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変な生物に襲いかかられたり?

 そうこうして道を歩きつつ途中、何度か休憩をとる。

 体力がないなとアルには笑われたけれど、こんな土のむき出しの歩きにくい山道を延々と歩く機会なんてハイキングくらいしかないし、こんなに長く歩いたのは久しぶりだ。

 お昼の食事は、食堂で事前に作ってもらったサンドイッチの様な物と紅茶の様なもの。


 サンドイッチには、焼いたハムの様な物と野菜が挟んであって、食パンも表面が焼かれていて香ばしかった。

 紅茶も仄かに黄色い果実のような香りがするけれど、もともとこの茶葉はそういう物らしい。

 自分の世界の物を全て知っているわけではないけれど、この世界の物はもっと知らないので好奇心を刺激する。

 そんな風に思っているとまた変なものが出てきた。


 透明な緑色でプルプルしているゼリー状の液体の様なものだ。

 体が透明なので、魔法石の様な物が体の何処にあるのか丸わかりだった。

 ただその形などには見覚えがあって、


「スライム?」


 玩具のスライムに似ている気がする。

 ポリビニルアルコールの入った糊などとホウ砂を混ぜて作るあのネバネバする半透明の玩具だ。

 それにとても似ているなと思って見ているとアルが、


「“ぶにぶに”だな、こんな魔物も増えているのか……いや、最近増えたのかも」


 アルがどこか頭痛がしたように呟く。それを聞きながらこの変なゼリー状の物体を僕は見ながら、


「“ぶにぶに”っていうんだ。このスライム」

「お前は知っているのか?」

「うん、僕の世界にもこんな風な玩具があるんだ」

「……異世界でもこれをエロい玩具として使っているのか」

「え? どういう事? だってこれ唯の玩具に似て……うわぁあああ」


 そこでその緑色のぷにぷにしたものが、自身を小さくちぎって僕に当ててくる。

 それは僕の旅装束の布の部分に当たると、しゅーと音を出しながら白い煙を吐いて、そこに大きな穴があいてしまう。

 当たってきた衝撃で慌ててそれを振り払ったけれど、まさかこんな服に大穴をあける物になるなんて。


 この“ぶにぶに”は表面から硫酸の様なものを分泌しているのだろうか。

 僕は不安に思ってそれから離れようとすると、そんな僕を追い詰める様に“ぶにぶに”は僕の方に近寄ってくる。

 そこでアルがそんな僕の危機など特に気にしていないような声で、


「お前はどうやらこの魔物に気に入られたみたいだな。そういえば歴代“神子”は可愛い少年が多かったと同時に、“ぶにぶに”にあれやそれな目に遭わされた話が沢山あったはずだからな」

「あれやそれ?」

「あの“ぶにぶに”は服は溶かすが肌は傷つけないんだ。代わりに触れた所から生物の魔力を吸収して生きているので、そんなに危険な魔物ではない。もっとも代わりに体を這われて、喘ぐことになるが」


 それを聞きながら僕は、何処の少年向けエロ魔物なんですか!? とか、歴代“神子”があれやそれって、僕も狙われやすいってことなんですか!? とか、そもそも男の僕を襲って何が楽しんですかと僕は思ったけれど、そこでアルが、


「どうせそのうち一回くらいは経験する事になるし、予行練習として襲われておくか? 結構、はまる人ははまるらしくて、こっそり“ぶにぶに”を買っている人もいるらしいぞ?」

「なんでだ、嫌に決まってる! というかそんな変態と一緒にするな!」

「ふむ、まあいい。じゃあそうだな……戦っても仕方がないし、その内お前が襲われそうなのが楽しみだから見逃してやるか」

「今、後半で凄く酷い事を言われた気がする」

「ははは、さてと、これでいいか」


 そう言ってアルが取り出したのは先ほどの魔法石、その内の一つだった。

 それをちらちらと“ぶにぶに”の前で見せつけてから、


「ほーら、取ってこい」

「ぶにぶにぃいいい」


 あとの声は“ぶにぶに”の鳴き声らしかった。

 アルが森の方に以前手に入れた緑色の魔法石を投げる。

 そしてその“ぶにぶに”は魔法石を追いかけて森の中に消えていった。

 こんな簡単にあの魔物を退けられるのかと思いつつ僕は、


「それでその歴代の“神子”はそんなにあれに襲われているの?」

「ああ、記録には確か、計測不能と書かれていたな」


 それってただ単に襲われる回数を計測するのが面倒だっただけじゃないんだろうかと僕は思った。

 思いつつ更に僕は聞いてみる。


「それであの“ぶにぶに”って、女の子を襲ったりする?」

「そういう事もあるな。魔力目当てだから、男女関係なく襲ってくるし。ただ……」

「ただ?」

「あの“ぶにぶに”ってどちらかというとレアな魔物なんだよな。でもそれを歴代“神子”は惹きつけるらしいから、まあ……よかったな。お前はどうやら本当に“神子”のようだ」

