木の合図とともにいったん休憩となる。


「はい太一。あと小木君も」


 黒木からコーヒーを受け取る。どうやら魔法瓶に入れてきたらしい。

 山に来てまでいつもと同じようにコーヒーを飲むというのはどうにも奇妙なものであるが、これはこれで良いのかも知れない、そんなことを考えながらコーヒーを啜る。

 いつも通り、熱くて苦くて美味しかった。

 

 ひと段落したところでついに訓練の始まりだ。


「よし、始めるか」

「せやな。そんじゃあこれ使ってや」


 そう言うと小木は太一に釣り竿と餌、バケツを渡した。

 釣り道具......?


「いやこれどういうことだよ?」


 呆気にとられ小木に尋ねるが、小木は真顔で答える。


「イッチは釣りのやり方も分からんのかいな?」

「そういうことじゃねぇよ。なんで釣りすんのかってことだよ!」

「なんでってそりゃ訓練だからやろ」


 まるで何が問題なのか分からないといった表情だ。 


「釣りがなんの訓練になるんや! やべぇ口調うつった。何の訓練になるんだよ!」

「分からんのか、イッチ?」


 そう問う小木の目は真剣だ。

 太一はその眼差しに怯んでしまう。

 釣りがなんの訓練になるのか、真面目に考えてみるが分からない。

 それを見て、小木が重々しく告げる。


「精神や」

「へぇ?」


 思わず変な声が出てしまった。


「釣り糸を垂らし、静かに獲物を待つ。中々獲物が食いつかなくてもじっと我慢するんや。獲物が食いついたらタイミングを合わせて獲物を釣り上げる。これは戦いにも通じると思わんか?」


 言われてみればそんな気がするが、小木の勢いに騙されている気もする。

 太一が悩んでいると、小木がさっさと始めるぞと言わんばかりに太一の背中をたたいた。


「漫画でも釣りで精神鍛えてるんやから間違いあらへん。ほな、始めよか」

「釣り......、面白そうね。小木君、釣り竿はまだあるかしら?」


 黒木が話しに混ざる。どうやらやる気満々のようだ。


「そう言うと思って三人分用意してるで。」


 小木は新たに釣り道具を2セット取り出す。

 やけに準備が良いことだ。


「ありがとう。じゃあ早速始めましょう。小木君、案内してくれるかしら」


 黒木の言葉と共に、小木が案内を始める。

 もう太一の意思はお構いなしのようだ。仕方なく太一も二人の後に続いた。



 こうして、合宿仕様の特別訓練(?)が始まった。


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