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何処かで会ったことのあるような男に、連れて行ってもらう事に

 声が聞こえたと思うと同時に、目をつむっていても感じた光が消え去るのを感じる。

 それとともに頬を撫ぜる風や土、そして森の緑の匂いがする。

 ふわっと香るそれに恐る恐る目を開くと、目の前には木々が一杯生えている森の様な物がある。


 次に僕は地面を見ると、スリッパを履いた状態の僕の足が目に映る。

 せめてこんな場所に連れてくるなら、もう少し準備をさせてくれてもいいじゃないかと僕は思った。

 そこでふと、人の気配を感じて僕は振り返る。


 立っていたのは、旅装束? のような、薄汚れた濃い緑色の布をかぶった男だった。

 頭まで布で体を覆っているが、顔の部分は少し開いているので、髪の色と瞳の色は見える。

 髪の色は金色で、瞳は雲一つない蒼天を映したかのような瞳。

 懐かしい色のそれらに僕は、ぼんやりとその……男と思われる背の高い人物を見上げた。


「えっと、どちら様ですか?」

「……」


 沈黙するその人物。

 そういえば先ほどまで光の中に僕はいたので、彼には突然、目の前に現れたように見えるかもしれない。

 そう思ったものの、今の状況を彼に説明するのは難しいし、そもそも信じてもらえるのかと思う。

 でも、何となく僕は目の前の彼に頼ってしまいたくなった。

 理由は分からないけれど、目の前の彼には僕を惹きつける何かがある気がする。と、


「……知らない人間に名乗る義理はないな。じゃあな」


 といって、僕の前から急いで立ち去ろうとする。

 けれどここの世界に飛ばされて? 初めて出会った人が彼なのだ。

 人通りも多いのかどうか分からないこの道で、まずは話を聞かないと何が何だか僕にも分からない。

 そもそもテレビゲームやパソコンゲームであれば初めに説明という名のチュートリアルがあったりするものだ。

 ちなみに僕は、チュートリアルは飛ばす派だ。

 けれど今のような状態であれば、間違いなく説明を丁寧に読んでいたし聞いていたと思う。


 そもそも勝手にこんな場所に連れてこられたんだから、そのあたりも説明してくれてもいいと思う。

 でもそんな説明役は現在存在しない。

 だから僕は自分でできる限りこの世界の情報を集めないといけないと瞬時に判断したので、その目の前ていた人物のかぶっている布を掴む。

 その人物は嫌そうに目を細めて、


「放せ」

「僕、何だかよく分からない内にこの世界に来ていたみたいなんです。なのでこの世界の事を教えて下さい!」

「……嫌だ。そもそも頼るのは俺じゃなくていいだろう」

「でも他に人はいないし……あ、馬車が走ってくる」

「ほらな、あの馬車を止めて話を聞くと良い。……俺は面倒事にこれ以上は関わりたくないんだ。それに……」

「それに?」

「そういった異世界の人間を保護して都市に連れて行くと、報奨金が出るはずだ。だから誰でもいいから話しかけて連れて行ってもらえ。その人物に報奨金が支払われるとなれば、大抵は快く快諾してくれるはずだ」

