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年末年始・別荘で

「カニってどうやってさばくの?」

 潤は両手に巨大なカニを持っている。

「でかっ! ていうか、カニって、割ればいいじゃないの?」

 俺は台所の椅子に座って白菜の葉をちぎっている。

「ちょっと一馬、まずは葉の部分と芯を分ける」

 真琴が俺に包丁とまな板を渡してくる。

 俺は手元の白菜を見るが、どこから葉で、どこから芯なのか、わからない。

「……線でも引いてくれるか」

 俺は真顔で真琴に言った。

「そんな事分からないの? もう白滝の袋でも開けてて」

 真琴は俺の手から包丁と白菜を取り上げて、器用に切り始めた。

「真琴、料理出来るんだな」

 俺は白滝の袋をあけて、ざるに落とした。

 中の水はボールに入れて……と。

 しかし白滝多くない?

 何か5袋あるけど……まあいいか。

 俺は白滝好きだし。

「お母さんが全然家に居なかったから、自分でご飯作ってたからね。一馬は何も出来なさすぎ。家で手伝ってた?」

「うちのお母さんのご飯は美味しいぞー」

 俺は手元の白滝の袋をばしばし切った。

「あーーー! 明日のすき焼きの分も切った!」

 真琴が俺の手元を見て叫ぶ。

「だって切れって言っただろ」

「鍋に5袋も白滝入れるか、常識で考えろよ!」

「常識を常識で決めるな」

「意味が分からないよ!」

 真琴は俺の手から白滝の袋を奪った。 

 俺は潤と真琴に台所を任せて、庭に向かった。

 ナタが木を割る軽い音が響いている。


 ここは潤の家がもっている別荘だ。

 潤の家はやっぱり金持ちだった。

 曰く、別荘なら沢山あるよ? だと。

 この黒塗りの車でオーディションに来た男め!

 年末の31日と1日。

 潤の提案で海辺にある別荘に来ている。

 龍蘭の寮も年末年始は閉鎖される。

 だから皆家に帰るのだが、真琴が「ホテルに泊まる」と言い出した。

 話を聞くと、真琴のお母さんとお父さんは海外に行っていて、お父さんの他の愛人さんと異母兄弟しか家に居ないらしい。

 帰りたくないと言ったら、お父さんがホテルを取ってくれたらしい。

「年末にホテルに一人は寂しいだろ?」

 と、潤がこの会を企画した。

 正直、潤が彼女の葉月さんと一緒に年越ししたかったが、親に反対され、そのカムフラージュだと思うけど、まあ楽しいから良い。

 その後数日は、俺の家に来ればいいと誘ったのだが、真琴は断った。

「ホテルでゆっくりするよ」

 年始にひとりでホテルなんて、何か寂しい気がするけど、真琴が言うなら狭い家に誘うのも悪くて、俺は黙った。


 今日のメンバーは潤と彼女の葉月さん、潤と同室の優馬、俺と真琴、それに杏奈と美波さんの7人だ。

 女の子3人はさっきから部屋で騒いでいて、かれこれ1時間出てこない。

 潤と真琴と俺で食事の準備を始めたが、俺は用無しのようだ。

「どう? 薪割り」

 俺は庭で休憩していた優馬に声をかけた。

「すごい……薪割り……すごい……」

 優馬は、ぐったりと椅子に座ったまま答えた。

 優馬はどちらかというと体の線が細く、あまり肉体仕事向きではない。

 俺は庭に出て、置いてあったナタを手に持った。

 先が重くて、手に持つとバーベルを思い出す。

「良い負荷だ」

 ナタを持って薪の前に立つ。

 この別荘は電気はきているが、ガスはきていない。

 だからストーブは薪。

 山盛りの木が家の裏に置いてあるが、これを切り出さないと夜凍えるらしい。

 この付近の別荘を管理している人が切りやすいサイズにしてくれているが、これでは大きくて使えない。

 木を立たせて……一番上の部分を狙って振り下ろす。

 カン! と高い音を響かせて木は跳ねて飛んだ。

「うお、怖い!」

 優馬はベランダが見える室内に逃げた。

 俺は木を戻した。

 なるほど、これは振り回すと上手に出来ないな。

 重みを利用して、狙いを定める。

 再びナタを振り下ろすと、木の真ん中にヒビが入った。

「お!」

 これ気持ち良いな。

「一馬くん、やるな」

 室内の窓越しに優馬が言う。

「これを外して……」

 木に刺さったナタを外して、もう一度セットして、重みを利用して……振り下ろす!

 すると木が真ん中でパカンと割れて転がった。

「おおおおお!」

 俺と優馬は同時に叫んだ。

 薪割り、超楽しいじゃん!

