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ちくわ

作者: 大豆小豆

 ちくわの穴から満月を見てはいけない。

 

 深夜に寮を抜け出した私は図書室の扉にそっと鍵を差し込む。

 可愛らしい鈴の音を小さく響かせたその鍵は、月明かりの密室に私を招いてくれた。

 慣れた動作でカウンター内のフックに大きなプレート付きの鍵を引っ掛ける。

 その鈴付きのプレートには、スターチスの花をあしらったレリーフと図書委員の文字。

 窓際の席に腰掛けていつものように満月に祈る。

 「今日こそは陽子が見つかりますように」

 10年前のふんどし祭りの日に陽子は神隠しにあった。

 私だけが原因を知っている。大人は誰も信じてくれなかったが、ちくワープは存在するのだ。

 月が満ちているほんの数分間だけ、ちくわは魔法の力を発揮する。

 

 腕時計のアラームが、ちくわに魔力が満ちたことを告げる。

 取り出したちくわを月に掲げ両目でしっかりと穴越しの満月を見つめると、ここではない景色が浮かんできた。

 白衣の女医が見える。豊満な胸を揺らしながら、助手と共に少女を怪しげな椅子に繋ぐ。

 「これでよしっと。じゃあもう一度、お話を聞かせてくれる?」

 小学生ぐらいだろうか、少女は頷いて答える

 「は、はい」

 「ちくわで満月をみていたんです。」

 「そしたら、お月様じゃなくて赤毛の女の人が見えて…… おかしいなって」

 「もっと良く見ようと、ちくわの穴に目を近づけたらいつの間にか牢屋の中に」

 涙声になっていた。女医が少女を椅子から解放する。

 「はい。もういいわよ」

 「嘘はついていないし、脳に何の異常も見られない。いたって正常」

 壁に埋め込まれたパネルを操作していた女医が、胸を揺らしながら振り向く。

 「消えた囚人M17号。その赤毛のお姉ちゃんも、ちくわがどうとか言っていたのよ」

 「ちくわって、食べ物のちくわよね?」

 「は、はい」と少女。

 無駄に大きい胸を揺らしながら椅子に腰掛けた女医が頭を抱える。

 いちいち胸がゆさゆさと揺れるムカつく女医から視線を外し、掲げていたちくわを下ろす。

 

 「このちくわもハズレ」

 10年の経験で色々と分かったことがある。

 魔法はちくわを愛する人にしか発動しないこと。

 ちくわが見せるのは、やはりちくわを愛する人だということ。

 

 次のちくわを取り出して掲げ、ここではない景色を見る。

 湯気越しに温泉につかる少女が見えた。ふんどし姿の少女だ。

 心臓が止まるかと思った。きっと本当に少しだけ止まったのだと思う。

 あの時のまま7歳の陽子が、ちくわのあちら側に居た。半べそをかいている。私の名前を呼んでいる。

 早鐘を打つ心臓を抑え、慎重に陽子の隣のお湯にピントを合わせる。

 「ごめんねみんな」

 ちくわをそっと右目に近づけ、左目を瞑る。

 水浸しの図書室を掃除するはめになる友人達へ、届かないお詫びの言葉を残して私はこの世界を去った。


 ちくわの穴から満月を見てはいけない。

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