「そうなんだ! ありがとう、えっと……」

「別に、一般的な話だから、礼を言われる筋合いはない。それじゃあ俺はもう行く」

「うん、教えてくれてありがとうね」


 そう言って僕は手を振る。

 僕をあからさまに避けるような言動をしていたけれど、何かわけありなのかもしれない。

 でも、僕にとって必要な情報を教えてくれた恩人には変わりないから、僕はお礼を言って手を振る。

 それにその人は答えてくれなかったけれど、小さく笑ったように見えた。


 そして走ってきた馬車に手を振って止まってもらったのだけれど……鳴かからふとった男の人が出てくる。

 見た目からいかにもお金持ちそうで、着ている物も高級品だなと即座に分かるしたての良い服だ。

しかも黒髪に緑の瞳をした美形で、歳の頃は40代頃に見える紳士だった。見かけだけは。

 だがその人物は、僕の体を上から下まで値踏みをするように見てから、


「ふむ、これは……なかなか可愛いな、連れて行こう」

「え? ちょ、まさか僕、体を狙われている? あ、あの、僕は男なのですが……」

「そうなのか? まあ、これだけ可愛ければ男だろうが女だろうが構わないな。さて、こんな所をそんな軽装備で歩いている割に小奇麗だから、大方何処かの貴族の愛人でもしていたのだろう。この見かけは気に入ったから、妻にしても構わないがな」

「ちょ、違います僕は……やめっ、何で僕の服を脱がそうとするんですか! や、やだ、誰か助けてぇえええ」


 僕の話を聞かずに、服を脱がせようとする。

 よく見ると別の高級そうな服を片手に持っていたので着せ替え用としていたのかもしれない。

 けれどそんな事にまで気付く余裕はなくて、貞操の危機だと僕は悲鳴をあげて逃げようとする。

だが抵抗も虚しく、意外に強いその男に腕を掴まれて服を脱がされかかってしまう。


 これでは都市だか何処かに連れて行ってもらえるどころか、とんでもない事になってしまう。

 主に貞操的な意味で。

 そうやって僕が涙目でじたばたしてその男から逃げ出そうとすると、そこで僕を捕まえているその男に向かって銀色の刃が向けられる。


「今すぐそれを放せ。それは……俺の連れだ」


 その剣を持つ男は、先ほど僕の目の前にいた男だった。







。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"






 怪しいおじさんに連れて行かれそうになっていた僕を助けてくれたのは、先ほどの男だった。

 その貴族か何からしい男は、私にこんな事をして許されると思っているのかと叫んでいたが、助けてくれた彼が剣を向けると大人しくなった。

 そしてそのまま僕は、彼に手を引かれて道をゆく。

 馬車の進行方向と反対ではあったけれど。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」

「……どうして抵抗しない」

「え? で、でも抵抗はしていましたけれど……」


 それを聞いて目の前の彼は少し考えてから、


「……異世界の人間は、この世界に来ると何らかの魔法が使えるようになる」

「ええ! そうなんですか? どうやって?」

「俺が知るわけ無いだろう。その世界のその人物が一番身近にイメージする“魔法”が使えるようになるらしい。ああ、そういえば癒しの力を使う者もいたから、抵抗は出来ないかもしれないな。それでその魔法の力は異世界では使えないが、この世界では使えるものなのだそうだ。その内の一つが、言語の会話能力でもある。他にも異世界から来た人間には不思議な力があって、この世界のどんな毒も効かず、病気にもならないらしい。ただ魔法に近い魔法薬では、幾つか効果が認められているそうだ」