 俺と優馬は交互に薪を割り続けた。

 どうやらコツは、木の節を避けることと、木目を見ることにある。

「こっちから削れるんじゃないか?」

「反対側から入ったほうが割れそうじゃね?」

 優馬と二人で薪割りトークが盛り上がる。

 世界広しといえども、高校生で薪割りトークしてるのは俺たちだけじゃね?

 そして二人でカコンカコン割りまくった。

「すごいな」

 様子を見に来た潤が叫んだ。

 俺と優馬は、置いてあった半分以上の木を薪にしていた。

 薪割りはナタの重さで掌が疲れるということを、初めて知った。

 ナタの握りすぎで、掌にタコまで出来はじめていた。

「これで明日まで持つだろ?」

 俺は少し偉そうな表情で言った。

「これじゃ、今晩しか持たないよ。頑張ってね」

「えーーーー!」

 ドアをピシャリをしめて台所に戻った潤に向かって叫ぶが、俺たち薪割り部隊、まだイケる。

 暑くなってきて、着込んでいた上着を脱ぎ捨てる。

 薪割りで汗かくなんて、知らなかった。


「ご飯先に食べる? どうする?」

 台所で潤の叫ぶ声がする。

 俺と優馬はフラフラと外と中を繋ぐ廊下に転がり込んだ。

「終わった……」

 俺は転がったまま言う。

「やりきったね……僕たちの年は薪割りで終わったね……」

 優馬もTシャツ1枚だ。

 薪割りがここまで疲れるとは。

 それにいつもと違う筋肉を使ってるのが、今たまっている疲労で分かる。

 これは薪割りトレーニングを取り入れよう……いずれ、木こりアイドルになれる。

 私のこと割ってえーー! 的な感じだろうか。

 ナタを振り回して踊るのか。

 かなり危ないな……ああ、俺は疲れている。

「わあ、すごく可愛いよ」

 台所のほうから潤の大声が聞こえる。

「えへへ、良かった」

 潤の彼女、葉月さんの声がする。

 葉月さんはあまり話したことがなくて、心底緊張する。

 キレイで静かなタイプの女の子で、アイドルでいうと狸顔っていうのか?

 少し垂れ目で、長い髪の毛は真っ黒で美しい。

 俺はここに来てから挨拶程度しかしてない。

 本当に初めての女の子と話すのは苦手だ。

 美波さんとも、やっと普通に話せるようになってきた程度。

 いつか慣れるのだろうか……。

「じゃーん、どうでしょうか」

 頭上で声がして、目を開けると頭に何か乗せている杏奈が立っている。

「……何か乗ってるぞ。鳥の巣か?」

 俺は転がったまま言った。

「何その言い方!」

「杏奈さん、着物似合うね」

 真琴の声だ。

 着物?

