02
先生の声がどこか遠くで聞こえる。
ぼんやりと見えている世界は、景色となって頭には入ってこない。
(眠い……)
5時間目の古典の授業。おじいちゃん先生の独特のリズムは、生徒たちを夢の中へ誘う。
くじ引きで引き当てた窓側の後ろから二番目の席に座る少女――成宮真琴は、自分の視界が自身の瞼によって狭まっていくのがわかった。
周りを見れば過半数が寝ているのがわかる。先生は気付いているのかいないのか、微妙な所だ。もしバレていたとすると、彼等は大幅に平常点を減点されていて、通知表を見て泣く羽目になるだろう。
外にふと視線をやると、男子がサッカーしているのが見える。この学校の校舎は四階で、最上階から一年、二年、三年という構造だ。つまり一年である真琴の席は、たいへん見晴らしが良い。
あと三十分――時計を見て早くからカウントダウンを開始する。お昼ご飯による満腹感とこの気温の中では、時計の針はなかなか進まない。
ノートの文字がミミズが這うような文字になっている。それすら気付かず、必死に目を開けようと奮闘していたその時。
ぐらりと、世界が揺れた。
「地震だ!」
誰かが叫ぶ。
「机の下に……!」
おじいちゃん先生がしわがれた声を張り上げた。
結構、デカい。
一気に襲い掛かった揺れに、真琴は反射的にその身を机の下に滑り込ませた。――時。
「キャアアア!」
前の席――いや、前の前の席の子だったかもしれない。真琴と同じく窓側の席を引き当てた女子生徒の、甲高い悲鳴が聞こえた。
降り注ぐガラスの破片。
机に納まりきらなかった腕にあたって、鋭い痛みと共に血が滲む。
音が鳴り止み顔を上げると、二枚の窓が砕け散っていた。
気付けば既に、揺れは収まっている。
――これは普通の、地震じゃない。
気付くのに時間はかからなかった。