「そうなんだ……知らなかった。そういえばこの世界に来ると特典がついてくるとイッていたような……」

「恐らくはそれだろう。それにその力があれば、場合によっては“魔物”も倒せるだろうし自分を守れるだろう。今、試しに使ってみるといい」

「う、うん、魔物ってどんなもの?」


 それに目の前の男は沈黙する。

 何でだろうと僕が思っていると、その男は口を開く。


「色々なタイプがいるから、一概にどんなとはいえないな。危険なものからあまり危険でないものまで沢山あるからな」

「そ、そうなんだ。でも魔法なんてどんな風に使えばいいのか……」

「お前の世界で一番身近にある魔法はなんだ?」


 そう聞かれて真っ先に僕の頭に浮かんだのは、ゲームだった。

 ゲームの選択画面から、それか魔法を選んでぽちっと。

 そこで、ぶんっと重低音が聞こえる。


 目の前にあったのは、先ほどやっていたゲームの技を選択するゲーム画面だ。

 まさかこれを選択して触れるだけでお手軽に魔法が使えたりしないよな、と思った。

 思ったけれど、これからの事を考えると使えた方がいいし、やってみろと目の前の彼が言っているので、


「えっと、“炎球ファイヤーボール”」


 よくありそうな、炎の塊で、対象物に触れると炸裂するものを選択する。

 ゲームの中の効果のような、光の円陣が足元に浮かび上がる。

 体の中が熱くなって、気づけば僕は手を目の前にかざしていて。

 その手の平にふわりと浮かび上がる炎の塊。

 とりあえずその場で僕は念じてみた。


 目の前に飛んで行けと。

 同時にその炎の球が飛んでいき、森の木にあたって炸裂し……数十メートルの半円を描くように黒焦げになって、気が吹き飛ばされた。

 その吹き飛ばした木の残骸にはチラチラと小さな炎が揺れていて、でも僕はその威力にぎょっとして動けずにいると、


「“水の恵み”」


 その男が呟くと、炎の場所に水が大量に降ってきて火が消えてしまう。

 これで山火事にならないかもとそこで僕は気付いたのだけれど、そこで、


「今のがお前のイメージする魔法か。もう少し威力は抑えられないのか?」

「やり方がわからないよ」


 そう呟いて目の前の男は深々とため息を付いて、


「攻撃の魔法が使えるから、自分の身は守れそうだが……ここまで警戒心がないと、放っておくと寝覚めが悪い事になりそうだから、俺が連れて行ってやる」

「! 本当! ありがとう!」


 そう言って僕はその男に抱きついてしまう。

 その男が息を呑んだのが分る。

 そしてすぐに僕を引き剥がして、


「そんな風に簡単に誰にも抱きつくのか?」

「え? ……芽衣には抱きついたかも」

「……男か?」

「うん、僕の友達で、僕より背が低くて可愛いんだ」

「……そうか」


 それ以上何も言わず、その男は黙ってしまう。

 何処か安心したように見えたのは僕の気のせいかと思っているとそこで彼は、頭にかぶっていた部分を脱いで、


「俺の名前は、アルだ。お前は?」

「……」


 その姿は、昔会ったあの子をもっと男らしくした美形に一瞬見えてしまった。

 面影がどこかにある気がして、僕は黙ってしまうと、


「どうした?」

「! う、うん、僕は高瀬侑希たかせゆき

「ユキか、よろしく」


 それに僕もよろしくと答えるも、アルガ先程よりも体をこわばらせた気がした。

何でだろうと僕は思いながらも、僕はアルと握手したのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そんなこんなで、アルに連れて行かれた僕は土の道を歩いて行く。

