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ジェットコースター

 バスの中。

 俺はぐっすり眠ってしまい、起きると膝の上にお菓子が散乱していた。

「あ、起きた」

 頭上で真琴が言う。

 俺はガッツリ真琴の肩に頭を乗せて眠っていた。

「すごい、到着5分前に起きるとか、タイマー入ってる?」

 後ろから口にポッキーを入れた杏奈が顔を出す。

「……なんだこの菓子の量は」

 俺は膝の上にあるお菓子をかき集めた。

 せんべいに、チョコに、豆菓子に、まんじゅうまである。

「一馬が全然起きないから、三人でずっと食べてたの」

 俺だけ寝てたのか。

「三人でゲームしてた。真琴くん、ゲーム弱いの!」

 美波さんが笑う。

 横を向くと真琴が不満げに口を尖らせている。

「なんで僕だけ変なキャラクターしか出ないんだ。妙に悔しいぞ」

 ガチャか。

「起こしてくれよー……」

 俺はお菓子を備え付けのビニール袋に入れて、チョコをひとつ口に入れた。

 糖分に頭が動き出す。

 あー、よく寝た。

「肩に乗ってきて重いから何度も起こしたけど、起きないんだもん」

「むしろイビキかいてた」

 杏奈が椅子の隙間から笑う。

「一馬のイビキは、毎日聞いてるから慣れてるよ」

 真琴が言う。

「リモコンどこ~~~?」

 俺はカチンときて、真琴の寝言を披露する。

「なにそれ!」

 美波さんが笑う。

「小さい方のリモコンだよ~~」

 続けて真似る。

「一馬!!」

 真琴が俺の頭を殴る。

「真琴くん、そんなにハッキリ寝言言うんだ」

 杏奈が笑う。

「会話になるレベルだぜ」

 俺が暴露を続けると、真琴は俺の頭を殴り続ける。

 俺を小馬鹿にするからだ!


 開園直後の遊園地は、まだ人が少ない。

 夏だけど、早朝だと空気が涼しくて、気持ち良い。

「まだ空いてる!」

 杏奈と真波さんは入場券を買って、はしゃぐ。

 俺たちは目的の絶叫系コースターに向かう。

 また建物から列が出てないくらいしか並んでない。

 さすが朝5時起きは伊達じゃない。

「ちなみに、みんな絶叫系好きなの?」

 俺は聞く。

「毎日乗ってもいい」

 杏奈は握り拳を作って宣言した。いや、君には聞いてない。

「好きだよ。気持ちいいじゃない?」

 大きなリュックの肩紐部分を両手で持った美波さんが笑う。

「嫌いじゃないけど、好んで乗らないかな」

 真琴が言う。

 だよなあ……。

 俺、真琴と6年くらい一緒に居て絶叫系に乗ろう! ……なんて話に一度もなってないけど。

「実は一馬が嫌いとか?」

 杏奈が両手の指を口元に持ってきて、むふむふと笑った。

「は? 超余裕だし」

 実はあまり得意じゃない。

 みんなよく機械を信じられるな。

 あれが壊れたら一瞬で空に投げ出されるんだぞ? どうしてその可能性を考えない? 

 よく事故がどーのこーのって、言うじゃないか!

 いや、そんな確率に当たれるなら、アーバンでデビューできるくらいの運もありそうだ。

 ……いや、あの確率の中でアーバンに合格できる運は持ってたし……って、もう考えるの止そう!

 乗り口にいくと、もう次には乗れそうだった。

 マジか、心の準備が!

「よっしゃ、最前列!」

 杏奈と美波さんは一番前に乗り込んだ。

「……大丈夫か?」

 真琴が俺のスッと近づいて小さな声で言う。

「なんとか、なるだろ」

 小さな声で返す。

 真琴は俺が絶叫コースターがあまり得意じゃないことを知っている。

 昔アーバン専門の雑誌インタビューで、苦手なモノとして答えたこともある。

 その時、真琴が答えたのは何だっけな。

 ぼんやり考えるが、思い出せない。

 席に乗り込む。電子音がして、俺はギュッとハンドルを握った。

 なぜならこのコースターは……突然加速するからだ!

 ドンと体にGがかかって、一気に後ろに連れて行かれる。

 ぎゃあああ怖いいいい!!

 口を開くとよだれが垂れそうになる。

 最悪だーーー!

「きゃははははは!」

 前の席で杏奈が大きな声で笑っている。

「キャーーー!」

 美波さんも叫んでいる。

 横をチラリと見ると、真琴が両目を閉じて、お地蔵さんのような無表情で乗っている。

 なんだそれ!

 真琴もジェットコースター苦手なんじゃん!

