不発の花火
今年も夏がやってきた。小さな町だが、毎年盛大な夏祭りが開かれる。
竜は今年も実家の屋台の手伝いで焼きそばを焼いていた。
「竜、交代。休憩に行ってきな。俺の分のリンゴ飴買って来いよ」
やっと休憩かと思い、竜は屋台を去った。屋台で焼きそばを作るのは毎年恒例であり、竜は正直飽きていたのだ。
休憩と言われても、まだ花火が上がる時間でもなく、見たい催し物もないのでその辺りをぶらぶらとすることにした。
神社の階段を降り、人通りの少ない裏路地へ。幼少期からよく秘密の場所として通っていたので妙に落ち着くのだ。人ごみが嫌いな竜は毎年夏祭りの休みはここに来る。
しかし、そこは例年と少し違った。そこには一人の少女が立っていた。後姿で顔はわからないが、自分と同じくらいの年齢だろう。浴衣を着ているので、祭りに来たことは明白だが、一緒に来た友人か恋人とはぐれたのだろうか。それとも、夏祭りにありがちなナンパから逃げてきたのか。
どちらにせよ、自分一人の空間に誰かいては気まずい。思い切って声を掛けることにした。
「あの……何されてるんですか?」
変だろうか。不審者だと思われたら不味い。だが、声を掛けてしまった以上仕方ない。
「あっ! あなたが、私の運命の王子様ですか?」
「王子様!? ん、あれ、君は……」
意外だった。彼女は、同じクラスの愛だったのだ。幼い顔つきだがかなりの美少女であり、クラスでの評価は高い。しかし、彼女は妄想癖があり、そこをマイナスポイントと捉える人は多い。だがそのことによって彼女を不思議ちゃんとして一層評価する人も一定層いる。
「あ、竜くん!? まさか、君が私の王子様だったなんてね」
「な、何でそうなる」
かなり動揺してしまっているのは自分が一番よくわかる。彼女とはあまりしゃべったことがない。愛がこのような妄想をするのは日常的なので驚くことではないが、いざ自分が王子様認定されると不思議な気分だ。嬉しさ半分、困惑半分といったところだ。
「夢で見たの。今日の祭りで、一生一緒になる王子様と出会えるってね」
「は、はあ」
これを素でやっているのだから恐ろしい。キャラを作っているような感じは一切ないのだ。
「私と祭り楽しみましょ!」
満面の笑顔。学年で五本の指には入る美少女と一緒に夏祭り。どうする、こんなチャンスは滅多にない。
だが、口から出てしまった言葉は彼も予想していないものだった。
「わ、悪い。俺、家の屋台の手伝いあるし。じゃ、じゃあこれで!」
本当にこれでよかったのか。折角貰えた休憩時間はまだ一時間以上残っている。愛と祭りを回るのには十分な時間だ。それに、多少時間をオーバーしても兄は怒らないだろう。どうしてあんなこと言ったのか。竜には全くわからなかった。
神社の階段を上り、屋台に戻る。
「兄貴、交代……」
「どうした、竜。まだ時間はあるぞ?」
「いいんだよ」
再び焼きそばを作り始める。やがて、花火が上がった。とても綺麗だが、その花火は一瞬の光だった。
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