 当然だがアスファルトで舗装されていない道。

 ただスリッパで歩いて行くのも動きにくいなと僕は思いつつ、アルに一生懸命ついていく。

 アルもそんな足の遅い僕に歩調を合わせながら歩いてくれている。

 訳ありだから僕を嫌煙するような言動をしていたけれど、こういった所も含めて人がいいのかもしれない。


 それを僕は敏感に感じ取ったのだろうかと思って、僕の観察眼も中々のものだよねと自画自賛した。

 それに、このアルは昔会ったあの子に何となく似ている気がするのだ。

 だからそんな彼に優しくしてもらえるのは、あの子に優しくしてもらえているようで嬉しい。

 そんな事を僕が考えていると、


「どうしたんだ? にやにやして」


 訝しそうな顔で聞いてくるアルに、僕は、教えないと答えるとアルはむっとしていたようだった。

 だって昔夢の中であった子に優しくしてもらえる気がして嬉しいなんて、恥ずかしくて言えない。

 そこでアルは、今度は別の事を僕に言う。


「この速度では、次の町まで辿り着くまでにあと一日かかる。だからもう少し行った先にある宿屋で一泊する事になる」

「そうなんだ。あ、でも僕お金は持っていない……」

「俺が支払うから大丈夫だ。その分請求金額に上乗せするから」

「う、うん……ありがとう。面倒ばっかりかけちゃうね」

「……別にいい。それとその靴と服は目立つから、宿屋でそういった服や靴を揃えよう。あまり品数はないし値段が高めになっているが、その服装よりはマシだろう」

「でも、目立つと問題があるの?」

「……さっきのあの貴族もどきは論外だが、そういえば異世界人をどうこうする悪い奴らもいると思い出したからな。それに可愛い見た目をユ……お前はしているから、危険な奴に狙われてしまうかもしれない。だからこういった俺と同じ旅装束をしろ」

「名前で呼んでくれてもいいじゃないか。何で言いかけて止めるんだ」

「気のせいだ。それで、俺と同じ服装だ」

「うん、分かった、アルと“おそろい”だね」


 同じ格好だからそういったのだけれど、そこでアルが立ち止まり、僕から顔を背けてプルプルしている。

 どうしたんだろう、そんなにおかしいことを言ったかな、僕と首を傾げていると、


「そうか、そうだな、お揃いだ。それ以上の意味は無い、うん、さて、行こうか」


 そう言われて歩きだしアルを僕は追いかけていく。

 そうして歩きながら、途中魔物が出るかもと言われたけれど特に何もなく、丁度夕暮れ時の時間帯に、街道沿いにぽつんと立っているその一件の宿屋に辿り着いたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 この世界は初め、灰色の霧に満たされた世界だった。

 けれどやがて、二つに別れる。それが、“光”と“闇”。

 それらは人に似た姿をしており、その二人は大地を、風を、水を、植物を、光に満たされた昼を、闇に満たされた夜を、そう、この世界を作った。

 最後に魔力で人を作り、その二人の神々は思案する。

 自分達は異なるが、元は同じもの。


 そして光と闇は、存在するだけで異なる正反対のものが触れるだけで、始りの“灰の霧”起こってしまう。

 “灰の霧”から、この世界に害をなす“魔物”が生まれてしまう。

 しかしこの“魔物”は異世界の“神子”の力によって振り払われて、“光”と“闇”に分かれ自然にかえるらしい。

 また、この大陸の二つの国の王族がそれぞれ、“光”と“闇”の神の化身の末裔であり、それを振り払うためにそれぞれ異世界の“神子”を呼ぶらしい。


 因みに、この“灰の霧”を生み出してしまうのは、普段は別の個体として無意識のうちに気をつけているけれど、怒りや欲望といった強い感情を覚えると接触してしまい、そういった“灰色の霧”が生まれてしまうのである。

 また、この世界の魔法は精霊というもの、つまり風や水や大地の眼に見えないそんな魔力の塊が微かに意志を宿したものに呼びかけて起るもので、その神々の末裔や神子は精霊に愛されやすく強い魔法が使える。