「そんな事で確認されてたまるかぁあああ。く、レアといっても一回当たっただけだし、それくらいの偶然ならありうる!」

「ははは、これから町に着くまで、“ぶにぶに”に出会わないと良いな」


 アルが人ごとのように笑うのを聞きながら、もう出てきませんようにと心の中で思う。

 けれどその街に着くまでに二回ほど、色違いの“ぶにぶに”に出会ってしまう。

 それを何とか突破した僕は、旅装束の端が一部解かされたりしながら(何故か、アルは服を溶かされる僕を助けるのが少し遅い)目的の町に着く頃には、日はとっくに沈んでいて、銀色に輝く満月が地上を照らしている。

 それを見てアルは、


「好都合だな」


 そう呟いていたのだった。









 その街は高い壁で覆われていた。

 灰色の石が空高くそびえたっており、その高さは何十階建てのビルか、東京タワーくらいの大きさがあるのではと僕には思えた。

 この城壁の一番上から周りを見渡せば、さぞ綺麗な異世界の風景が一望できるだろう。


 一番いいのはエレベーター付き展望台があればいいけれど、ここにはそれはないと思う。

 僕は理由はないが確信した。

 けれど見張り用の場所もあるようなので、あそこに行ったりできないかな―と僕が思っているとそこでアルが、


「それで、お前を連れてこの城壁をこれから上る事になる」

「……僕は何かを聞き間違えた気がする。こういった街には入り口があるはずだよね。それともこの世界の人達とか馬車の出入りは空を飛んで搬入とか?」


 この世界は剣と魔法のファンタジーな世界だ。

 だから僕の知らないそんなこの世界独特の何かがあるのかもしれない。

 きっとそうだと僕は思っているとそこでアルが、


「さて、これから壁を登ろうか。ロープは持っているからな」

「い、入口があるよね、そこから入れば良いじゃん」

「だから、俺は追われているっていっただろう。それが嫌だったら、一人で街のその入口の兵に話して、この町に入れてもらってこい。ああそうだな、それで兵の奴に異世界から来たといえば、勝手に神殿の分社に連れて行ってくれるだろう。確かそういったものがここにもあった気がするし」

「ええ! で、でも僕を連れて行ったらお金が出るんだよね? いらないの?」

「別にお金には困っていないからな」

「あれ、国庫から貰ってきたって……」


 そう僕が言うと、一瞬だけアルはしまったというような顔をした気がした。

 けれどすぐに、何食わぬ顔で、


「さっき手に入れた魔法石を売ればそこそこの金になるから、十分なんだ。じゃあな」

「ま、待ってよ、アル!」

「あー、そうそう、ここを右にずっと行った先に入口があるからそこにいけ。数分歩けばつくだろう」

「で、でも……」

「俺はもともと追われているといっただろう。ここまで連れてきたんだ、それ以上俺に何を望む」

「それは……」


 もともと嫌なのにここまで付き合ってもらったのだ。

 途中あまりにもアルが親切だったりするから、僕は甘えてしまったのだ。

 でも昔の彼に似たアル、名前も似ている彼にもう少し一緒にいて欲しいと僕は思ってしまう。


 我儘なのは分かっているけれど、この機会を逃したら二度と会えなくなりそうで……以前夢の中で出会ったあの子のように二度と出会えなくなってしまう気がして、僕は、悲しくなって俯く。

 そんな僕をアルは見ている。

 視線は感じるからそうだ。

 そこでアルは深々と嘆息をして、


「それにここから登ったその上には結界が張られているから、それを誤魔化して入るとなると二人は少し難しくなる。だからここでお別れの方が良い。……もう俺なんかに関わらない方が、幸せな人生を歩める」

