なんだかよく分からずにつれさらわれてしまいました
案内されたのは上等な……否、高級な部屋だった。
細やかな飾りのついた調度品が並ぶその部屋は、高級品とあまり縁のない僕でも、高級なものの気がする! ……これで量産品だったらどうしようと、僕はちょっとだけ悩んだ。
そう思って僕は、こんな高級椅子に座っていいのだろうかと棒立ちになっていると、
「大丈夫ですよ、特に何かがしこんであるわけではありません」
「い、いえ、何だか高そうで汚したらいけない気が……」
「大丈夫です。貴方はそれだけ我々にとって大切な方ですから」
「そうなのですか? 僕が?」
その言い回しがとても不思議に思えて僕は、彼を見る。
改めて上から下まで見ると、白い服に青い髪に金色の瞳の銀縁眼鏡を掛けた美形の男だと思う。
ただその柔らかな物腰が、何か裏の顔でもあるんじゃないかという、謎の警戒が僕に生まれるけれど、そこで、
「ああ、申し遅れました。私の名前はイザクと申します。お見知り置きを、ユキ様」
「は、はい、よろしくお願い致します。あのそれで僕、どうすればいいのでしょうか」
「そうですね……ふむ。まずはおもてなし用の飲み物とお菓子を用意させますので、少々お待ちいただけるでしょうか」
それに頷くと、イザクはこの部屋から外に出て行ってしまう。
静かで高級な感じで落ち着かない部屋に僕はただ一人取り残される。
その中でぼんやりと天井に描かれた絵画を見ながら、アルは逃げ切れたかなと思う。
そういえばあの様子からすると、イザクはアルの知り合いのようだった。
人の事をあまり詮索するのは良くないと僕は思うけれど、それでも少しでもアルの事が知りたくて、ちょっとだけならいいかなと僕がそわそわしていると、
「お待たせしました、ユキ様。この地方特産のミネル葉のお茶とドライフルーツのケーキです」
ふわっとした甘い香りに、この前飲んだ柑橘系の果実の香りがする紅茶だと僕はすぐに気付いた。
あれって美味しかったんだよねと思っていると、その紅茶には、レーズンやイチゴなどに似たドライフルーツが沢山入ったケーキ。
しかもふわふわの白い生クリームのようなものまで添えられている。
それを見た僕は食べ物の方にすぐ意識が行ってしまって、警戒が完全に薄れた。
「わー、美味しそう、ありがとうございます」
「いえいえ、喜んでいただけてよかった。我らが神子様ですから。じきにアルも捕まえられそうですしね。まさかこんな所まで逃げてきているとは。神子様がこちらの方に転送されたらしいと聞いたので、こちらに来て良かった」
「あ、あの、えっと……アルとお知り合いなのですか?」
僕が問いかけると、イザクは瞳を瞬かせててから微笑み、
「ええ……“腐れ縁”のようなものです。そういえば、ユキ様はどうしてアルと一緒に?」
「落ちた先が、アルの目の前だったので……ここまでお願いして連れてきてもらいました」
「それはそれは……途中、離れようと頑張っていましたか?」
「……はい」
それを聞いてイザクが、往生際が悪いと小さく呟いていたけれど、そこでイザクは僕に、
「それでアルは貴方に自分がどんな風だと説明していましたか?」
「あの、追われているって」
「なるほど、他には?」
「えっと国の国庫からお金を貰っちゃったって」
「ぷっ、いえ、すみません、他には何か説明していましたか? 遭遇したことでも構いません。アルがなにか悪いことをしていたのかなと思うような出来事はありませんでしたか?」
笑うのを必死でこらえるイザク。
そういった表情をされると、意外に感情的で優しそうに見えるなと僕は思う。
そして僕はその問いかけに僕は、先ほどの宿の件を思い出して、
「聞いたわけではないのですが……あった事としては、えっと僕の身分証を偽造して、でもバレて別の宿に。それにアルの手配書みたいな紙が貼ってあって」
「……なるほど、あれは効果がありますね。今後何かあったらこの手を使いましょう」
「あの、アルは捕まったらどうなってしまうのでしょうか」
そう僕が気になってしまい、不安に思って聞くとイザクは少し考えてから、
「ユキ様はどうして欲しいですか?」
「え? えっと、酷い事はしないで欲しいかな。何だかんだいって面倒見がよくて、僕をここまで連れてきてくれて……」
「ユキ様はアルに好意があると?」
「うん、アルはいい人だから」