 そんな話を一通り聞いた僕は、アルに、


「つまり、その王族の人が僕を呼んだって事?」

「正確にはその配下の魔法使い達が、だな」

「その王族の人と一緒に僕は、その、“灰色の霧”を打ち払えばいいのかな」

「……そうだな」


 少し考えるような間を置いてから、アルは頷いた。

 けれど僕はそんな間の理由を聞くよりももっと気になることがあって、


「そ、それでその王族の人ってどんな人? お姫様?」


 王族でお姫様だったら、きっと綺麗なドレスを着ていて柔らかくてふわふわなんだろうなと思ったのだ。

 けれどそれに何故かアルはむっとしたように黙ってから、


「なんだ、そんなにお姫様のほうがいいのか?」

「うん! それでおっぱいが大きいといいな……」


 そんな幸せな気持ちになっている僕にアルは、意地悪く嗤い、


「この国も、そしてあちらの国も、いるのは王子だけだ」

「! そんな!」

「そもそも、その“魔物”を王子や王族達が倒しに行ったりするから、歴代の王族は男ばかりだぞ?」

「知らないよ、そんな夢のない話なんて……うう、可愛いお姫様とかと一緒に戦えたらと思ったのに。というか僕、戦うの?」

「それだけの魔力もあるし、攻撃魔法も使えるし、そうだろうな」


 気づけば、僕も戦闘をしないといけなくなっている。

 大体、今の話自体おかしいのだ。


「そ、そもそも何で王子様が戦っているんだ、一番偉い人なんでしょう? それに“神子”は、普通そうやって戦ったりしないはず」

「お前の世界の神子がどんなものかしら無いがこの世界はそういうものだ。そもそも神々の化身の末裔の王族が一番強い力を持っているのだから、戦うのは当然だろう? 嫌なら早く元の世界に帰るんだな」


 それを聞きながら明らかに間違っていると僕は心の中で思った。

 同時に早く夢なら目が冷めて欲しいと思ってしまう。

 と言うか早くもとの世界に帰りたい。

そこで、夕食の準備ができたと、宿の主人が僕達の部屋の前で、告げてきたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 この世界の料理は僕が食べてもいいものだろうか?

 そういった内容を目の前の焼き肉のようなものとキャベツと人参と玉葱のような物を炒めた食事を僕は睨みつけた。

 そのすぐ側にはバターのようなものと、ジャムのようなものが添えられた、丸くてふわふわの小さなパンが二つほど置かれている。

 しかも温かい野菜らしいもののスープが湯気を立てていたりする。


 はっきり言って、僕は今お腹が空いている。

 だから目の前のこの美味しそうな食べ物の数々が、とてもとても美味しそう。

 でもこの世界の食べ物は僕の体には大丈夫なものだろうか。

 そんな風に真剣な表情で料理と睨めっこしている僕だけれど、そこでアルが、


「どうした? 食べないのか? 好き嫌いが多いと背が伸びないぞ? ……だからそんな風に小さいのか」

「むかっ、好き嫌いはそんなに無いもん! ……これって異世界の人間が食べても大丈夫なの?」

「この世界の毒が効かないんだから、普通の人間よりも大丈夫なんじゃないのか?」


 もっともな返答が帰ってきたので僕は、恐る恐る僕はまずスープに口をつける。

 木彫のスプーンで液体をひとすくいして、においをかぐ。

 野菜と香辛料の柔らかな香りがする。

 僕は、思い切ってそれを口に含む。

 口いっぱいに美味しい野菜の旨味が広がっていく。


「美味しい……こっちはどんな味なんだろう。うん、これも美味しい」


 お腹が空いていたのもあって、夢中になって食べてしまう。

 そんな僕をアルがじっと優しげな眼差しで見ているのに途中で気づいた。

 だから僕は顔を上げて、


「どうしたの? 僕の顔をじっと見つめて」

「いや、美味しそうに食べている所が、小動物っぽくて可愛いなと」

「……誰が小動物だ。こんなに僕は男らしいのに……何がおかしい」

「いや、別に、くくっぷっ」


 アルは失礼だなと思いながらも食事に夢中になっていた僕はそれ以上何も言わず、僕は自分のペースでご飯を食べていく。

 もぐもぐと食べつつ、こうやってじっと見つめられるのは変な感じがするけれど、気にしないようにして食べていく。

 やがてアルも僕を見るのに飽きたのか、再び食事に手を付け始めたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そして部屋に戻って寝ようという事になったのだけれど、


