真琴と俺の未来に、キスがある
俺たちは寮の部屋に戻った。
野外ステージからLINKSの歌が聞こえる。
本格的にライブが始まっていた。
三階から見ると観客数は更に増えて、ついに警察まで来ている。
「僕の記事なんて、消し飛びそうだ」
真琴は床に座って、荷造りを始めた。
「改めて聞くけど、段ボールある? 寮長」
俺は真琴に抱きついた。
抱きつくというより、倒れ込むように。
触れたくて、ずっと、ずっと抱きしめたかった。
真琴も俺の背中に手を伸ばして、抱きしめてきた。
細い指が背中を撫でる。
「さっきとは違うよ、さよならじゃない。行ってきます、だ」
真琴が俺の耳元で言う。
そして俺の頬を両手で包んで、聞いた。
「部屋の鍵、締めた?」
俺は無言で頷いた。
真琴が俺の頬を包んだまま、俺の方に近づいてくる。
そして俺の唇に、キスをした。
そのまましがみついてくる。
俺は真琴を抱き寄せる。
細い腰、長い背中、首元に顔を寄せる。
「……汗くさくない?」
俺は首元に顔を埋めたまま、何度も首を振った。
そして首元から顔を離して、真琴の顔を見た。
「ずっと、待ってる」
「待ってて」
真琴が微笑む。
その唇に、俺は再びキスをした。
そのままソファーに押し倒す。
何度も、何度も、キスをした。
「ん……これで10回くらいキスしたかな? これで一馬は100年、僕の奴隷だ」
「何言ってるんだ……」
俺はもう一度キスをした。
「ん……前に言っただろ? 一回キスしたら、10年奴隷だ」
「じゃあこれで110年、これで120年、これで130年……」
俺は何度も、何度も真琴の唇にキスした。
そのまま真琴の細い腰を抱きしめた。
温かくて柔らかい肌に、指で触れる。
俺たちは夕方の寮で、キスに永遠を誓う。
真琴は出て行った。
「じゃあ行ってくるわ」
鞄を抱えて、ニコニコ笑って。
俺は不思議と淋しくない。
真琴から何度も連絡が入る。
社長の計らいで龍蘭のアメリカ校に編入したらしい。
「龍蘭にアメリカ校……聞いたことないけど……?」
相変らず俺の部屋に入り浸る潤がスマホをいじりながら言う。
「やばい……大宮先輩に恋したかも……」
部屋にはなぜかジェシー君も転がっている。
「部屋に戻れよ」
俺は言い放つ。
「明日卵焼き50個作るんだけど、一馬食べない?」
なぜか真琴のベッドを愛用している優馬が上から言う。
「食べる、食べる」
俺が言う。
「ふわふわに焼いてよ~」
潤がソファーに転がったまま言う。
ドアがバターンと開いて、湊元先輩が立っている。
「金曜日のお楽しみ、ジェンガ大会、はっじまるよーー」
俺たちは一斉に布団に隠れた。
そこに真琴がいない。
でも、確かな希望がそこにあった。
10年後――――――
「本日は、芸能ニュースからお伝えします。アーバンといえば男子オンリーの事務所ですよね? その事務所にアーバンダンスという新しい部署が作られました。そこから新たにデビューする新人が決まりました。市ノ瀬真琴さん! 覚えてますか?! 10年前のLINKS伝説のフリーライブで卒業を発表した方なのですが、今は女性ダンサーとして活躍されてます。本日アーバンダンス部署からデビュー、LINKS所属のダンサーになりました。同時に全国ツアーも決定! まだまだ人気衰えないLINKSに注目したいですね!」
遠くでテレビの音が聞こえてているが、俺は動けない。
眠い……あとちょっとだけ寝させて……。
「一馬、起きろーー」
「あと10分……昨日遅くまでプラン確認してて……」
「起きないとイタズラするぞ?」
「起きます、起きます」
俺は布団を蹴飛ばした。
「なんだよ、寝てなよ?」
真琴が俺の布団に潜り込んでくる。
「ダメダメ、時間ないから!!」
「だから起こしたのにー」
真琴が布団から顔を出す。
髪の毛がモシャモシャになっている。
真琴は最近髪の毛を切った。
寮にいた時と同じ長めのショートカット。
やっぱりこれが一番落ち着く。
俺はその髪の毛を直して、唇にキスする。
「おはよう」
「やっぱりイタズラする」
「やめろーーー!」
今日は真琴のお披露目コンサートの日だ。
あれから10年、真琴はアメリカに行って7年目にMIBEのソロダンサー部門で優勝、俺はその間にLINKSのコンサート演出になっていた。
踊ることより、踊らせることが楽しくなってしまった。
そしてアーバンダンスという事務所を立ち上げて、社長になった。
寮長になったら、デビューするか、社長になるか。
その伝統は、保たれた。
「真琴のことだけ考えて、プラン練った」
「分かってる。すごく、分かってる」
真琴は微笑んだ。
そして俺にキスした。
「ありがとう、一馬、ずっと居てくれて」
俺は真琴の頬を両手で包む。
「おかえり」
「何回言ったら落ち着くのー?」
真琴はケラケラと笑った。
何回でも言う、言える限り言い続ける。
「真琴、好きだよ」
「一馬が居たから、頑張れた。一馬がいる場所に戻ってこられて、本当に嬉しい」
真琴は俺に抱きついた。
俺は演出部屋で真琴が出てくるのを見守る。
「始まるね」
「はい」
俺の横には、浅井社長と城ノ内さんが居る。
アーバンダンスを作るにあたって、俺を推薦してくれたのは浅井社長だ。
城ノ内さんも所属してくれて、ダンス教室も始めている。
「真琴と一馬が結婚式するなら、僕、踊ろうかな」
浅井社長がサラリと言う。
「えええ?!」
俺と城ノ内さんが叫ぶ。
他のスタッフも驚いて立ち上がる。
だって浅井社長、もう御年70近いんじゃ……。
「最近練習してるんだ。楽しいな、ダンスは」
浅井社長はひょうひょうと言った。
「……あははは! 踊るなら、俺が振り付けしよう」
城ノ内さんが言う。
「バカ言うな。小松と僕と城ノ内、シニアMr.BOYで踊るんだ」
「あはははは!!」
俺は思わず手を叩いて笑う。
「それなら結婚式します、ええ、します」
思わず軽く答える。
だってそんなの、見たくて我慢が出来ない。
「アーロンだな、アーロン踊るか」
浅井社長が言う。
「アレンジが唸るな」
城ノ内さんが笑う。
「何の話?」
無線で真琴が俺に話しかける。
「真琴、俺と結婚しようって話」
俺は無線で言う。
「は?!」
衣装をきた真琴が舞台裏で叫ぶ映像が見えて、俺は笑う。
さあ、運命に抗おう。
道は必ず開ける。
LINKSの曲が鳴り響く。
終わり
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