俺を共犯者だと言うのなら
昼休み。
俺と潤と真琴で、食堂に食事に来ている。
俺は日替わり定食、潤はカツ丼、真琴はカレーうどん。
コロッケにソースをベッチャベチャにつけるのが俺テイスト……そして白いご飯をカカカカと……ああ、美味しい。
「杏奈さん、すごくいいな」
ブホ。
俺は真琴の言葉に口に入れた白米を噴射するところだった。
「アッサリしてて、女の子にしては珍しいタイプだよね」
潤は味噌汁を飲みながら言う。
「僕も女の子っていうと、執念深くて怖くてしつこくて、金に汚くて化粧ばっかりするくせに地肌が汚いイメージなんだけど、杏奈さんは違うね」
俺も潤も無言になる。
情報がかなり偏ってる……まあ、あのお母さんと二人で暮らしてたから仕方ないのか?
「一馬の幼馴染みなんでしょ? 幼馴染みって言えばさあー、色々あったりしたの?」
潤はにまにましながら言う。
「いや、杏奈に関してはそれはマジでないんだな。アイツを女と思ったことがない。だって足は小中9年間、クラスで一番速くて、怪力、給食食べ尽くす、男子女子かまわず殴る……」
「いいな、やっぱり杏奈さんはいい」
俺の愚痴を聞きながら真琴はうんうんと頷く。
「真琴はマゾだな」
「マゾだ」
潤と俺は目を閉じて首をふった。
9年間のあだ名は、ゴリラと杏奈を足して、ゴリ杏。ジャイアン的にゴリアン。
まあこれは杏奈の名誉のために黙っておこう。
「潤はどんな子が好みなの?」
「僕は堀西真希!」
「ああ……なんか好きそうだよね……うん……」
真琴と潤が女の子談義を始めたのを聞きながら、俺は考える。
でもさあ……真琴よ。
杏奈がいいとか、そんなことより、もっと大事なことがあるんじゃないか?
病気のこととか、体調のこととか……。
今日のダンスレッスン後も、真琴は表情をゆがめていた。
激しいダンスだったけど、今までの真琴なら余裕で踊れてたはずなのに。
さすがにコーチも気が付き始めていた。「本番に強いタイプなのかな?」って、あれイヤミじゃなくて?
病気のせいで踊れないの? 女の子になって体力が落ちたから?
いや、杏奈は女だけど、俺より基礎体力あると思う。
だったらやっぱり病気のせいだろ?
夕食後。
俺はベッドでスマホをいじっていた。
「あー、スッキリした。一馬もどうぞ」
真琴が部屋着に着替えてユニットバスから出てきた。
そして洗面所で薬を一錠口に入れて飲む。
Tシャツの下には、きっちりと下着を着ている。
「……真琴さあ、聞いて良い?」
俺はスマホをいじりながら聞いた。
「テスト勉強なら教えられないよ」
真琴は勉強でもかなり上位で、期末テストが近づく中、正直俺は……結構やばかった。
「それも教えてほしいけど! そうじゃなくて。薬のこと」
「……ああ」
真琴は俺の椅子にキィと座った。
「今日も授業でもさあ、真琴すごく苦しそうだったじゃん? あれって、病気のせいなのか? それとも薬?」
真琴はドライヤーの電源を入れて髪の毛を乾かし始めた。
ガーーっと音が響き、真琴の真っ黒で真っ直ぐな髪の毛がふわふわと踊る。
まだ乾いてないが、カチリと止めた。
「わかんない」
「えーーーー、そんなのありかよ」
俺は叫んだ。
「わかんない」
真琴は再びドライヤーを動かしはじめた。
俺はスマホをいじって、メール画面を出して、それを真琴に見せた。
「……一馬が犯人か」
その画面をみた真琴は電源が入ったままのドライヤーを机に置いた。
俺はドライヤーの電源を切った。
「小早川製薬と何度かやりとりした」
実は先週メールが返ってきて、何度かやりとりをした。
その中で、真琴が使ってる薬が治験クラスのものであること。
報告の中で嘘をついていること。
現在地も、龍蘭だけど女子になっていると報告していること。
アーバンに入ったことを秘密にしていること。
すべて分かった。
「……なるほど」
真琴は俺のスマホを返して、再びドライヤーに手を伸ばした。
俺はドライヤーを奪った。
「真琴。小早川製薬の人が来てくれってよ」
「……だから最近、毎日電話もメールも来てたのか」
「それも嘘ばっかり返してただろ。体調絶好調、問題なし。……嘘つき」
真琴は俺の手からドライヤーを奪って、電源を入れた。
ガーーっという音が響く。
真琴は右手で髪の毛をクシャクシャにして、俯く。
そしてカチリと電源を落とした。
「……今使ってる薬は、最高レベルのやつで」
「それも聞いた。試験的にか使えない薬なんだろ」
毎日報告が必要で、二ヶ月に一度病院でデータを取る必要がある、とメールに書いてあった。
でも真琴は報告は元気ですOKですばかり。
データも、ダンスや激しい動きをしてないから、通常通り。
何の問題もないように見せていた。
「……怖いんだよ、体の変化が。これ以上、女になりたくない」
真琴はクシャクシャの髪型で俯いたまま言う。
これ以上。
どこまでなんだろう……と思ったが、追い打ちをかけるほど鬼じゃない。
俺はスマホをいじって、さっき来たばかりのメールを見せた。
「明日、小早川製薬の人が向かえに来るって」
「マジか」
真琴は顔を上げた。
髪の毛がグッチャグチャだ。
俺はクシを投げつけた。
「明日の10時。俺も行くからな」
「マジか」
「嘘ばっかり付いてること、全部言ってやる」
俺に何ひとつ本当のことを言わず、共犯なんて……よく言うぜ。
共犯にするなら、全て教えてもらう。
「マジか……」
俺は真琴の頭を掴んで、髪の毛をグシャグシャした。
「俺は共犯者なんだろ、犯人さん」
真琴が髪の毛の隙間から俺を見る。
「だったら、教えてくれよ」
「……マジか」
「マジでーす」
マジかしか言わない真琴に向かって、俺は真顔でピースサインした。
ドアがコンコンと鳴って、潤が入ってきた。
「金曜の夜のお楽しみ、ジェンガしようぜ!」
手には新品のジェンガ。
買ったのか……。
「マジか」
俺は思わず笑う。
「マジでーす!」
潤はピースした。
第二寮の夜はふけていく。