ここまで自分が追われる身でありながら僕を連れてきてくれたし、途中、変な奴に襲われそうになった時も助けてくれたのだ。
もしも僕が手助けできるのならしたい、そう思ってしまう相手だ。
そんな僕をイザクは優しげな眼差しで見てから、
「その微妙にずれた好意が気になりますが、大丈夫です。アルは酷いことにはなりません。と言うよりは出来ません。国庫の件も大丈夫です」
「本当ですか! 良かった……」
「ええ、そして捕縛したらまたアルにユキ様は会えますよ」
「そうなんですか!?」
また会えると聞いて、もう二度と会えないかもと思っていた僕は嬉しくなってしまう。
そうしたらまた一緒にいてお話できるかなと考えて、更に嬉しくなっているとそこでイザクが、
「そうです。アルが捕まえられたら、ゆっくりとお二人で話してみるのもいいと思いますよ。親交を深めるのはとても良い事です」
「は、はい、頑張ります。でも今の話を聞くと、アルはその……結構身分が高かったりして、僕に関係があるのですか?」
「そうです、アルはユキ様にとても関係のある方です。そして身分に関してはまだ秘密です」
との事だった。
そして、アルを捕らえるまでしばらくここに滞在してもらう、そう僕はイザクにいわれて、ああそういえばとイザクが思い出したらしく呟いてから、
「そういえば隣の国の神子は、メイという方で、ユキ様のご友人だそうで」
「はい! メイは無事ですか?」
「ええ、その内また再会できると思いますよ、都市の方に行けばですが」
そう言われて、芽衣も大丈夫だったんだと思い、僕は良かったと思ったのだった。
アルは逃げていた。
人混みをかき分けて、その無関係の人達を障害として使うのは気が引けたが、どうやっても逃げると決めていたので心の中で謝りながらあるは逃げ続ける。
気づけば人混みから抜けていたが、幾らかは巻けたようだ。
ちらりと背後をみると、追手の人数が半分以下に減少している。
嫌な予感がしていたのだ、だってユキが自分の前に現れたのだから。
「声が聞こえた気がして、名前を呼んだのが間違いだった」
舌打ちをするように俺は呟くけれど、状況は未だ好転しない。
そもそもあそこに何でイザクがいるのだと思う。
そしてあいつがいるならもちろん、
「おっと、ようやく見つけたぞ、アル様」
「やっぱりお前もか、リカルド」
「ええ、ここで貴方を捕まえないと、俺はイザクにしばらく相手をしてもらえませんからね」
「それは気の毒に、だが俺はまた逃げきってみせる。絶対にだ」
そう言い返しながら、周りにいる武装した神官兵を適当に倒してそこから逃げようとするが、
「残念ながら逃がすつもりはない!」
そう言ってリカルドが笑い、太く大きな剣を振り下ろしてくる。
魔物戦闘ではその強力な威力には何度も助けられているが、いざアルにそれが振り下ろされ、しかも、
「本気で攻撃してくるなよ!」
「本気じゃないとアル様は気絶させる事も出来ませんからね。というか手加減して頂かないと困るんですよねっと」
再び力任せに大剣を振るうリカルドに、強化した剣でそれを受け止めるアル。
ひゅうっと、楽しそうに口笛を楽しそうに吹くリカルドに、そういえばこいつは戦闘が大好きだったな、でも今は楽しむなよ、俺は真剣なのにとアルはむっとして言い返す。
「お断りだ。俺は、俺なりに考えた結果なんだ。我儘だって分かってはいるが……」
「……ちなみに昨日から、“ぶにぶに”や触手の魔物が増えているそうですが心当たりは? 貴重な魔物のはずなんですけれどね」
「……」
「いい加減素直になりましょうよ」
「嫌だ」
そうアルは答えながら、どうやって逃げようかと考えていたのだった。
僕は窓から夜空を見上げて、アルはどうしているだろうかと思う。
だってこの空の下のどこかにアルはいるのだから。
けれど、きっと大丈夫でまた会えると良いなと思う。
そんなこんなで、今日は美味しいご飯を頂いてベッドで眠る。
凄くふかふかで白いレースの天蓋付きのベッドで、こんな所に僕は眠ってもいいのか、そもそもお姫様が眠って良そうだと僕は思っていると、就寝前に様子を見に来たらしいイザクに、
「とてもお似合いだと思いますよ」
と、言われてしまった。
確かに背は低いし子供っぽく見えるかもだが、こう見えてもまだ十八歳なのだと僕は思う。
そう僕がむっとしていると、そこでイザクさんははっと何かで気付いたように顔を青ざめさせる。
「そ、そういえばユキ様は何歳なのでしょうか」
