王子にはかないません。
いつのまに、貴方で満たされてしまったの?
◆◆◆◆◆
あの男に、弱点なんかない。
「━━じゃ、ホームルーム終わりー。イインチョー号令」
「起立。礼」
いつだってあたしは奴の手のひらの上。
「イインチョー、授業のプリント取りに来て」
ほら、今日も傲慢な男。
眼鏡の裏に本性を隠して、貼り付けの笑顔を浮かべるんだから。
「わかりました」
素顔とのギャップにようやく慣れてきた今日この頃。
衝撃のお見合いから約1ヶ月。
あたしと彼は順調に、結婚を前提としたお付き合いを続けている。結納の品を頂いてしまったから婚約者になるのよね。
そう、私の担任、成美佳人先生はあたしの恋人です。っていうか、恩人?
あたしの父の会社を救ってくれ、あたしのお見合いからも救ってくれた。感謝してもしきれない程の恩人なのです。うん、多分。あんまり認めたくないけどね。
「遅い」
「すいませ「呼んだらすぐに来るように」
性悪が眼鏡から隠れてませんよ、センセ。
「前も言った筈だよな?靖葉チャン」
「…はい。すいません」
眼鏡ナシ俺様王子には慣れてきたけど、眼鏡アリ数学教師の俺様発言にはなかなか慣れない訳で…。ギャップに慣れてもこういう発言には慣れたくないもんです。
学校だと普通に優しいから安心してるってのもあるんだよね。2人になると御覧の通りですけど。
「どうかしました?」
学校ではあまり2人きりになる機会なんて作らない先生がわざわざあたしを呼ぶなんて、何かあるに決まってる。
「結納の日決まったから。再来週の日曜」
……………は??
人間って本当に驚いた時、声が出ないんですよね。こないだ学んだよ、あたし。
「ぷっ。マヌケな顔。
まあ、結納って言っても両家の顔合わせするだけのようなものだから。結納の品は前に贈ったし」
「か、か、顔合わせっ?」
「どもり過ぎ。ん。食事するだけだから心配すんな」
そう言ってセンセはあたしの頭を撫でてくれた。
俺様で横暴だけど、なんだかんだ優しいの。こういうところ、胸がキューってなる。狡いよ、センセ。
「早めに言った方が心の準備出来ると思ったんだけど?」
「え!?…あ、うんっ。心の準備ね!うん!」
「もっと早くしたかったんだけどな。あいつらの都合が合わなくて、やっとだ」
「あいつらって…?」
「ん?あぁ、俺の両親」
「センセの両親!?!?」
「俺の話聞いてた?お前誰と顔合わせするつもりだよ」
センセの両親?この俺様王子の?どんだけ煌びやかな人達なんだろう。確実にセンセは両親の遺伝子を受け継いでいるのよね。だとしたら、絶対にキラキラ遺伝子持ってるわ。
「てか2人の時は、名前」
「…あっ!」
「ペナルティ何回目?」
センセは素顔を隠す眼鏡を外す。
あたしの顔は絶対に真っ赤で、センセの顔なんてまともに見れなくなるの。
「呼べよ、名前」
「…よ、佳」
王子はせっかちだから、いつもあたしは半分しか言わせてもらえない。
王子の唇に、言おうとした言葉を奪われてしまう。
あたしの唇ごと。
ペナルティは甘いキス。
センセは実はあたしを甘やかすのが好きみたい。
「顔、赤過ぎ」
「っっ!!誰のせいだと、」
「俺のせいだよね?」
王子にはかなわないんです。