「……分かった。あの、アル。本当にありがとうね」


 そう僕はお礼を言って、アルにお辞儀をしてその場を走り出す。

 だってアルにはアルの事情があって、僕を出来る限り巻き込まないようにしようとしているのだと僕は気づいたから。

 お金に困ったわけじゃなくて国庫に手を付けて、追われている。

 どこまでが本当でどこまでが嘘なのかはわからないけれど、アルは何かから逃げているのは確かなようだから。

 それでも僕をここまで連れてきてくれたのは、アルがいい人だからだ。


 だからこれ以上あるに迷惑をかけてはいけないと僕は思う。

 そして僕はすぐにアルの示した方向に、城壁に沿って走っていく。

 その時間はとても長く感じたけれど、アルは数分歩けばと言っていたから、ずっと短い時間だったのかもしれない。


 そして入口が見えてきた、そんな時だった。

 馬車の馬の声や車輪の音が僕の後ろからする。

 夜で周りが静かだからだろう、妙に大きく聞こえて僕は振り返る。

 すぐ傍を通過しようとした馬車の主と目があった。


 その人物は僕を、“愛人”にしようとした変態と同じ顔をしていた。

 同時にそんな変態が何人もいてたまるかと僕は思ったのだけれど、唐突に馬車が止まる。

 僕は、逃げなくちゃと思って、踵を返して逃げ出したけれど……。


「ぐえっ」

「よーし、まさかこんな場所で捕まえられるとは思わなかったな。私に逆らったあの男もいないようだし、さて、連れて行くか」

「や、止めて下さい、放して、やだぁあああ」


 僕は必死になって暴れて、この男から逃げようとした。

 けれど体格の差もあってか、僕はそのまま馬車に押し込められそうになった、その時だった。


「……それを放せ」

「ひ、ひい、ど、何処からだ? 周りは確認したぞ!」

「そもそも丸腰で貴族がこんな場所を徘徊している方がおかしいな。どういったわけありだ? お前」

「……仕方がないでしょう。最近魔物の異常増殖で、うちの者達も全部が国の討伐隊に組み込まれてしまったわけですし。そのせいで妻も……いえ、それよりもその話を知らないのですか!」

「当り前だ。俺には関係ないからな」

「く、これも全部あの、アルベール王子が行方をくらませたから……ひいっ」

「それで、それを放せと言ったろう。死にたいのか?」

「わ、私はこの町切っての貴族ブラストだぞ! そんな相手にそんな……」

「良いから放せと俺は命令している」


 その声音が相変わらず凄く怒っているようなものに聞こえて、僕もびくびくしてしまう。

 そしてその貴族に話された僕は、アルに腕を掴まれて正規の入り口から遠ざかっていく。


「あ、あの、アル、助けてくれてありがとう」

「……仕方がないから、俺が神殿まで連れて行ってやる。あんなのに狙われていて心配だからな。ただ、神殿に連れて行くのは明日になるが。礼拝の客に紛れれば俺だと気づかれないだろうし、それならお前を連れて行ってやる」