「……何歳に見えますか?」
今まで子供っぽいだの何だのあるに散々言われていたので僕は、微笑んでイザクに問いかけると彼はしばし沈黙してから、
「……十八歳です」
「正解です! 良かった、年齢相応に見えるって事ですね」
イザクのその答えた年齢に僕は、何だ、十八歳に見えるんじゃないか、アルは意地悪だなと僕が思っているとそこでイザクがぽつりと、
「……良かった、子供がそんな風にならなくて」
「今のはどのような意味で?」
「え? いえ、異世界に神子として子供を召喚するというのは酷かと。異世界ですので成長も違うでしょうし」
「なるほど、確かにそうかも」
「ちなみにアルと貴方様は同い年ですよ?」
新たなアルの情報に僕は目を輝かせる。
けれどそれ以上は、イザクは話てくれないのでその日はそれで就寝。
そうしてまたアルと会えないかなと僕は思ってその日は眠ったのだった。
次の日の朝は、鳥のさえずりで目を覚ました。
この世界に来てすぐに色々な目にあったのと、長距離を徒歩で移動したので疲れてしまったのだ。
なので僕はベッドが心地いのもあってゆっくり眠れた。
そして僕はベッドから起き上がりベッドから外に出ると、着替えらしきものが入った箱が傍の机に置いてある。
ただ一つ、その箱を開けて不思議に思ったのは、
「男性用と、女性用の服がある? 女性用のはレースがいっぱい付いて言うから女性用だよね。こっちはイザクさんが着ていたものと同じだから男性用。ただ上に着る白いローブっぽい物は区別ないみたい。……でも何で女性用があるんだろう」
僕はそう呟くけれど、何か手違いがあったのだろうと思って男性用の服を取り着替える。
以前着ていた服は冒険者? というか旅をするのに良さそうな安価な量産品の様な物だったけれど、現在僕が着ている服には白い服に金色と蒼い色の糸で刺繍が施されている。
何だかこの色を見ていると、アルの髪の色と瞳の色を思い出してしまう。
「また会えるんだよね」
何から逃げているのかは分からないけれど、酷い事にはなりそうになかったので、僕は素直に再会を楽しみにしていた。
そこでこんこんと部屋を叩く音がして、
「ユキ様、お目覚めですか?」
「はーい。着替えを使わさせて頂きました」
「あ、昨日こちらに来ましたらすでにお休みになられていたので、お着替えを置いておきましたが……」
「はい。何故か女性ものが混ざっていたみたいで……」
「そうですか、失礼いたしました」
「うん、最近は間違われないけれど僕は何処からどう見ても男だしね」
そこでイザクは一瞬言葉に詰まったようだった。
けれどすぐに先ほどと何も変わらない声音で、
「では、すぐに朝食をお持ちしますね。その後はどういたしましょうか、こちらの神殿内を案内いたしましょうか?」
「ぜひお願いします!」
だって、こんな神殿という不思議な建物に僕は来たことがなかったから、興味が有るのだ。
そう僕が答えると、イザクが頷いたのだった。
この神殿という場所は、やはりというか重厚な建築がなされた場所だった。
広いというのもあるけれど、細やかな彫刻から始まって、以前、アルに聞いたこの世界の創生に関する話を絵で示した物、そして魔物の様なものも幾つも記されている。
金や様々な発色の良い絵の具? で描かれた絵も含めて、博物館に来たような気分に僕はなる。
ただ全体の色調は、青と白と金色のようだ。
「色が青と白と金色みたいだけれど、これって他の国では違っていたりするのかな?」
「ええ、隣の国“ムーンフィールド”は、黒と銀と紫が基調とした神殿になっていますね。我々の所が昼とすればあちらが夜、光に対し闇を表していると言えます」
「そことこちらは張り合ったりするのですか?」
何となく好敵手の様な関係をイメージした僕はそうイザクに問いかけると、
「まあ、どちらもなければこの世界は成り立ちませんので、どちらが優れているとかそういったものはないですね。どちらの国の王子も仲が良い、幼馴染のような関係ですし」
「そうなのですか?」
「ええ、魔物退治などをよく一緒にされていましたしね。あ、そういえば今代の神子様はどのような魔法が使えるのかお聞きしてもいいですか?」
そう聞かれて僕は、そういえばアルも僕が魔法を使えるといっていて、確か攻撃魔法が使えるようなことをいっていて、その後、癒やしが使える神子もいたとか言っていた気がする。