「うう、きついよ。背を向けて寝るのもきつい……」

「ダブルベッドとはいえ、安い宿だから仕方がないな、それなら、こうするか?」


 そう言って、僕はベッドでアルと向かい合う。

 そのまま僕はアルに抱きしめられた。


「え、ええ!」

「騒ぐな、煩い。こうしていれば広く眠れるだろう?」

「え、いえ、うう」

「それに温かいしな。ユ……お前は体温が高くて子供っぽいから、温かくて、けれど大人に対してのそんな気分にもならなくていいな」

「何だかむかっとする言い草だけれど、これくらいならいいかな」


 そう僕は頷いて、アルの胸元の当たりに近づく。

 そのままぎゅっと甘えるようにアルに抱きついた。


 アルがビクッとしたような気がしたけれど、疲れていたのか僕はすぐに睡魔が襲ってきて意識が遠のいてしまう。

 そんな僕をアルが、勘弁してくれよ……そう困ったように呟いていたのを僕は知る由もなかったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 次の日の朝起きると、僕は自分が男に抱きしめられかかっているのに気づいた。

 何故と焦る僕だけれど、そういえば昨日アルと向かい合うようにして眠ろうとしたのを思い出した。

 その方がベッドが広いからでそれ以上の意味は多分ないと思う。

 僕はそう心の中で何度も呟いてみるけれど、そこでアルが、


「ユキ……」


 僕の名前を呼ぶアルに、僕は緊張してしまう。

 かたくなに僕の名前を呼ばないようにしているアル。

 理由は分からないけれど、寝言なのか僕の名前を呼んだのだ。


 それが何だか嬉しくてたまらくなってしまう僕。

 しかもこのアル、寝ているその様子はとても幼げな表情で、面影が昔の幼い頃の夢で出会った不思議な友達と重なる。

 そんな風な事を考えていると、そこで小さくアルが呻いてまぶたが震える。

 ゆっくりと開かれる青い瞳はぼんやりとしていて、僕を見ているようで見ていない感じだ。

 なのでそんな寝ぼけたアルも何となく格好いいよりも可愛く見えるよなと、そう思って見つめていると……アルが凍りついたように動きを止めた。

 そのまま無言でアルが僕を見ている。

 なので僕も無言でアルを見上げた。

 しばし静かな時が流れ、アルが、


「なんでユ……お前がここに?」


 いえ、ダブルベッドでこうなったのではと僕は思ったのだけれど、このアルの言い方はむかっとした。

 そもそもさっきは寝言で幸せそうに僕の名前を呼んだくせに、またお前といっている辺りが更に僕は苛立つ。

 なので僕は意趣返しも兼ねて、


「酷い、アルは昨日あんなに激しくしていたのに、忘れちゃったの?」


 アルが更に凍りついた。

 わー、驚いているな―と思いつつ僕は、


「ちなみに今のは嘘です。このダブルベッドの部屋しか空いていなかったんじゃん。それでベッドが狭いからこうやって抱きついていただけだよね」

「ああ、そういえば、そうだったよな。……よくも俺を騙したな」

「ひょうひゃう」


 そこで僕はアルに頬を引っ張られる。

 嘘をついた仕返しとはいえ、そんな事をしていて変な顔だと笑うのはどうかと思う。

 そしてしばらくして僕は頬を引っ張るのを止められたけれど、


「それでお前……そろそろ朝食の時間だろう。準備をしろ」

「何で名前を呼んでくれないんだ」

「渋々付き合ってやっているんだ。文句を言うな」

「寝言で僕の名前呼んだくせに」


 僕はアルの恥ずかしいだろう秘密を告げる。

 それに再びアルは動きを止めるが、次に深々と溜息をついて、


「……ユキという名前は、俺にとっては大事な名前なんだよ」

「へー、恋人か何かなの?」

「……忘れられない、初恋の人の名前だ」

「そ、そうなんだ。その人とは?」


 そう問いかけて僕は、後悔した。

 だってアルが、凄く切なそうに、けれど優しそうに微笑んだから。

 そんなアルは小さく呟く。


「もう俺は手に入れる事が出来ないし手に入れるつもりもない、そんな初恋の人だ。だから、お前の事は名前で呼ばない」

「うう、そういう理由だったら分かった」

「それとも何かあだ名でも付けてやろうか? 子兎とか」


 そんなあだ名お断りだと僕が答えると同時に、朝食が出来たと僕は言われたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 宿で朝食を頂く僕。

