初めての決闘
「てめぇが赤城太一か?」
明らかにガラが悪い少年が太一を睨めつけていた。
その少年の目からは太一に対する敵意が見て取れた。
太一はその少年に見覚えがあったが、誰であったか思い出せなかった。
「挑戦者か? 良いよ、受けてやる。それでお前は誰だ?」
「北原亮! レオ兄の仇は取らせてもらうぞ!」
あぁ、と太一は納得した。
(どこで見たかと思えば坂東の子分だったのか)
「坂東の仇を取るって何? マジで言ってんの?」
「たりめぇだ! てめぇの所為でレオ兄や皆がどうなったか、忘れたとは言わせねぇぞ」
こいつ馬鹿だな。太一は笑みを浮かべながら言い放った。
「へぇ、子分のお前が一人で勝てるとか思っちゃってるんだ。お前らの仲間を全員倒した俺に」
北原の顔がみるみると赤く染まっていったが、言葉をつなげた。
「大体さ、悪いのはお前らじゃん。俺も先に手をだされたし、自業自得だよな」
「それにお前らって普通の人間にも敵わない雑魚だよな。前も女一人にビビってたし。そんな奴がよく俺に挑んでくるよな。身の程を知れよ」
そこまで言うと、北原はもう我慢出来無かったのか、近くの椅子を持ち上げて襲い掛かってきた。
しかし、椅子が振り下ろされることはなかった。
後ろから誰かが北原の腕を掴んでいた。
「そこまでにしなさい。それはルール違反よ」
北原の後ろから聞こえたその声に、太一は聞き覚えがあった。
「黒木? なんでここ居んの?」
思わず太一は声を上げてしまった。全く予想できないしていなかった。
「黒木も俺に挑むのか?」
しかし彼女から返ってきた答えは違った。
「あなたに挑む気は無いわ。ただ、あなたが1対1をするなら審判が必要でしょう。その役をやろうと思って」
もはや太一は言葉を出すことも出来なかった。彼女が何を言っているか、訳が分からなかった。
「"選挙戦"を想定するなら審判は必要でしょう? 分かったら早く移動しましょう。日が暮れてしまうわ」
あなたも問題ないでしょう?と黒木は北原に同意を求めた。
仕方ねぇ、と北原は吐き捨てながらも黒木に従った。
(どういうことだ?黒木は何が目的なんだ?)
答えの出ない疑問と共に太一達3人は部室をあとにした。
部室から3人が向かった先は決闘場。
世界の変化に伴い学校毎に作られた施設である。
古代ローマ時代に作られたコロッセオをモデルに、コンクリートを資材として、屋根のないドームの形に建築されている。
観客席も用意されており、選挙戦の時や、その他決闘の際には観客がその戦いを見て楽しめるようになっている。
現在の世界において、数千年前のように、決闘はある種のスポーツと化しているといえるだろう。
太一は決闘場の所定のフィールドに着いた。
どうやら北原の方も準備は出来たようだ。すぐにでも殴ってきそうな雰囲気だが、必死に自制していた。
「二人とも、準備はいいかしら?」
太一はその言葉に頷いた。北原もあぁ、と声を出す。
「それでは、勝負開始!」
黒木の声を合図に、戦いは始まった。
始めに動いたのは北原だ。
試合が始まる合図とともに、腕を振りかぶり、真っすぐに太一の元に襲い掛かってくる。
「レオ兄の恨み!」
北原のパンチが太一の元へ、真っすぐに向かってきた。
(こんなもんか)
太一はあっさりとパンチを掴み、そのまま北原を自分の後方へと投げ飛ばす。
あっさりと北原は投げ飛ばされ、壁に激突した。
うぅ......とうめき声をあげながらも北原は立ち上がり、また雄たけびを上げながら太一の元へと突撃してくる。
(真っすぐ考えなしに突っ込んでくるなんて、雑魚な上に馬鹿なのかよ)
太一はがら空きになっているみぞおちに、右の拳を叩き込んだ。
ぐえぇっと奇声を発しながら北原は後ろ向きに宙を舞い、地面に激突した後もゴロゴロと転がった。
(勝負ありだな)
太一はそう確信する。
しかし意外にも北原はまた立ち上がり、先程と同様に正面から殴りかかりにくる。
だがその足取りは重く、以前までの太一でさえ楽々と避けられるような、何の脅威も感じられないものであった。
(しつけぇなぁ)
太一は向かってきた北原の両肩を掴み、みぞおちに膝を入れてやった。
っ......ともはや声も上げられず、北原は地面に倒れこんだ。
「終わりだな。降参しろよ」
見下しながら、そう太一は告げるものの、北原の目にはまだ力が宿っていた。
「......こと......わる......!」
太一は困惑する。
何なんだよこいつ。
弱いくせに、馬鹿なくせに頑張っちゃって。
勝てるとでも思っているのか? そしたら大間違いだ。
素直に負けを認めれば、これ以上痛い目を見ずに済むのに、なのにこいつは......。
(生意気な目をしやがって......!)
「何で降参しないの。まだ勝てると思ってんの」
太一は怒りと共に北原に問った。
「......レオ兄の......皆の......仇......!」
掠れた、弱弱しい声で北原は答える。
これではこちらが悪者みたいだ。
「へぇ。カッコつけるんだな。所詮弱い物虐めしか出来ない不良のクセにさぁ!」
目の前にうずくまる北原の体を、右足で思いきり振りぬいた。
「そんなに痛めつけられたいなら、存分にやってやるよ。これまで自分が与えてきた痛み、しっかり味わえよ。」
太一は目の前に横たわる北原の体を何度も蹴りつけた。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も――。
「そこまで、もういいわ、赤城君」
黒木の声で太一は我に返った。もはや北原はピクリとも動かなくなっていた。
不安になり呼吸を確かめると、一応生きてはいた。
「北原君は私が保健室まで連れていくから。今日はこのあたりにしましょう」
気が付けば、周りは夕日で赤く染まっていた。帰りの時間だ。
「そうだな。帰るか」
太一は決闘場を後にした。
(まずは一人目)
太一の復讐は、順調な幕開けとなった。




