うそつきなコンドル
むかしむかし、かみさまが一羽のコンドルをおつくりになりました。
そのコンドルはことばを話すことができ、誰よりもたくさんのことを知っていました。
けれども、ひねくれていて、とてもうそつきでした。
あるとき、死者の魂を裁くことになったかみさまが彼らの功罪をおたずねになると、コンドルはよい魂をみんなわるい魂だといい、わるい魂をみんなよい魂だといいました。
あとでこれがうそだとわかったとき、かみさまはカンカンにおいかりになって、
「このうそつきめ」
といってコンドルをののしられると、地上においだしてしまわれました。
地上におりてしばらくしたのち、コンドルは人間のすむ村に立ちよりました。
村のひとびとが、どこからきたのかとたずねると、コンドルは、
「じめんの下から」
といいます。
どうしてことばを話せるのかとたずねると、
「コンドルはことばを話さない」
といいます。
村のひとびとは、コンドルがあまりにうそつきなことに気がついて、けいべつして石をなげてきました。
石がつばさにあたって、びっくりしたので、コンドルはにげだしました。
コンドルは、村のちかくの山おくにかくれることにしましたが、石をあてられた傷がひどくなって、空をとべなくなってしまいました。
たべるものがなくなったコンドルがよわりはてていると、しげみから一人の女の子がすがたをあらわしました。
女の子は、たおれているコンドルをかわいそうにおもって、じぶんのたべものを分けてやり、傷のてあてをしてやりました。
コンドルがだんだん元気になってくると、女の子はいくつかのことを話しかけましたが、村のひとびとのときのように、たちまちのうちにこれが大うそつきであることがわかりました。
けれども、コンドルが顔を赤くして、
「コンドルは感謝していない」
というので、コンドルの気持ちがわかった女の子は、可笑しくなってわらいました。
やがてすっかり傷がよくなったコンドルは、どこへでも飛んでゆけるようになりましたが、助けてもらったことをわすれず、ときどき肉やくだものを女の子のところに届けにきました。
そのうちに、コンドルと女の子はともだちになって、おたがいにいろいろなことを知りました。
女の子は、むかし、かみさまのいけにえになるようにと、この山おくにおいだされた子供でした。
運よく、うえじにせずに生きのこっていたわけです。
コンドルは、少ないたべものをわけてくれていたと知って、ますます女の子に感謝するようになりました。
女の子のほうでは、コンドルがしんじられないほどすぐれたうそつきであることを知って、おどろくことがありました。
あるときコンドルをからかってやろうとして、一枚のはっぱを手にとり、コンドルにみえないように隠しながら、うらかおもてかとたずねたときのことです。
女の子は、コンドルに間違ってほんとうのことをいわせてやろうとおもいました。
するとコンドルは、
「うら」
といいました。
はっぱはおもてでした。
そこで、こっそりはっぱをひっくりかえしてから、女の子はまたたずねました。
コンドルは、
「おもて」
といいました。
もういちどひっくりかえすと、
「うら」
ひっくりかえすふりをすると、
「うら」
そうして、なんどやってもコンドルがうそばかりつくので、女の子はついに目をまるくしていいました。
「すごいわ、コンドルはほんとうにうそつきなのね」
コンドルはうそがほめられたので、いばった顔をしました。
それに、ほんとうにうそつき、ということばがなんだかうれしくて、心のなかでくりかえしました。
ほんとうのうそつき。
ほんとうのうそつきなのね。
コンドルがいばりながらにやにやしているのを見て、女の子もしあわせな気持ちになりました。
それからコンドルはたくさんのうそをついて、たくさんのことを女の子におしえました。
「あしたはあめがふらない」
といって、あめがふることをおしえました。
「きょうは東のガケがあんぜん」
といって、ガケがあぶないことをおしえました。
その日のうちにおおあめがふって、ガケがくずれました。
コンドルがおしえてくれたことは、みんなほんとうにそのとおりになりました。
いったいどんな正直ものに、こんなことができたでしょうか。
だれしもときには正直になりそこなってうそをつくことがなかったでしょうか。
コンドルはひねくれものでうそつきでしたが、けっして間違ってほんとうのことをいったりはしませんでした。
いつも完全にほんとうにうそつきでした。
この世のほんとうのものごとが、もしたったひとつのところにあつまっているとしたら、それはこの大うそつきなコンドルのところだと女の子はいいました。
コンドルはそれをきいて胸をはりました。
コンドルのおかげでケガをすることもなく、たべるものもたくさんあつめられるようになっていた女の子は、もう子供ではありませんでした。
そっとコンドルに肩をよせてキスをしました。
そして、しずかな瞬間をいくつかかぞえたあと、ふうふになろうといったのです。
コンドルと女の子がいっしょになって、ながいねんげつをすごしたころ、女の子はおもいびょうきにかかりました。
コンドルは女の子がこのびょうきになることをずっとまえから知っていたので、とてもくるしい気持ちでした。
女の子はいままでにもなんかいかびょうきになりましたが、こんどのびょうきはぜんぜんちがうものでした。
かみさまがきめたびょうきで、いのちのやくそくのようなものでした。
それからひとつきくらいたって、女の子が寝床でつらそうになにかいうので、コンドルは傍によって耳をかたむけました。
かみさまのおむかえがくるのね、と、ききとれないくらいしわがれた声で女の子がいいました。
コンドルは、
「そうとも、けっしてなおらない。いのちをうばうびょうきだから」
といいました。
それは、これまでにけっしてついたことがない種類のうそであり、かなしいうそでした。
女の子はそれをさえぎって、
「うそつき。ほんとうに。正直なんだから」
そういうふうに確かな声でいい、ほほえみながら、コンドルのくちばしをなでました。
なみだがそこにつたわっていたからです。
コンドルは泣いていました。
かれえだのような指がうるおされていく一瞬々々がまるでえいえんのようにながくかんじられました。
女の子のいのちもせめてそうであればとおもいました。
ながいじかんがたっても、コンドルのなみだはかれませんでした
あたらしくのぼりゆくひとつの星が、それをやさしくみおろしていました。
よるがあけるころ、コンドルは女の子とくらしたばしょをかたづけて、かみさまのいるところにむかって大きくはばたき、もう地上にはもどりませんでした。
コンドルのおこないをずっとごらんになっていたかみさまは、このひねくれた正直者のことをもうよくご存知だったので、ふたたび傍にむかえいれることをおゆるしになりました。
ところがコンドルは、それからふしぎとうそつきではなくなり、ゆうしゅうでせいじつな知恵ものとしてべつじんのようによくはたらきました。
ある国のでんせつによれば、これをいたくお気に召されたかみさまは、よぞらの星のひとつを白いコンドルにかえてつがいとされたということです。
したしげに肩をよせあう二羽のコンドルの像が、その国でいちばんおおきいはくぶつかんにかざられています。
(終)