私の居場所
「ケンちゃんナイスー!!」
「よっ!男前ー!」
「ヤヒロくーん!!」
「ハルお疲れー!」
「ケンシくーん!」
クラスメートの声と、違うクラスの女の子の黄色い声。とにかく煩い。
試合は我がクラスが勝利しましたとも。
「やっちゃん、アレアレ!」
楓菜の楽しそうな声に釣られて指差す方を見る。
「「キャーッ!!!!」」
サリーが八尋にタオルを投げ渡していた。
周りから悲鳴とも感嘆ともわからない叫び声。
いい加減、耳痛いって。
「あー…相変わらずラブラブだねー」
「見せつけてるねー。これで2人狙いの子は砕け散ったね」
「今更でしょ。こんなに女子が騒いでるのがわかんない」
「そりゃ、2人がちゃんと付き合ってるって言わないからだよ。
てか、何で否定するかなぁー」
「それこそわかんない。サリーあんま話したがんないし。ヤヒロはいっつもあんなだし」
サリーからタオルを受け取った後、ギャラリー席にいる女の子達に手を振っている。
「あいつは天然たらしだー。
てか、やっちゃん、今日ぼーっとしてない?疲れた?」
「え!?そう?」
「ん~、さっきもぼーっと座ってたじゃん?体育館暑いし、外行く?」
「…うん。そうしよっかな。ここ煩いし」
「言えてる!」
周りに気づかれちゃうなんて、あたしらしくないな。しっかりしなくちゃ。
大丈夫。
ちゃんと笑えるもん。
◆◆◆◆◆◆◆
しっかりものの委員長。
それがあたしのポジション。
だから大丈夫。ウジウジするのは性に合わない。
誰かに心配掛けるのは嫌。
大丈夫。大丈夫。
先生と離れる日が来ても、笑えるよ。
ううん、笑わなくちゃ。
他人を頼るのは苦手なの。依存しちゃうなんてキャラじゃない。
あたしは、先生がいなくても大丈夫。
楓菜と体育館の入口近くでひなたぼっこ。
なんか落ち着くかも。
「あっ!ナルちゃーん!」
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下。体育館に向かって歩いてくるのは、先生。
会いたくなかったな。
胸が痛くて、重くなった。
「おー、山岸、堤」
「男子勝ったよー」
楓菜がVサインしてみせる。
「そっかー。あいつらやるなぁ」
「焼き肉かかってるからねっ!」
「アレ?それもう回ってんの?はえーな」
「約束破ったらみんな怒るからねー」
「はは。まぁ、頑張れよ」
「うん!てか、ソフト負けちゃったから、あたしもう出ないんだけどねっ。
で、ナルちゃん何してんの?」
「ん?ソフトの審判終わったからバレー組見に来たんだけど、ちょっと遅かったな」
「大丈夫、大丈夫!決勝もうすぐだから!ね、やっちゃん」
「っ!う、うん」
完全に聞き役だったから動揺してしまった。
いけない、いけない。いつも通りに、委員長らしく。
「そーか。丁度だな。
で、2人は何してんの?」
「ひなたぼっこー」
「おー。随分年寄りじみてんな」
「ナルちゃんひっどー。うちら女子高生だし!」
ははっ、て笑う先生と一緒に笑った。
うん。上手く笑えた。我ながら上出来だわ。
黒縁眼鏡と長い前髪で、綺麗な瞳を隠してる先生。王子のときと違ってセットされていない髪。それでも、艶々と輝いてる。
いつもと変わらない唇。薄くて、形が良くて、綺麗。
先生に、綺麗じゃないところなんて無い。
最初から、私が先生と釣り合うところなんて、無かったの。
先生は、私と別次元にいた。
私も、先生と別次元にいた。
じゃあ、いま二人がいるところは何処?
そう、二人でいるところなんて、無いの。
元から、無かったの。