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『星読みなんて金にならない』と婚約破棄された私、割れた万華鏡で裏側の星を読む唯一の鑑定士になりました~前世の望遠鏡趣味、異世界で無双させていただきますね?~

作者: uta
掲載日:2026/08/01

「お前の星読みは古臭くて金にならない。婚約は破棄する」


社交界の華やかな広間、シャンデリアの下で、第二王子ライオネルは高らかにそう宣言した。


周囲の貴族たちがどよめき、扇の陰でくすくすと笑う。


私――セレネ・フォン・アストレイドは、その中心に立たされていた。


(新式鑑定ねえ……で、その精度、統計取りました?)


心の中でそっとツッコミを入れる。だが顔には出さない。長年の下働きで、無表情は得意になった。


「私は“新式鑑定”の天才ミアを選ぶ。彼女の鑑定は華やかで、正確だ。お前のような暗くて陰気な星読みとは違う」


ライオネルの隣で、桃色の巻き髪をふわりと揺らした少女が勝ち誇った笑みを浮かべる。ミア・ロウェル。派手な光の演出で貴族たちを魅了する、今をときめく人気鑑定士だ。


「あら、セレネさん。あなたの地味な鑑定じゃ、殿方の心はつかめませんものね?」


甘ったるい声で、彼女は嘲る。


私は静かに息を吐いた。


喚くつもりはない。喚いたところで、この場の空気は変わらない。


「……承知しました。婚約破棄、謹んでお受けします」


淡々と、そう告げる。


ライオネルは一瞬、拍子抜けした顔をした。泣き縋られるとでも思っていたのだろう。


「ふん、物分かりがいいじゃないか。ついでに言っておくが、ギルドからも出ていってもらう。お前のような時代遅れの鑑定士は、もう必要ない」


拍手が起こる。ミアへの喝采だ。


私は一礼して、その場を後にした。


背中に刺さる嘲笑を、まるで気にしていないふりをして。


(金にならない星読み、か)


広間の扉を閉める瞬間、私は前世の記憶を思い出していた。


望遠鏡のレンズを磨いた夜。自作した星座早見盤。誰にも褒められなくても、ただ星が好きだった、あの静かな時間を。


――さて。


ここからが、本当の始まりだ。



追放の荷造りは、あっけないほど早く終わった。


下働き鑑定士の私物など、たかが知れている。


だが一つだけ、どうしても持ち出したいものがあった。


廃棄予定の棚の奥。埃をかぶった、ヒビの入った『割れた万華鏡』。


「それ、不良品でしょ。持ってくの?」


通りかかった若い鑑定士が、呆れたように言う。


「ええ。捨てるくらいなら、この割れた万華鏡、もらっていきます」


「趣味悪いなあ。割れてて誰も使えないのに」


彼は肩をすくめて去っていった。


私は万華鏡をそっと手に取り、覗き込む。


――そう。誰も使えない。


この世界の鑑定士は、みんなそう言う。ヒビが乱反射を起こして、星がぐちゃぐちゃに歪んで見えるからだ。


でも私には見える。


前世で望遠鏡のレンズを研磨し、光の屈折を学んだ私には。


(乱反射……いいえ、これは“分光”だわ。割れたからこそ、裏側の星が映せる)