「本当! アルはやっぱり優しいね」


 それにあるは沈黙したままだったけれどそこでアルは立ち止まる。

 そこには一本のロープが垂れ下がっている。


「これを登っていくが、お前は登れそうにない気がするな。……仕方がないから、荷物代わりに担いで登っていくか」

「え?」

「それとも自分で登るか? 落ちたら魔法の使えない異世界人がどうなるか分からないが」


 そう脅かされた僕は渋々担がれる様に、アルに連れて行かれる。

 ただその間ずっと遠くなる地面を見せつけられた僕は、その高さに涙目になった。

 そしてどうにか僕達は、町の中に入り込めたのだった。







 城壁の中に辿り着いた僕は周りを見渡す。

 その城壁から近い場所は、畑になっていた。

 アルが言うにはそんなに日差しが当たらなくても育つ、食用の植物が植わっているらしい。


 丁度花の時期だからか、その植物の花が暗闇の中で青く輝いている。

 花自体は、五枚の大きな花弁で彩られたものだけれど、その青白い光が暗闇の中浮かび上がって見えて、とても幻想的な風景を作り出している。

 それに先ほどの出来事も僕の頭の中から全部吹き飛んでしまって、その光景に見入ってしまう。

 そこで僕はアルに腕を引っ張られる。


「ほら、立ち止まっていないで行くぞ」

「え? う、うん、行く」


 そう僕は答えてアルに手をひかれて歩きだす。

 こうやって手をひかれていると分かるけれどアルの手はとても大きい。

 それにさっきだって助けてくれた。

 アルは優しくて、それが僕にはとても嬉しい。


 お金のためと言っていたけれど、そんなに困っていないとも言っていて何処まで本当の事を僕に話しているのか分からないけれど、それでも僕を心配してくれてはいるらしい。

 気付けば僕の口元はにやけていて、それを僕はアルに気付かれないようにしようといつもの顔にしようとしてまたついにやけている。と、


「何でそんな嬉しそうなんだ? 変態に連れて行かれそうになっていたのに」

「で、でもアルが助けてくれたし」


 その答えにアルは沈黙して、そのまま無言で歩いていく。

 気分を害しちゃったのかな、それとも照れたりしているのかな、そちらの方が良いなと僕は心の中で思う。

 そうしている内に人通りの多い道に出る。

 色々なお店が、各々個性豊かなランプの様なものを掲げて客引きをしている。


 飲食店から始まって宿の様なものもある。

 沢山の人、人。

 この世界では初めてだったので、それもまた僕には珍しくて堪らない。


 そんな僕の手を引いて、アルやがて人気のない路地に入り込む。

 そのまま歩いていくと、ポツンと家以外の明かりが見える。


「ああいった、大通りに面していない宿の方が宿代が安いんだ。何時まで逃げるか分からないから節約しないと」

「う、うん、そうなんだ……」

「ああ、そうそう、ここ、宿に泊まったら身分証みたいなものを出さないと、ここの町は泊めてくれないんだよな。基本的に」

「ええ! ぼ、僕はもっていないよ」

「そうだろうな。だから俺が代わりに作ってやる。ちょっと待て」


 そう言ってアルは何やら紙を取り出して、何かを書き込んで、そして、


「確か、タカセ・ユキで良かったか」

「はい、それが僕の名前です」

「……こうやって書いて、ハンコを押して……よし。これで完成だ」


 アルがものの数分で身分証を作ってしまった。

 これって、公的な文書の偽造みたいな事になるんじゃないだろうかと僕はふと思ったけれど考えないようにした。

 本当にこんなので大丈夫かな、と僕が思いつつ宿に向かう。

 やってきた宿でそれを見せると、宿の店主は目を瞬かせてからそれを持って、


「少々お待ち下さい」


 そう言って奥の方に行ってしまう。

 こんな風に確認されるのかと僕は思っているとアルは、


「……しまった、気付かれたかもしれない。おい、行くぞ。この宿はもう駄目だ」

「え? で、でも……」

「今までこのパターンで何度か捕まっているんだよ」

「そ、そうなんだ。でも何度もって、そんなに何回も……あれ、あそこの手配書みたいのにアルみたいな顔が……」

「こんな辺境にまで配りやがったのか。いくぞ、ユキ!」


 突然そんな風に言われて、僕は慌ててしまうけれど名前を呼んでもらえたのが嬉しくて素直にそれに従ったのだった。







 人通りの少ない道にひっそりと建っていた宿を見つける音ができ、ようやく僕達は泊まることが出来た。

 ただこの宿は身分証が必要がなない利点はあるものの、料金がそこそこ高くて、けれどその割には部屋は狭い。

 しかもまたダブルベッド。


 そんなこんなで、外で軽い、サンドイッチのような夕食を購入して食べた僕達は一緒のベッドで眠っていた。

 もちろん向い合ってである。

 そうしないと眠れないくらいに、このベッドは小さかったのだ。

 昼間の疲れもあってか僕はすぐに眠くなり始める。

 そんな僕に、アルは何処か口ごもりながらも問いかけてくる。


「それで、お前の世界は……いや、お前のいた場所では友達はいたか?」

「うん、芽衣って友達がいる」

「そうか、前に聞いたな。彼氏か?」

「だから違うって! というか何で男の彼氏! 普通は彼女だと思う」

「……可愛いからつい、そうなのかなと」

「どうしてそうなるんだ……そういえば芽衣どうしているんだろう。僕と一緒にいた時に声を聞いた気がするのだけれど」

「声?」

「名前を言ってくれって。それで僕と芽衣が名前を言ったら僕は……アルの前に一人で連れて来られたんだ」


