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夢の中の出来事と、どこからともなく聞こえてくる謎の声

 あれ、どうして僕はこんな所にいるんだろう……そう僕は思った。

 もう遅いから寝なさいと母に言われて、早めに布団に入ったのだ。

 それから柔らかい布団が温かくて気持ちが良いな~と思って、気付けば意識が遠のいて眠ってしまったであろう記憶はある。

 なのに今、僕は、綺麗な花畑の傍に生えている木々の傍に立っていた。

 白やピンク、水色に紫、黄色に赤といった、様々な色の花が、各々の個性を主張するかのように咲き乱れ、風に揺れている。

 

甘い香りに酔ってしまいそうだと僕は思いながら、その花畑から少し上の場所を見上げる。

 花畑から少し離れた場所には大きな屋敷があって、イメージとしては観光資源になりそうなヨーロッパのお屋敷といったような風情だった。

 白い壁には金色の流れるような水に似た模様が付けられた枠に縁取られた窓が、規則正しく連なっている。


 そしてここから見えるのはそのお屋敷の側面らしく、入口になっていそうな場所は何処にも見当たらなかった。

 そこまで全体の景色を見回してから僕は、本当に僕、何でこんな所にいるんだろうと首をかしげる。

けれど僕はすぐに気づいた。

 きっとこの世界は僕の“夢”の世界なのだ。

 だから突然こんな場所にいたりするのだ、と。


 夢の中でこれは夢だ、と気付く事は時々あったので違和感はなかった。

 とはいえ夢にしては感覚が現実的で不思議だなと僕は思う。

 僕の頬を薙ぐ風は温かく、濃い緑色の葉からは木々の緑の匂いがする。

 ふわりと、風が凪いで僕の目の前に白い花の花弁が一枚舞う。

 温かい時期に雪が降ってきたのかと思うほどに白い花弁。


 何となく目で追うと、その花びらが飛んで行った先に一人の子供がいるのに気づく。

 眩い明るい金髪の子供。

 陽の光の中で、キラキラと輝くそれを見ながら、髪が短いので男の子かなと僕は思う。

 体を丸めて何をしているんだろうと思って僕は近づくと、草を踏みしめる音で気づいたのかもしれない。はっとしたように顔をあげてその子は、


「誰?」


 怯えるように呟いて振り返る。

 そこで僕と目が合った。

 青く淡い、空色の瞳。

 その瞳が涙でうるんでいる。

 性別が分からなくなるくらいに綺麗な子供で、こんな子、僕、今まで見た事がなかった。

 女の子かな、男の子かな? 女の子だと良いな、そう僕は思いながら僕は安心させるように微笑んで、


「初めまして、僕は、高瀬侑希たかせゆき

「タカセユキ? ……この辺りの人じゃないの?」

「多分。僕は、日本という国で生まれたんだ」

「ニホン? 知らない。……君は不思議な服を着ているから、精霊なのかな?」

「精霊? この世界にはそんなのがいるんだ」


 ファンタジーのような異世界の設定の夢なのかなと僕は思う。

 そこで僕の方をその子がじっと見て、


「タカセユキ? だよね」

「ユキでいいよ。皆そう呼んでいるし。あ、そうだ、君の名前は何ていうの?」


 僕が首をかしげて聞くと、その子は頬を朱に染めて、


「僕は、アルベール。……僕の名前を知らないって事は、僕が“怖く”無いんだよね?」

「? “怖い”? なんで? こんなに可愛いのに……もしかして女の子?」


 きている服装は少年めいているけれど、アルベールは女の子なのかなと期待をして僕は聞いてみる。

 途端、アルベールの機嫌が目に見えて悪くなった。

 むっとしたように頬を膨らませて、


「僕は男だ! ユキこそ女の子みたいな可愛い顔をしているくせに、僕を男と間違えるなんて……ひょっとしてユキは女の子?」

「! 違うよ、どうして僕が女の子なんだ! 背だってアルベールよりもあるし!」

「……背なんてその内、ユキなんか追い越すから良いんだ!」

「じゃあ、背なんてもっと僕は大きくなってやる」

「ずるい、だったら僕はもっと大きくなってやる!」


 お互い一歩も譲らない戦いだけれどそこで、僕は吹き出して笑った。

 それにアルベールもおかしくて堪らないと言ったように笑いだす。


「あははは、でも絶対にその内追い越してやるから」

「あはは、望む所だ。それで、えっと……」