もしかして、攻撃魔法が使えれば自分の身は守れるから自分が側にいなくてもいいと思って、わざと聞いてきたのかもしれない。
全力で僕からアルは逃げようとしていたんだなと僕が悲しく思っていると、
「ユキ様、どうかされたのですか?」
「いえ、ただ神子ってどんな魔法が使えるのかなと」
「以前の方は、癒しの力や空を飛ぶ力など様々なものがありましたが……」
「えっと僕、全部をまだ確認していないので、でも、攻撃用の魔法はあります」
「これは珍しい、今までの神子様には攻撃魔法の使い手もいましたね……折角ですので見せて頂いてもよろしいですか?」
「う、うん……」
イザクの雰囲気が何となく変わったので僕はびくっとそれに震えながら頷いたのだった。
ここでようやく僕は魔法の選択画面を浮かべて全部に一通り目を通して、自分の能力をようやく全部確認した。
それによると、な、なんと、ゲーム内にあった特別なイベント用の魔法まで全部ある事が発覚した。
けれどそれを全部伝えるのは、僕の様子を見ているイザクさんが怖かったというか、警戒している気がしてどうしようと僕が思っていたというのもあり、以前、アルと一緒にいた時に見せた魔法で軽い物を見せる。
つまり炎の球を飛ばす魔法だ。
何もない地面一帯にそれを放って爆発させる。と、
「なかなか強い魔法ですね」
「本当ですか!」
「ええ、でも我々の方がずっと強い魔法が使えます。本当に良かった。でなければ神子様に何かあった時のために隔離処置を取らないといけなくなる所でした」
「え?」
「いえ、昔神子様とこの国の王子が仲たがいをしてしまい、ちょっとした騒動になってしまった事がありまして。その時の神子様は癒しの力だったので問題はなかったのですが、ユキ様の力は攻撃魔法でしたので、もしそうなった場合一般人に被害が……」
「そうなんですか……で、でも僕は大丈夫ですよね?」
「ええ、この程度であれば……おや」
そこでイザクを誰かが呼びに来て、何かを話したかと思うと、
「申しわけありませんユキ様。用事が入ってしまいました。部屋までお送りできなくなってしまいました。誰か別の人を……」
「あ、大丈夫です。道は覚えていますから」
そう答えるとそうですかとイザクは言ってその場から離れる。
僕もじゃあ部屋に戻ろうかなとお歩いていると、
「おや、そこにいるのは!」
僕は何度も僕を連れ去ろうとしたあのおじさんに見つかってしまったのだった。
僕は一体どうなってしまうんだろう、そう涙ながらに僕は呟く。
現在、縄でぐるぐる巻きにされて、猿ぐつわをされたまま僕は何処かに連れていかれていた。
この神殿内は熟知しているらしいおじさん。
人気のない道を次々と進んで行き外に出る。
逃げる機会もどこにもないし、人もいない。
どうしよう、というか何でこんな目にと僕が思っているとそこで、人が一人この神殿伺うように様子見している。
人相も服装もボロボロで、物語に出てくるような悪役そのものな格好をしているけれど、この際、贅沢は言っていられないと思ってその人に助けてとじっと見る。
それにこのおじさんは気づいていないようだったから。
けれど僕がじっと見ているとその悪そうな男性はピュッと引っ込んで、そのままいなくなってしまう。
薄情者と僕は思っていると、そこで馬車に押し込まれる。
隠れるようにして置かれていたその馬車に放り込まれて、そのまま僕は何処かに連れて行かれてしまったのだった。
神殿の警備がザルだったとしか思わざるおえない僕。
誰かが気付いて探しに来てくれないだろうか、そんな不安を覚えながらここに連れてこられた僕はようやく猿ぐつわを外される。
「何で僕こんな所に連れてこられたのですか」
「愛人にしようと思ってな」
「いやぁあああ、お家に帰るぅうう」
「正確には息子の母代りになってもらおうかと」
「? 僕、男ですよ?」
目の前のおじさんが沈黙して僕を見たが次に深々と溜息をついて、
「いやいや、嘘は良くない。妻に似て凄い美少女だと思いますね。もう少し嘘をつくならまともな嘘をつきましょう」
「い、いえ僕は本当に……」
本気で性別を間違えられた僕はどうしようかと思う。
しかも妻の着ていたものに似た服というものを押し付けられる。
一応襲われるというか貞操の心配はなさそうなので、とりあえずこのおじさんに事情を説明してもらった。
このおじさんはこの町を仕切る有力な貴族であり、ブラストというらしい。