 出てきたのはベーコンエッグとサラダの様な物と焼きたてのパン、スープだった。

 スープには野菜が沢山入っていて、どれも甘くて美味しい。


 健康そうな食事を食べていた僕は、美味しいと目を輝かせる。

 そんな僕を時々、アルがじっと見て微笑む。

 観察されているような気がするのはいいとして、何というかこう、こうやって優しげに微笑まれると頬が熱くなる。


 かといってそれをアルに聞くのもどうかと思って僕は沈黙をしつつ、もきゅもきゅうとパンをちぎって食べた。

 もちろんバターのようなものといちごジャムのようなものを添えてである。

 そして朝食を食べてから少し休憩しつつ、僕達は荷物をまとめる。

 僕達が食事をとってすぐにこの宿を出ないのには理由があって、アルが、


「夕暮れ時の頃に、フォレストの町に着きたいんだ」

「そうなんだ。でも夕暮れ時だとここの宿みたいに、宿が埋まっちゃわないかな?」

「フォレストの町は広いから大丈夫だ。幾らでも宿なんてあるし、溶け込める。それに夜遅い方が人目につかなくていい」


 そういえば、アルは訳ありらしい事を聞いた気がする。

 確かに国庫からお金を拝借したと聞いた気がする。

 だからそうやって目立たないように、隠れる様に移動しているのだろうか。


 そもそもこの面倒見が良さそうなこのアルが、どうしてそんな事をやらかしたのだろうという気も僕はする。

 僕を連れて行くとお金になるけれどその程度ではお金が足りないらしい。

 けれどこうやって宿に泊まったり僕の服を買ったりして、アル自身には逃げる目的はあるけれど、その横領に関してが本当の理由ではない気が僕はするのだ。

まるで逃げること事態が目的てあるかのように、アルにはお金にも時間にも余裕があるように見える。


 けれど僕は聞く事は出来ない。

 機嫌を損ねたらというのもあるし、そういったものを詮索するのは嫌だろうからだ。

 何だかんだ言って、僕はアルに嫌われたくないのかもしれない。

 出会ってまだ少ししかたっていないけれど、近くにいると凄く安心するのだ。


 僕には理由が分からないけれど。

 そして僕達は、特に会話をするわけでもなく、僕の場合は窓の外を眺めていい天気だな~、でもここがい世界なんだな~と、周りを見渡しながら時間を潰して、アルはそんな僕を黙ってみていたけれど、特に何事も無く僕達は宿を後にする。

 途中、狼に兎の耳を生やしたような魔物が現れたけれど、


「ええっと、前使ったらあれだと大きいからこれ位かな。“氷結のフリーズ・ウィング”」

「おい、勝手に魔法を使おうとするな」

「え、ええ、でももう発動するよ!」


 魔物が出てきたので僕は怖くなって、選択画面を念じて呼び出して、以前と同じように攻撃用の魔法をとっさに選択してしまった。

 威力がそれほど高くない冷気の魔法。

 その冷気が吹く際に、空気中の水分が凍りついてキラキラと光を反射する氷の粒となる。


 それが大きく翼を広げた鳥の様に見えるので、そう名付けられたと以前、ゲームの説明に書いてあった。

 キンッと甲高い音がして現れた魔物の三匹が凍りずけになり、すぐにその氷ごと砕け散って砂の様にさらさらと大気中に消えていく。

 いかにもファンタジーらしい光景であるけれど、そこでころんと何か石の様な物が落ちる。


 それは緑色の石だった。

 透き通ったそれは、太陽の日差しの下にきらきらと輝いている。


「これって魔法石、とか?」


 ゲームか何かに出てきそうな気がして僕はそうやって呟く。と、アルが、


「よく知っているな。魔物の核となる部分には魔力を圧縮した、こういった石があって倒すと手に入る。他にも牙やら毛皮やらが手に入る場合もあるが、これが一番高価なものだ。ある程度自由に加工が出来るから」