 俺はその真琴の表情を見て、一気に安心してしまった。

 よし、俺も両目を閉じて時を待とう……。

 目を閉じてると、右に左に振り回されるだけで、恐怖感は消えた。

 なるほど、これは良いな。

 俺は空中に漂う洗濯機……グルグル回されて汚れが落ちます……おええええ……回転してるのは分かるな。

 耐えて数分。

 キュキュキュと音を立てて、動きが止った。

 ゆっくりと目を開く。

 スタート地点に戻っている。

 横を見ると、真琴もゆっくり薄めを開いた。

「……真琴、髪型すっごいぞ」

 昨日カットに行った真琴の髪の毛は風で練り上げた綿菓子のようになっていた。

「一馬は顔色が、ヤバいぞ」

「指先冷たいわ」

 俺は両手の指に血を送るために手首を振った。

 体は汗をかいてるのに、指先だけ冷たい。

「……あははは!」

 俺たちは吹き出した。


「超楽しかったーーー! もう一回乗りたい!」

 杏奈が髪の毛を直しながら言う。

「一番後ろまで連れて行かれてからの~~急降下が最高!」

 美波さんも興奮しながらリュックを背負った。

 二人はキュキュキュ! とジェットコースターのマネをしながら階段を下りる。

 地上に着く手前に、写真コーナーがある。

 ジェットコースターの途中に写真を撮る所があって、それを買うことが出来るお約束のコーナーだ。

 そこで杏奈と美波さんは写真を見つけて爆笑した。

「ちょっと、これヤバい! ぎゃははは」

「二人とも、やだ」

 二人があまりに笑うので、俺と真琴もモニターに近寄った。

 そこにはお地蔵さんのように目を閉じて無表情で乗っている俺たち二人が写っていた。

 まったく同じような表情で、完全な【無】だ。

「何この、運ばれてるお地蔵さん感」

 杏奈が笑う。

「目閉じてたら意味ないじゃん!」

 美波さんも爆笑する。

 杏奈と美波さんは、カメラの位置も知っていたのか、ばっちり笑顔にピースサインだ。

「これは買おう」

「買いだね」

 二人は写真販売コーナーに消えた。

 俺と真琴は無言で立ち尽くす。

「……もう二度と乗らない」

 俺は呟いた。

「やっぱり理解に苦しむ」

 真琴も言う。

 販売コーナーで二人が拡大写真をみて、更に笑っている。

 もう何でも良い……。


 俺は気持ち悪くて、ベンチを見つけてダラリと座った。

「ダメだ、休憩」

「僕も……」

 真琴も鞄からポカリを出して一口飲んだ。

「そんなに苦手なら先に言ってよー」

 美波さんが俺たちの前に立って、笑いながら言う。

「前はもうちょっと大丈夫だった……気がする」

 俺は目を閉じた。

 少し頭がクラクラする。

 車酔いの状態に近いのか?

 おえええ……。

 オデコにひやりとしたものが乗る。

 目を開けると、杏奈が水を持って立っていた。

「ほい、一馬はいつも水! でしょ」

「……さんきゅ」

 俺は飲み物でカロリーを取るのが許せないタイプの筋肉星人だ。

 だから飲み物といえば基本的に水。

 杏奈は付き合いが長いだけに、さすがに分かってる。

「真琴くんも、もうポカリ飲み終わるよね? 同じでいい?」

 一緒に持ってきたポカリを差し出す。

「ありがとう、冷たいの飲みたかったんだ」

 真琴は古い残りを飲み干して、次のを開けた。

 よく考えたら真琴はポカリばっかり飲んでるな。

「無駄なカロリーだ……」

 俺は目を閉じたまま言う。

「いいんだよ、痩せすぎなんだから」

 真琴が言う。

「ホントに! 私怖くて聞きたくないよ、真琴くんより私のほうが重そう」

 杏奈は笑いながら隣のベンチに座った。

「身長差が10cmくらいあるから、さすがに無いんじゃない?」

 真琴がペットボトルの蓋をしながら言う。

「杏奈さまの筋肉は素晴らしいよ……」

 俺は目を閉じたまま言った。

 事実、杏奈は上半身も下半身も綺麗な筋肉が付いている。

 サッカーはケガに負けない下半身が一番大事だけど、実は上半身でバランス取ったり、敵を押さえたりしてるわけで……。

 トトッと歩く音がして、脛を蹴られた。

「いった!!」

 目を開けると、目の前に杏奈が仁王立ちして、スマホに写真を表示している。

「写真部に送っちゃおうかな~~」 

 スマホには、ジェットコースターで買った写真が写っている。

 昔は写真本体を買うか、変なキーホルダーを買うしか無かったが、最近はデータ販売といって、写真の半額でデータ購入できるようだ。

「やっと和解したのに、やめてくれ」

 俺はもう一度目を閉じた。

 グルグル回る視界は、かなり楽になったようだ。

「写真部の丸刈りは、なかなかすごかったね」

 杏奈の隣に座った美波さんが言う。

「実はプロパティークラスの盗撮は結構問題になってて、一般生徒が勝手に撮ってネットに上げる……なんてよく聞いたけど、あれ以来、減ったみたいよ」

「美波も結構撮られてたよねー」

「一応アイドルだし?」

「立派なアイドルだよ~!」

 二人の笑い声が聞こえる。

 俺はネットのソーシャルは全くやらないから知らないけど、勝手に写真が上がってるのは聞いてる。

 主に潤が見せてくれるんだけど。

 どこから撮ったんだ?! って写真が多いのも事実。

 真琴は本当に気をつけたほうがいい。

 俺はチラリと真琴を見た。

 その視線に気が付いて、真琴は少し目を伏せて小さく何度も頷いた。


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