 それにアルは少し黙って考えてから、


「それは、もう一人の神子なんじゃないのか?」

「え? そうなの? 確か僕と一緒に名前を言っていたから……芽衣も神子なのかな?」

「この隣の国の神子として召喚されているのかもしれないな。神殿に行けばもしかしたらそのうち会えるかもしれない」

「本当! そうだといいな」

「ああ。そして元の世界の戻り方も教えてもらえるはずだ。良かったな」

「うん! ……色々有り難う、アル」


 そう僕が言うとアルは僅かに目を細めて優しげに微笑み、僕の頭を撫ぜる。

 それが心地よくて、僕はぼんやりとしながら僕は疲れもあってか心地よく眠ってしまう。そんな僕の額に軽くあるがキスをしていたことなど、僕はついぞ気付かなかった。







 そんなこんなで朝が来た。

 ただぼんやりとした頭ではこの暖かい場所から出たいなどという感想が出てくるはずもなく。

 なのでむにゃむにゃ呟きながら、アルの服を掴んでぎゅとくっつく。

 温かくて気持ちが良いので更に僕はくっつく。


 そうするとアルの体温が段々移ってきている気がして更にまた眠くなってくる。

 このまま心地良い二度寝を楽しもう……そうしよう……ぐぅう。

 そう僕の意識がここちの良い世界に旅立とうとした瞬間だった。

 頭に軽く平手で叩かれたような衝撃を感じると同時に、アルの声が上から降ってきて、


「ほら、起きろ」

「痛い! 何で頭を叩くんだ!」

「軽く額を叩いただけだろう。頭をグリグリ俺に押し付けやがって、苦しいんんだよ」

「う、うぐ、もう少し優しく起こしてくれていいのに」

「お目覚めのキスでもしてやればよかったのか?」

「うん」


 むかっときたので、ニヤニヤ笑うアルに頷いてやった。

 アルが笑顔のまま凍りついた。

 どうしたんだろうと僕は見ていると、アルは大きく深呼吸をし、息を吐き、もう一度深呼吸をし……それを数回繰り返してから、無表情に僕を見て、


「起きろ、そして身支度を整えろ。朝食を食べて、すぐにお前を神殿に連れて行く」

「ご、ごめん、怒らせた?」

「……それで、早く支度をしろ。そして近くの店で朝食だ」


 それだけ告げて、アルはそれ以上僕と話したくないというかのように背を向けて着替え始める。

 だから僕も言われた通りに着替え始め、そして着替え終わると同時にアルに外に連れだされる。

 軽めの軽食として、焼いたパンの上にとろけるチーズとトマトを載せたようなものを購入し、食べながら移動をする。


 その間は僕とアルは一言も喋らなかった。

 けれど逸れてしまはないように僕の手をアルは握りしめてくれている。

 あんな風に冗談を言ったのがいけなかったのだろうかと、僕は今更ながら自分のあの時の行動を後悔をする。

 そうやって、僕はアルに連れられてある建物の前に連れて来られたのだった。









 綺麗な建物にはお祈りか何かをしに、朝からでも人が集まっていた。

 正確には神殿内に入るのに長蛇の列ができていたのだが。

 その人達の中に紛れ込むように僕達は並んだ。


 これでもう僕は、アルと別れなんだと思って悲しくなるけれど、ここまで連れてきてもらっただけでもと思い直す。

 そして、その列を先導するこの神殿の関係者らしい、白と青のローブのような服を着た人達の言う通りに並んでいると、少しずつ順番が回ってくる。

 だがそこで、声がした。


「アル?」


 そこにいたのは、鮮やかな青い髪に金色の瞳をした男性だった。

 細身の男性で、美人といった言葉がしっくりと来るような、眼鏡をかけた綺麗な男性だ。

 白い服を着ているのでここの関係者だろうかと僕は思っていると、アルが舌打ちした。


「気づかれた。……ここまでくれば危険は少ないだろう。後は好きにしろ」

「うん、ここまで連れてきてくれてありがとうね」


 それにアルは微笑んでその場を立ち去る。

 と、アルの名前を呼んだ人物が、


「アルがいました、捕まえてください!」


 と叫ぶと同時に、神殿の内部からそれを追いかけていく神官? と言っていいような武装集団が各々武器を持って追いかけていく。

その中にくすんだクリーム色の様な色の髪に赤い瞳をした人がいて、何となく歴戦の戦士の様な風格があるリーダーの様な美形がいて、彼に、先ほどアルと呼んだ男性が、


「リカルド、今度捕まえられなかったら、しばらくお預けです」

「……相変わらず手厳しいな、うちのお姫様は」

「捕まえてくればご褒美もありますが、何か?」

「それは頑張らないといけないな!」


 そういってそのリーダーは勇ましく走りだした。

 どうやらこの人達はそういった関係らしいなと僕が見ながら、アルは大丈夫だろうかと心配していると、そこで僕はその青い髪に金色の瞳をした美人に声をかけられた。


「君は、そういえばアルと一緒にいましたね。どちら様ですか?」

「あ、えっと僕は、高瀬有希と言います。異世界からここにきてしまったようで」

「! 神子様ですか、神子様ですねそうですね、無事召喚できたと、王子が城にいないのでどうしようかと……」

「王子?」


 何の話だろうと僕は思っているとそこでその人は沈黙し、僕をその人は見つめて何か考えこんでから、


「そうですね、まだあの方が言わないのであれば言わないでおきましょう。さて、神子様、こちらへ」


 そう僕は中へと案内されたのだった。



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