表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

静香の恋

「煙草は吸うものではなく、煙を吐くもの。六本木ヒルズではのぅ、メンソールの細煙草をこう持ってな、灰皿には、こま~めに灰を落とすもんじゃけ」

静香は、そう言って舞妓たちの前で、手に持っていた線香をガラスの灰皿に落とす仕草をして見せた。


舞妓たちの教育は、蛍に任せてあったが、静香が時々、こうして与太話をする。

ほとんど京都から出たことのない舞妓たちは、興味深げに聞いていた。


「おかみは、東京人だったじゃけ?」

舞妓の一人が聞いた。

「そうじゃけ」

静香が言うと、蛍が来て、「南座から連絡がきて、今夜の演目は別な人になったじゃけ」と静香に言った。

「どういうことじゃけ?」

静香は、怪訝そうに聞いた。

舞妓のトップが、舞妓たちに散るように指示している。

「何でも、台湾省からのお達しで、林黄リンホワンが出ると」

蛍が答えた。

「新人さんじゃけ?」

静香の声は冷静であったが、その手では、先ほどの煙草に見立てた線香を折っている。

「有名人じゃけ。台湾省のトップじゃが、気楽が売りじゃけ」

「なんと!!」

静香が、蛍の口真似でとうとう切れたように言った。

「うちの舞台を奪っておいて、挨拶にも来ない?おまけに気楽?!」

静香が立ち上がりかけた。

「何でも、結川将暉さんが客としてくるそうな」

蛍はそう言って、横にあったゴミ箱を静香に差し出した。

「なんと!なんと!」

静香が興奮しだしたのを横目に、蛍は立ち上がり、「打ち合わせじゃけ」と言った。

「はぅ・・・今宵、うちは南座へ観劇じゃけ」

静香はそう言って、手に持っていた線香をゴミ箱に捨て、自分の手の匂いをかいだ。

蛍は、あきれたように静香を見ると、「先に行くじゃけ」と、座敷を出て行った。


「近々じゃが、咲坂から集まるように言われとる」

黒澤が言った。

花は、パソコンの画面を慎重に見て、この会話が抜かれていないか確認していた。

ふと、黒澤と目が合ったが、次の瞬間、部屋の扉がノックされ、まかないの長が、「そろそろ始めます」と顔を出した。

「お偉いさんたちが集まるサミットは、伊勢志摩と決まった」

皆伐が、何やら書類をまとめながら言った。

「どうやって行くじゃけ?」

蛍が、驚きを隠せず皆伐を見た。伊勢志摩とは、尋常ではない。

「何でも、なかなか入れずに迷うじゃけ?」

蛍は続けた。

花の見ていたパソコンの画面には、Gメールが届いた。

これは、改ざんが必要かと焦っていると、静香がいきなり、「もう、いいじゃけか?時間じゃけ」と、時計を見た。

南座での開幕時間は、午後六時、時刻は、午後五時五十分を示していた。

蛍が、「今日は、静香の出番はないじゃけ」と、少ししらけた目をした。

全員が静香を見る中、静香は、「んっんん」と、咳ばらいをした。

「何やら深刻そうなのはわかるじゃけ?じゃけんど、今宵南座に来るのは、台湾省じゃなか、結川将暉様じゃけ」

そこで、黒澤のスマホが鳴った。

花が、「警笛じゃけ」と、小さい声で言った。

そこで、ジャーという雨の音が響いた。

春に足を踏み入れたばかりの祇園では、めずらしいことである。

「行くだけ行ってみる」という静香を、誰も止めなかった。

花だけが、「傘は番傘を持って行き」と、静香に言った。

「おおきに」

静香が言った。

通り雨ならすぐに止む。

静香の恋が、成就しますように。

皆伐が、「のりよくいかにゃあ」と言った。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