 僕は考える。

 ここは夢の中の世界。

 だからこんな風に言うのは変かもしれないけれど、


「あのね、アルベール、僕の友達になって欲しいんだ」

「……友達?」


 不思議そうに首をかしげて、友達という言葉を反芻するアルベール。それに僕は、


「嫌? 僕は、アルベールと友達になりたいって思ったのだけれど」


 男の子とはいえ、こんなに綺麗で可愛い子と友達になれたら楽しいだろうなと思ったのだ。

 それに何だかこのアルベール、とても寂しそうだったし。

 そしてその問いかけにアルベールは大きく目を見開いて、すぐに満面の笑みで、


「うん、僕もユキと友達になりたい」


 それが、僕達が友達になった切掛けだった。

 話している内に、歳は同じだとか、好きな食べ物はとか色々なことをお互い知った。

 共通点がないようであったり、それが僕には嬉しい。

 そして夢の中の世界だと思っていたけれど、何となく違うような気がして、そして僕は何度も何度もアルベールと会って遊んだ。

 でもある時、突然終わりがやってきた。


「ユキ、ごめん。僕、ユキを……呼んでしまったかも」

「? アルベール? 何を言っているのか分からないよ?」


 出会った時の様に悲しそうに、瞳に涙をためてアルベールは僕に言う。

 でも理由は聞いてもかたくなに話そうとせず、そして、


「僕、ユキの事が好きだったんだ」

「僕もアルベールが好きだよ。でも何でそんな風に、お別れの言葉みたいに言うの?」


 もう二度と会えないような、そんな不安を感じて僕が聞くとアルベールは泣きながら頬笑み、そして僕に近づいてきて頬にキスをする。

 突然のアルベールの行動に僕が驚いていると、


「ユキ、大好き。だから……もう僕の前に現れないで。きっと、傷つけてしまうから」

「アルベール?」


 僕はそう名前を呼ぶと彼は頬笑み、手を振った。

 何でと思って僕はアルベールに近づこうとするけれど、その距離はどんどん遠くなる。

 それでも僕はアルベールと離れたくなくて手を伸ばすけれど……そこで僕は、目を覚ました。

 どうやらベッドから転げ落ちてしまったらしい。


「アルベール?」


 名前を呟くけれど、もちろん答えはない。

 そしてそれ以降僕は、夢の中で彼に出会う事はなかったのだった。










 懐かしい夢を見たから僕は、そんな事を友達に話してしまったのかもしれない。

 それに僕の友達である芽衣は、携帯ゲーム機から顔をあげずに、


「ふーん、昔、そんな不思議な事があったんだ」

「うん、芽衣にはさ、ほら、一番の親友だから話しておこうかなって思って」

「でもさ、僕、侑希の小学校の頃からの幼馴染じゃん。それで今僕達は大学生なわけ」

「……大事にしておきたい思い出だったんだ。自分だけの宝物にしたかったっていうか……他の人に話したら、薄くなってしまう気がして話せなかったんだ」


 あの時、出会った金髪の少年はとても可愛くて、女の子なんて目じゃないくらい綺麗だったのだ。

 そして僕がやってくるととても嬉しそうで。

 けれど……最後は、とても悲しそうな顔をして別れを告げたのだ。


 どうしてそんな顔をするのかを問いかけても、彼は答えなかった。

 そのすぐ後に目を覚ましたけれど、あれが全てただの夢であったと僕は思えなかったのだ。

 否、僕は思いたくなかったのかもしれない。

 だって、今になっても鮮明に覚えていて、もう一度あの子に僕は会いたいと思っているのだから。そんな僕に、芽衣は、


「まるで、恋をしているみたいに聞こえるね」

「そうなのかな……未だに彼女が出来ないのも、彼の事が忘れられないからなのかな」

「いや、それはただ単に、侑希が童顔で女の子みたいな顔だからだと思う」


 芽衣が即座に僕の言葉を否定して、そこで必殺技を繰り出した。

 現在二人で出来るゲームを僕の部屋でやっていたのだけれど、それをしながら顔も上げずにゲーム画面を見つめたまま告げた芽衣に僕は、


「僕よりずっとずっとずーっと女顔の芽衣に言われたくない」

「侑希は分かっていないな、鏡をみなよ、鏡を。どう考えても、僕と同じくらい可愛い顔をしているから。それに高校の頃、男子校だったから僕と侑希のセットで“姫”と呼ばれて女装させられたりしたじゃん」