名前は以前聞いたようなと思いつつ僕は黙って聞いていると、このおじさんが事情を話してくれた。
何でも、病弱な息子がいるのだがそのための薬なる草が危険な場所に生えているらしい。
それを採りに行って、3日戻ってこないらしい。
妻は凄腕の冒険者だったが、ここの所アルベール王子が逃走しているのもあって魔物狩りの人出がたりておらず、それを取りに行くには一人で行くしかなかったらしい。
しかも、もしも二日以内に戻ってこなかったら私に似た、息子に母代りの愛人を連れて来て一緒にいてあげてと約束したらしい。
そして戻ってこなかった……。
なのでその幼い息子さんに僕が会いに行くと、事情を知っているらしく、それでも僕が母親に似ているとの事で懐いてきた。
何か出来る事はないかと思って僕は、試しに毒など異常状態を回復する魔法を複数使うと……治ってしまう。
しかも丁度奥さんが帰ってきたりと色々して、僕の役目も無くなってしまった。
そして奥さんの命がけでとってきた葉っぱは、寄付する事になる。
何でもここ数日間、魔物が一斉にどこかに向かっていったらしい。
何でだろうと思ったら、神子がきていたのねと奥さんはいう。
どういう意味かはよく分からないけれど、そんな怒涛の展開があったけれど、僕は怪我をせずに大丈夫だった。
けれどそれからまた僕は、何者かに襲撃されてしまったのだった。
何だかんだで上手く行ったと思っていたら、その貴族の屋敷が襲撃されてしまった。
その中にはあの神殿の傍で様子を伺っていたいかにも悪役っぽい男性がいたけれど、それはいい。
貴族のブラストさんの屋敷で今日はこちらでお休み下さい、明日には神殿に事情を説明して送り届けてくれると言われたので信じていた僕ですが……。
深夜、壁が破壊されて何事かと思って飛び起きて様子を伺うと、何者かに口をふさがれてそのまま攫われてしまいました。
ここは何処かの廃屋の様な場所だ。
そして僕は、埃っぽいベッドの上に転がされていた。
先ほどから彼らの話を涙目で聞いていた僕は、神子だと気付かれていたらしい。
この力を使えば、癒しなりなんなりの力があるからこれを使ってカネ儲けも出来るし、身代金も捕れると話している。
なんて事だと僕は思いながらも涙目でじたばたしていたけれど結局逃げられなかったのでした。
時間は少し巻き戻る。
神殿にて、縄で縛られた状態でアルが連れてこられていた。
「くそ、油断した」
「腕が鈍りましたね、アル」
毒づくアルにイザクが笑いながら軽口を叩くと、アルはそんなイザクを睨みつけて、
「イザク……それで俺にどうしろと? 随分とこの状態で待たせられたが」
「本当はユキ様にお会いしてもらおうと思ったのですが、どうやら攫われてしまったようでして」
困ったものですと肩をすくめるイザクに、アルの雰囲気が見た者が凍りつくように冷たくなり、
「……誰に?」
「こちらの貴族の方に」
そこで連れて来られた貴族を見てアルはすぐに拘束した縄をぶちっと引きちぎり、剣を抜いて向け、
「それで、何か言い残すことは有るか?」
「も、申し訳ありませんでした。実はカクカクシカジカで……その後襲撃されて、連れ去られてしまいました」
「それを信じろと、俺に?」
「信じてもらえなくとも、巻き込んでしまった私に非はあります」
そんな貴族を見て、アルは深々と嘆息した。
こうやって何時でも抜け出せるような縄に拘束されたのは、結局はアル自身もユキから離れがたいと思っていたからだ。
なのでイザクに、どうするのですかと言われたアルは、仕方がないと呟いて連れ戻すと答える。
神子であるユキの居場所は、アルにはすぐに分かる。
けれど一つだけ我慢ならないことがあったアルは、その貴族、ブラストに告げる。
「お前の妻よりも、ユキの方が絶対に可愛い」
「いや! 妻のほうが美人です」
ブラストは剣を向けられてはいないけれど、空気を読まず、妻のほうが可愛いと惚気けて言い返した。
だがアルはそれに負けじと、
「……それはない、ユキの方が可愛い」
「いえ、妻のほうが美人です」
「そんなはずはない、俺のユキの方が絶対に可愛い!」
「いえ、妻にはかないません!」
変な意味で意地を張る二人に、イザクはその間にはいりアルを行くように促す。
だってユキはアルの神子なので何処にいるのかが分かるので、今陽地番その能力が必要だったから。
こうしてブラストに何か言い返したいのをぐっとこらえて、ユキを助けにアルは向かったのだった。




