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化け比べ  作者: 薄桜
2/2

続き。

「狐さん、天狗様ってどんな方なんでしょうね?」

「知らん。」

「さぞかし立派な方なんでしょうね、」

「さあな。」

「いやー、早く会いたいな!!」

はしゃいて口を閉じる事のない隣の狸が、兄弟狐の親には煩わしくて堪りません。

「黙れ狸。」

「ひどいなぁ白樫(しらがし)さん、僕には雄日芝(おひしば)って名前があるんですよ?」

「狸でいい。」


狐の白樫(しらがし)、狸の雄日芝(おひしば)それぞれ立派な名前があるようです。

年も性格も違うニ匹は、それでも何とか天狗の元に辿り着き、子分の鴉天狗の取次ぎで、念願の天狗にお目通りが叶う事となりました。


「天狗様、これこれこういう次第でございまして、是非とも天狗様に間に入って公正な判断を宜しく願い致したく、はるばる参上いたしました。」

「そうかそうか、で?」

真面目な顔で聞いていたはずの天狗に聞き返され、もったいぶって奏上していた狐の白樫(しらがし)は、唖然としてしまいました。

「ですから、これこれじかじかで、お願いしたいのでございます。」

「そうかそうか、で?」

やはり、反応は変わりません。

徳の高いはずの天狗が、まさか袖の下を要求しているのか?

これでは公正な判断など望めない。白樫は無駄な行程を思い、がっかり致しました。

「天狗様、(よわい)はいくらになられましたか?」

ところが突然、これまで黙っていた隣の雄日芝が、口をひらきます。

旅の途中の態度からきっと失礼な事をしでかすと思い、黙らせていたのですが、やはり失礼千万な事を口にし、白樫はひやりと致しました。

相手は高潔とは言い難くとも、霊験あらたかな天狗です。たかが狐や狸が叶うはずがありません。

自分の身がどうなるのかと、白樫は恐ろしくてがたがたと体が震えだしました。

「そうかそうか、で?」

しかし、天狗の言葉に白樫は再び唖然としました。

「どうしましょう、天狗さまはご高齢の故、御判断がつかなくなっておられるようですよ?」

苦笑いする雄日芝に、白樫も苦笑いする他ありません。


とりあえず丁寧に頭を下げて天狗の前から下がりますと、外から笑い声が致します。

表では、子分の鴉天狗達が笑い転げておりました。

事情を察した狸の雄日芝は、鴉天狗達に文句を言いに行きます。


「鴉天狗様、ひどいじゃないですか。」

「天狗様に御用だと言われるので、お通ししただけですよ。」

「じゃぁ、鴉天狗様でいいですから、審判をお願い致します。それだけ笑っておられるのですから、話はきいておられるのでしょう?」

「まぁいいでしょう、我々で良ければ協力致しましょう。面白いものを見させてもらった、そのお礼という事に致しましょう。」

「それではよろしくお願いします。」


承諾した鴉天狗に、雄日芝は丁寧に頭を下げています。

白樫が唖然として状況についていけないうちに、事は決まっていました。


「どうしたんですか白樫さん? 用事が終わったんですから帰りましょうよ?」

雄日芝にそう促され、白樫は「あぁ、」と返事をしただけで、その後は口を開こうと致しません。行きは不機嫌に口を閉ざす白樫でしたが、帰りはまた様子が違います。

幾分元気の無い姿が、雄日芝には気になって仕方がありませんが、それでもまた機嫌を損ねるても、それはそれで面倒だという結論に達しまして、雄日芝は黙々と隣を歩き、やがてそれぞれの里に帰り着きました。


 ***


天狗の事情を聞かされ、狐の教師達は驚きましたが、それでも鴉天狗の協力を得られ、ほっと一安心です。

それから狸との間で協議を計り、規則を定め、日取りを決めました。


さて、いよいよ決戦の当日がやってきました。

双方の、変化の術に自信のある者達が一斉に、人の世界に降り立ちました。

普段は隔絶された異界に住む狐も狸も、人の世界に足を踏み入れるのは皆初めてです。

多少の恐怖心と、それを勝る好奇心と、選ばれた使命感を胸に抱いて目にした世界は、聞き及んでいた所とは、別の世界のようです。


「なぁ、ここどこだ?」

「あれなんだろうな?」


『田んぼ』に『畑』『案山子』『牛』『馬』『牛車』習った言葉に当てはまる物は、見当たりません。

やっかいな『犬』はいましたが、皆首に紐がかけられています。

足元は硬く、ひたすらうるさく、よく分からない大きな物が走り回っています。

『家』と言うには高過ぎる建物で埋め尽くされています。


「ここは都じゃなかったのか?」

「そう聞いてきたんだけどな。」


歩く人々の姿も、教材の絵とはまったく異なりす。

背の高さ、着物、毛の色。全てにおいて知らないものばかりです。


「あの黄色や茶色の頭は何なんだ?」

「ひょっとして、あれ鬼っていうんじゃないか?」

「じゃあ、人はどうなったんだ? 全部やられて鬼の世界になったのか?」


それでも使命を果たさねばと、狐も狸も頑張りました。

人か鬼かは分かりませんが、化かせればそれでいいのです。


空いた場所に小屋の幻を現し、人を待ちますが一向に人は来ません。

やがてやって来た人に狸は沸き立ちますが、その人に

「公園に家を建てはいけません。早々に撤去して下さい。」

とよく分からぬままに注意され、化かしたとは言えません。

また、狸囃子(たぬきばやし)を鳴らせば、騒音だ、うるさいと、近所から恐ろしい声で怒鳴られ、狸は肝を冷やしました。


一方狐は、一人の男に取り憑きますが、その男は一切外に出る事が無く、異常である事がまったく他の人間に伝わりません。

手応えのない事態に、狐は諦めて他の手段を講じる事にしました。

次に取ったのは、得意の変化の術です。美人に化けてバカな男を引っ掛けよう。

そう意気込んだものの、自信満々に化けたのは、やはり時代錯誤な美意識の、のっぺりとした女です。

それでも少しは周りの人間を観察し、服や姿を修正したが、それが返って悪かった。

ますます可笑しな女が男を惹いた所で、気味悪がられ、笑われるだけです。


けっきょくどちらも自信を失ったまま、勝負の時間は終わりを迎え、双方の責任者の前で成果を発表しますが、もちろんどちらも歯切れが悪い。

全てを見ていた審判の鴉天狗に、意見を求めますが、

「どちらも外の世界を学んだ方が宜しかろう。これでは勝負が着けられませぬ。」

と、ニヤニヤと笑います。

改めて代表者達に人の世界の有様を聞きますと、これまで教えてきた事とは全く違う様子を、口々に驚きを持って伝えてきます。

それを見た鴉天狗は、さらにニヤニヤと笑い、とうとう堪えきれずに大笑いを始めました。

「鴉天狗様、どうした事でございましょう?」

「何をそんなに笑っておられる?」


憮然とした狐と狸に、鴉天狗は申します。

「狐も狸も化けますが、人も時代によって変わります。」

お後がよろしい・・・ですか?


自分でもまさかの落語です。

しかもオリジナルってどういう事よ?

「幻想事典・日本編」(飯島健男:監修/SOFT BANK出版)

っていう本を眺めながら出来たお話・・・おかしいなぁ?


落語は一時期嵌りまして、高校の頃ですね。

そもそも、物心ついた頃から「パタリロ!」で慣れ親しんでた感はありますが、

・・・でも、まさか!? です。

まー頭の使い過ぎで、方向がおかしかったのかな???


次はいつもの恋愛物で・・・

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