 俺は体を回転させて腹ばいになった。

 そして部屋の中をみる。

 女の子3人が着物をきて、髪の毛をセットアップしていた。

「……どう?」

 美波さんが俺の前に立った。

 俺はその場に正座して、美波さんを見上げた。

 長い髪の毛を簡単に巻き上げて、簪をさしている。

 そして着物は基本が群青色で菜の花色のラインが美しい。

 なにより髪の毛を上げたことによりウナジが……。

「すごく、良いと思います」

 俺は正座して何度も頷いて答えた。

「武士かよ!」

 杏奈が笑う。

 よく見ると杏奈も着物姿で、色は鮮やかな赤紅。

 この着物は……見覚えがあるな。

「これって」

「お、さすが龍蘭の花魁さま。これは一馬のお母さんに貰った着物だよ」

「だよな」

 俺のお母さんは若すぎる色の着物は、杏奈に譲っていた。

「私が皆を着付けたんだよ? すごくない?」

 杏奈は両方の親指を立てて自慢げに言った。

 杏奈も俺のお母さんに着付けを習っていて、サッカー選手なのに着物が着られる。

「いや、良いと思うよ」

 俺は立ち上がって言った。

 後衿も、胸元もキレイだし、お太鼓結びも上手く出来ている。

 帯締めが少し緩んでいたので、軽く直す。

「一馬は着付けには結構厳しいよね」

 杏奈が笑う。

「目についただけ」

 女である妹の梨々花より、俺の方が着物と日舞には興味があると思う。

 やはり踊りと、それに付随するものは、無条件に好きなんだろうな。

 ふと台所を見ると、若葉色の着物をきた葉月さんにキスしようとしている潤が見えた。

 俺の視線を追って杏奈が二人を見て叫ぶ。

「はーーーい。お二人さん、お代官様ごっごは禁止でーーす!」

「……キスだけ」

 潤が杏奈の声を無視して、葉月さんにキスをする。

 葉月さんもうっとりと目を閉じている。

 おおお……俺、キスシーンを目の前で見るの初めてかもしれない。

 じっと見ていると、俺の手に温度が伝わって、掌が持ち上げられた。

「掌、まめが出来てる。薪割りの声してたよ」

 美波さんが俺の手に触れた。

 爪先が着物と同じ群青色に塗られている。

 それは青空が閉じ込められたような深さで。

 俺はその指先をじっとみてしまった。

「いたっ!!!」

 後頭部に痛みを感じて振り返ると、真琴が俺の頭を掴んでいた。

「さあ汗だくの一馬くん、シャワーを浴びてきなさい」

 真琴は口元だけ微笑み、目は真顔で言った。

「……はい」

 俺は小さく答えた。

 横を見ると美波さんが苦笑している。

 この中で美波さんと俺だけが、真琴が実は女の子だと知っている。

 でも美波さんと真琴は直接話していないから、空気は微妙で……俺は真ん中でいつも棒立ちだ。

 場慣れした人なら、何かやりようがあるのか?

 俺には全く分からない。



 この辺りは外灯が少ないので、真っ暗になる前に近所の神社に行こうと女の子三人は言った。

 俺たちは何の文句もない。

 戻ったら食事は出来るようにセットして、部屋を出た。

 12月の空気は冷蔵庫の中のように冷たくて、海の近くなので風も押し寄せてくる。

「まさに凍える!!」

「寒いね」

 潤と葉月さんは抱き合うように腕を絡ませて山を下りていく。

 神社は山のふもとにあるらしい。

 今回のLINKSのコンサートで、真琴は少し有名人になり、この前も一緒に街を歩いていたらサインを求められた。

 真琴はサインなんて考えていなかったので、真面目に漢字でフルネーム書いていた。

 あれはサインじゃなくて記名じゃね……?

 笑う俺に真琴は「サインって、どうやって決めるんだ?」と不思議そうだった。

 美波さんもテレビ出演が増えてきて、新年も2日から仕事らしい。

 少しずつ売れてきて俺たちに、都内から遠く離れた山の神社は、最高に気楽だった。

 なにしろ一応アイドルで、恋愛禁止だ。

 真琴はアーバンの社長直々に言われたらしい。「気をつけてね」。

 ゲリラ的に抱きついてきて写真を撮り、それをソーシャルに上げる子も多いらしい。

 学校内でも油断しないように、との事。

 真琴は「面倒だ……」とぶつぶつ言っていた。

「見事に誰に居ないな」

 真琴は楽しそうに山道を歩いた。

「気をつけろよ、また落ちるぞ」

 俺は夏を思い出して言う。

「あれは落ちたんじゃない、滑ったんだ」

「そう……かな……?」

 後ろを歩く杏奈が言う。

「え? 僕、落ちてた?」

 真琴は振向いて言う。

「うーん、真っ逆さまに?」

 杏奈は人差し指を立てて、それを人に見立てて、振り下ろした。

「えー、そうかー、じゃあこっちを歩くのは止めておこう」

 真琴は俺の服を引っ張って、俺を崖側、自分は山側を歩き始めた。

「素直じゃん」

「ケガしたらマジで怒られる」

 真琴は首をすくめた。

 新年5日には、LINKSのバックでまた踊るらしい。

 今度はテレビの生放送。

「家で見るね!」

 杏奈は興奮気味に言う。

「生放送なんて、緊張する……崖から落ちたらどうしよう」

 真琴がおどけていう。

「一馬くんが助けてくれるよ」

 美波さんが笑う。

「正月の一馬は餅つきで忙しいから」 

 杏奈が突っ込む。

 残念ながら、それは大正解だ。

 正月はお母さんがやっている日舞の教室で舞初めという新年日舞の会がある。

 俺は毎年そこで餅つきを担当していて、30合近い餅米を餅にする。

 大量につくった餅をお弟子さんと近所に配るのが、新年の恒例行事だ。

「餅つき?」

 真琴の目が輝く。

「すごいんだよ、杵もってね、超マシンみたいに同じテンポでつくの。見てて面白いんだよ、餅つき人形一馬」

 杏奈が笑いながら言う。

 だってもう10年も続けている、慣れて当然だろう。

 最初はお弟子さんを増やすためにサービスでしていたが、最近じゃ近所の人も集まってきて、外せない団地のイベントになってしまった。

 そこからお母さんの日舞に興味をもってお弟子さんも増えてきたので、良いことだと思う。

「楽しそうだなあ、見たことないなあ」

「だから来ればいいじゃん、うちに。2日からつくぞ」

 俺は真琴に言った。

 一人で4日までホテルに一人なんて、寂しすぎるだろ。

「いや、一人のが気楽だから」

 真琴は真顔で断った。

「なんだよーー」

 だらだら話している間に、神社に着いた。



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