「加工?」

「そう、魔力の塊……これは緑色だから、“風”の魔力の結晶だが、この世界の原初は魔力の塊だったから、これを他の魔法石などを使って、ある程度色々作れる。肥料から日用品、食料品、武器……そういったものが全てではないが、この魔法石で大抵は事足りる」

「へ~、これってそんな事が出来るんだ。じゃあ高く売れる?」


 そう僕があるに問いかけると、アルがその緑色の石を太陽にかざして様子を見る。

 僕もどんな感じなのだろうと思って覗きこむと、色ガラスのように不純物の見当たらない石のような形をしているようだった。

 そこでアルがそれを眺めるのをやめて、


「そうだな……意外にこれは純度が良いし、高く売れそうだな」

「じゃあ、アルにあげる。お礼も兼ねて」


 そう僕が言うとアルは一瞬黙ってそれから僕はぎゅっと突然アルに抱きしめられて、


「お前が持っていろ。油断しすぎだ」


 そう告げられて僕は初め何の意味だか分からなかった。

 そして僕に手を差し出させて、その先ほどの魔物の角を握らさせられる。

 触れただけで少し僕の手に風が巻き起こるのを感じたけれど、それは一瞬だった。


 アルによれば、神子は魔力の塊でもある精霊に愛されやすいから、精霊、この場合は風の精霊だけれど、喜んではしゃいでしまったのだろうという。

 精霊という言葉が出てきて、今は魔物を倒したから手に入れた魔法石を僕が持っていて……何だか魔物と精霊が同じもののように聞こえて、僕は混乱する。

 けれどそれに関してはアルは僕に説明してくれる気は無いようだった。


「元の世界に戻るまで、それがあればいざというときも自分の身くらいは守れるだろうと思うし、お前が持っていろ」

「……うん、アルがそう言うならそうする」


 そう答えた僕だが、そこでまたすぐ傍から先ほどの狼にウサミミをつけたような魔物が現れて襲ってくるけれど、そこで銀色の何かが僕の目の前に閃く。

 それがその魔物達を切り裂くと同時に先ほどの宝石のようなものに、3つほど変わる。

 魔物が出たと一瞬固まってしまった僕は、そこで今の銀色の閃きが、アルが剣で薙いだものだと気付いた。 

 一瞬で数頭も倒してしまったアルに僕は、


「もしかしてアルは、凄く強い剣士だったりする?」

「……どちらかといえば強い方だ」

「しかも魔法も使えたり?」

「この世界の剣士は基本的に魔法が使える奴しかいない。ただ、自身で魔法を使うか、その剣の付加された魔法機構によって生じる物なのかの違いはあるが」

「そうなんだ。剣見せて。こんな剣を間近で見たのは僕、初めてなんだ」

「仕方がないな。ほら」

「わーい……うごっ」


 そこで僕はアルの剣を渡されたけれど、思いの他重いのに気づく。

 というか持っているだけでもきつくてふり回せすらしない感じだ。

 そんなうんうん呻いている僕を見てアルは小さく吹き出してその剣を僕から取り上げる。


「異世界の“神子”様は、随分と非力だな」

「むか! ぼ、僕だってがんばって体を鍛えているのに!」

「でも持てなかったんだろう? 剣を使うのは諦めるんだな。せいぜい先ほど使ったくらいの小規模な魔法にしておけ。代わりに……俺が守ってやるから」


 守ると言った時に優しい眼差しで僕を見る。

 どうしてそんな目で僕を見るのだろうと思う。

 僕なんてアルにとってはお荷物でしかないだろうに。

 そう思いながらも僕は嬉しくて、うん、ありがとうと答えてほほ笑んだのだった。



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