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1.とっておきの始まり


「やってきました、夏休み。きっと今年はなにか素敵なことが起きる気がする!」

 声と同じ様に気分が高揚しているのがわかるのはその足運びだ。彼女はスキップをしていた。ただ、この町の特徴として石段が多いことを彼女はすっかり忘れていた。そして、彼女がドジだということも。

「……うわっ、転ぶとかついてないなー。でも、不幸の次は幸運がくる!」

 彼女が向かっているのはこの町にたくさんあるものの一つ、神社だった。

「……神様、どうか今年こそ素敵な出会いが見つかりますように」

 結縁ゆいえん神社と名高いこの神社は縁結びなどの恋愛関係の神社である。

 彼女がそこに向かったということは、彼女も一人の乙女ということだろう。

「千歳の夏休み、素敵なことがありますように。お願いします、神様」

 そう、彼女――千歳はそう願い帰ろうとした。

 ――嬢ちゃんの願い、わしが叶えたるわ――

 誰もいないはずの境内で、自分以外の声を聞いた気がした千歳は誰かいないか確かめるため神社を一周見回ることにした。


 その神社に向かって歩いているのは怜音だった。

「そういえば、僕らどこに住むんだろう。師匠は何もいってくれなかったしな」

 あ、と小さな声を漏らし怜音は手紙を取り出した。

「必要な時に読みな、と言っていたから今だよね」

 怜音は師匠からの手紙を読んだ。読み終わった怜音の表情は固まった。

「え、師匠。泊まる場所がないって、僕はどうしたら……」

 頭を抱え込みたくなった怜音だがそれを自制してとりあえずの目標である神社へと向かった。


 千歳は一周し、この場から去ろうとしていた。

「さっきのは気のせいだったんだよね。さて、帰るかー」

「はあ、今の僕には神頼みしかないのか……」

 少しだけ可笑しなつぶやきを聞いた千歳はその人物へと話しかけた。

「えっと、この神社は縁結びですよ?」

「知ってるよ、だから人の縁を結んでくれることを期待してね」

 彼は千歳の方へ振り返り自嘲するように言った。

「何か……困っているんですか? 私であれば、お手伝いします」

「あー、気持ちは嬉しいけど……僕夏休みの間こっちにいる予定だったんだけど、泊まるところがなくって……」

 本当に困った様子の彼に千歳は力を貸すことに決めた。

「私の家に空き部屋あるし、よかったら泊まりますか?」

「でも、迷惑では?」

 不安げに尋ねた彼を安心させるように千歳は言った。

「大丈夫、私の家親は留守だから」

 怜音は危うく体制を崩しそうになった。なんとか体制を維持すると怜音は千歳の誘いを受けた。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。僕は怜音、お世話になります」

「私は千歳、こちらこそよろしく。敬語はなしで」

 だって私達友達でしょ? と笑う千歳に怜音は笑みを返した。


「千歳って一人で暮らしているの?」

「いや、おばさんと二人で暮らしてるよ。両親がいないかわりだって」

「そっか、なら安心だね」

 ぽかんとした千歳に怜音はあきれるだけで説明はしなかった。

 ついたのは二階建ての大きな家だった。シェアハウスにちかいものがあった。

「お邪魔します」

「ただいまー」

 中から出てきたのは綺麗な妙齢の女性だった。

「あら、そのこはどちら様?」

「泊まる場所がないんだって。泊めてあげて?」

「かまわないわ、部屋は余ってるもの。私は柊香しゅうかよろしくね」

「初めまして、僕は怜音です。お世話になります」

 怜音は二人をとても軽い……気が優しい人だということに気付いた。

 その後柊香から日常生活に必要なことを色々教えてもらい、三人での夕ご飯となった。

「そうなんだ、怜音は師匠さんに課題を出されているのね」

「はい、それをクリアしないと一人前と認めてもらえないんです」

 怜音の経緯についての話のようだ。柊香は千歳と怜音を比べるように見ながら言った。

「千歳も怜音を見習ったらどうかしら。同い年でこうも違うのかしらねー」

 そして一人で何かもごもごとつぶやき、手を打つと二人に笑顔で提案した。

「どうかな、千歳に怜音の課題の手伝いをしてもらったら」

「え、どういうことですか?」

「勝手に決めないでよ、柊香さん」

 二人ともいきなりの提案に驚いているようだった。

「だって、千歳はこの夏休みすることはないんでしょ? それだったら怜音の手伝いをしていた方が有意義だし、怜音も課題クリアのためも手伝いはいても構わないでしょ?」

 柊香の口調自体は至極軽いものだったが、断ることは許さないという雰囲気に二人はうなずくしかなかった。

「よかった、二人とも順にお風呂入って寝ようか。もう時間も時間だし」

 一人で楽しそうにしている柊香だった。


 お風呂から出て怜音は同じ課題に挑む仲間たちに思いをはせていた。

 二人はどこで宿をとったのだろう。心配しているわけではない、むしろ相手に迷惑をかけていないだろうかという不安があるくらいだ。サバイバル能力は師匠に叩き込まれたようだったが。……それでも、今まで三人が長期にわたって離れたことはなく、何とも言えない寂しさを感じていた。

「こんな時は寝てしまうのが一番」

 そう言って怜音は夢の世界へ誘われていった。


 フードの少年は町はずれの森で野宿をしているようだった。

「今夜は星がきれいだ。さて、明日から始めるとしよう」

 少年は周りと火を確認しテントへもぐって行った。


 赤い髪の少年は……というと。

「お兄さんさっすがー!」

「寄り付くな、ガキ」

「まあまあ、夜は長いんだし。さあ、語りつくそう!」

 一人だけ妙なテンションで夜を過ごしていた。



 そして、この町が寝静まった深夜に来客はあった。

「この町ですか、楽しませてくれそうですねー。さてまずは探しましょうか」

 暗闇の中、その人物は行動を始めたようだった。


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