「うう、今更ながらそんな黒歴史を思い出すなんて……で、でもあの頃よりも、一センチは身長が伸びたし!」

「その程度で僕よりも男っぽくなったなどと思わない事だ、侑希」

「くぅう、よし、ここで必殺技だっ、技を選択して、とりゃああああ」


 そこでようやく目の前の敵を撃破した僕は、勝利を確信した。

 と、そこで僕は芽衣が僕を意味深に見ているのに気づく。

 どうしたのだろうと思っていると、


「今更でも、僕に話してくれたのは嬉しかった」

「……うん。というか、ようやく過去の思い出にする決心がついたのかも」

「随分長い片思いだったね」

「……そうなのかな?」

「そうだよ、あの男子校の怪しい校風の中でも、他の男とは付き合ったりしなかったしね、侑希は」

「それは芽衣だってそうじゃん」

「? ああ、知らなかったんだ。僕は男性の恋人がいたよ?」

「ええ! 僕知らないよ!」

「……こっそり付き合っていたからね。でも全員、僕の運命の人ではなかったんだよね」

「しかも、全員てことは、何人もと付き合っていたんだ。僕、芽衣に彼氏がいるって全然気づかなかった」

「侑希は奥手だからね。それに鈍感だし」

「鈍感って、そんなことないもん」

「はは。……でもさ、そんな風に忘れようって思うならさ……僕なんてどう?」

「何が?」

「侑希の、こ・い・び・と」

「冗談としては面白くないよ、芽衣」

「冗談じゃなくてさ。……実はね、僕も昔、そんな風に不思議な綺麗な子に会った事があるんだ。侑希と同じように夢の世界でね」

「!そうなの?」

「うん、銀髪に青い瞳の綺麗な子でさ……僕はその内また会おうって約束したのだけれど、でも、結局未だに再会していなくて」

「そうなんだ、また会う約束したんだ」

「うん、でも、こんなになるまでまだ会えないから、僕も諦めようかなって。だから、侑希、僕の恋人になってよ」

「え、なんで? だって……」

「きっとその人の次に僕は侑希が好きだから。きっと付き合っていたら、一番に侑希がなると思うし」

「でも、嫌だよ僕。だって、僕、巨乳の女の子が好きだし」


 女の人のおっぱいには夢が詰まっている、そんな風に思えるくらいに僕は大人の男になっていたのだ!

 けれどそんな風に思っているのが僕の表情に出ていたのか、それとも芽衣の申し出を断ったせいなのか、芽衣はむっとしたように、


「……いらっとしたから、冗談のつもりだったけれど、襲って本当の恋人にしてやる」

「え、ちょ、やめ、くすぐったい、やだやだ、このっ」

「ふにゃ、くすぐったいというか、よくもやったな、こうしてやる!」


 そうやって僕達が仲良く喧嘩している所で、そこで声が聞こえる。

 初めは気のせいかと思ったけれど、


「汝、名前を告げよ」

「いえいえ、知らない人に名前を聞かれても答えるわけがないじゃないですか」


 僕はつい、真面目に答えてしまった。

 それがいけなかったのかもしれない。

 すぐに其の問いかける声が、


「あ! 声が届いているみたいですぞ、よし、ではお名前をお願いします」

「……みきです」

「……嘘ですな」

 即座に僕の嘘がばれてしまった。

 何故だと僕が思っているとそこでその声が、


「ふふふ、嘘かどうかなんて分かりますからな。そして君だけではなくもう一人そこにいますね」

「……見ているのか? どこから?」


 芽衣が周りを見回して、窓のカーテンを閉める。

 けれどすぐに声が振ってきて、


「ふ、そんな事をしても意味はありません。さあ、名前を言うのです」

「嫌です、というか逃げないと!」


 僕は部屋から逃げ出そうと、芽衣の手を握る。

 けれどすぐに今度は違う声が振ってきて、


「今すぐ答えたら、“特典”がついてくるよ~」

「……いえいえ、遠慮します。それでは」

「仕方がないな、これだけは使いたくなかったけれど、君、その部屋に、胸の大きな女性の露出度の高いイラスト本を隠しているね?」

「ふわぁあああ、僕の宝ものの水着写真集がバレ……いやいや、まだ何処かは……」

「君の部屋の本棚の一番下の奥に隠してあるね」

「いやぁああああ」

「それを君のお母様達に伝えてもいいのか!」

「や、やめて、お願いします! 僕は高瀬侑希です!」

「ふむ、それでもう一人は?」


 そこで声が、芽衣の名前を聞く。

 きっと止めた方が良いよと僕が芽衣に言うと、


「こんな面白そうな事、ここで止めるのなんて僕は嫌だよ。というわけで、奥野芽衣です」

「では、奥野芽衣、高瀬侑希、両者を我々の世界に招待しましょう。あ、きちんと戻る方法もありますのでご安心ください、神子様方」


 その声がそう告げるとともに、僕達の足元に二つの円陣が浮かび上がる。

 僕の足元には金色、そして芽衣の足元には銀色の魔法陣の様な物が浮かび上がり、そこから光り輝く花びらの様な物が幾つも浮かび上がっていく。

 その眩しさに僕はつい瞳を閉じてしまう。


 そんな超常現象に巻き込まれた僕だけれど、ふと脳裏に昔あったあの子の事が頭に浮かぶ。

 もしかしたなら、また会えるだろうか。

 わずかな期待が僕の中で浮かぶ。

 そこで僕は、光の中で意識を失いそうになるけれど、


「ふ、ふええぇ、やぁああっ、何?」


 体中を、僕を包む光がまさぐっている。

 まるで僕という獲物の味見をするかのように体に触れる。

 続々とした快感が僕の中に生まれるけれど、それが嫌でじたばたする。


「やだ、やめて、こんなの嫌、助けてっ、アルベール」


 ふと、懐かしい名前を呼んで助けを求めてしまう。

 そんな言葉で助けてもらえるなんて思えなかったけれど、体をいじるその手は嫌で堪らなくて。

 そこで、声がした。


「ユキ?」


 不思議そうな男性の声。

 そして僕は、その声に引き寄せられるように、何処かに引きずり出されるのを感じたのだった。



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