割れたレンズが光を裂き、本来なら決して見えない“裏側の星”を映し出す。


隠れた才能。潜んだ呪い。寿命の兆し。


表の星座だけを読む普通の鑑定では、絶対に届かない領域。


これは欠陥品じゃない。


この世で唯一の、真実を映す精密鑑定装置だ。


「もう我慢しない」


誰もいない廃棄室で、私は静かに呟いた。


「金にならない星読み? 上等。私は“真実だけ”を読む鑑定士になる」


その瞬間だった。


割れた万華鏡が、淡く瞬いた。


コロン、と。


レンズの隙間から、小さな光の球がこぼれ落ちる。


ふわふわと宙に浮かぶ、淡く輝くもふもふの光球。


星屑を尾のようにこぼしながら、それは私の肩にちょこんと乗った。


『……セレネ。さみしい。ここ、あったかい』


「……え。しゃべった?」


三十路社畜の冷静さが、久しぶりに崩れた瞬間だった。



冒険者ギルドの片隅。


途方に暮れる私に、真っ先に手を差し伸べてくれたのは、受付嬢のオルガだった。


そばかすの目立つ、姉御肌の女性だ。年は私と同じくらい。


「あんた、星読みなんだろ? ここの隅、使いな」


「でも……私の鑑定は、金にならないと」


「はぁ?」


オルガは呆れたように腰に手を当てた。


「星読みが金にならない? うちの冒険者は命がかかってんだ。正確なのが一番に決まってんだろ」


その言葉が、じんと胸に染みた。


貴族社会では誰も言ってくれなかった、当たり前の真実。


「……ありがとうございます」


「礼はいいから、さっさと看板出しな。ほら、さっそく客だよ」


最初の依頼人は、駆け出しの冒険者パーティだった。


「新式鑑定所じゃ、俺は前衛向きって言われたんだけど……なんか、しっくりこなくて」


私は割れた万華鏡を覗き込む。


肩のノクスが、ふわりと光を強めた。


『セレネ、みえる?』


「ええ、見えるわ」


レンズの奥、裏側の星が浮かび上がる。


(表の星座は“戦士”……でも、裏側に隠れているのは――)


「あなた、前衛は向いていません。隠れた星座は“治癒”――後衛の回復役です。前衛に立てば、三ヶ月以内に死にます」


「え」


パーティ全員が息を呑んだ。


「……マジか。実は俺、この前の依頼で、庇った仲間が助かったの、なんか妙にタイミングよくて」


「それが、あなたの本当の才能です。統計的に、あなたの守護行動の成功率は異常に高い」


私は前世の観測ノート術で、彼の過去の依頼記録を整理し、確率を示した。


データは嘘をつかない。


パーティは顔を見合わせ、そして――深く頭を下げた。


「ありがとう、星読みの姉さん! 命拾いした!」


嵐のように去っていく彼らを見送りながら、オルガがにやりと笑う。


「な? 言った通りだろ」


小さな鑑定所に、最初の達成感が灯った。


これは、まだ始まりに過ぎない。



その日、鑑定所の狭い扉に、巨体が挟まっていた。


「……ぐ」


燃えるような赤銅色の髪。竜の血を示す、縦に裂けた金瞳。頬には古い戦傷。


見上げるほどの長身が、扉の枠に角を引っかけて、三角座りするように屈み込んでいる。


「あの……大丈夫ですか?」


「……問題ない」


(全く問題ある状態でそれ言います?)


オルガが小声で耳打ちする。


「あれ、北方の辺境伯だよ。アルデバラン・ドラクロア。『冷酷無比』『人喰い竜』って噂の……」


人喰い竜が、扉に挟まって動けなくなっている。


(噂と、だいぶ違うわね)


私は角の引っかかりを外すのを手伝った。ようやく中に入った辺境伯は、巨体を縮めるように椅子に座る。


「星読み殿。頼みがある。俺は生まれた時から、星座紋が読めん。どの鑑定士も『天職なし』『欠陥竜』と言った」


彼は真っ直ぐに私を見た。


「だが、お前の噂を聞いた。“裏側の星”を読むと。……頼む。俺を、視てくれ」


蔑まれ続けた孤独が、その金瞳の奥に沈んでいた。


私は万華鏡を構える。


ノクスが、これまでにない強さで輝いた。


『……すごい。セレネ、これ、すごい』


割れたレンズの奥に浮かんだ星座を見て、私は思わず息を止めた。


「……アルデバラン様。あなたの星座は、あまりに強すぎて、普通の鑑定具では光量が振り切れて読めなかったんです」


「なんだ。やはり、何もないのだろう」


諦めたような声。


「いいえ。逆です」


私は静かに告げた。


「あなたの隠れた星座は『竜の守護者』。この国で、最強の星です」


沈黙。


アルデバランの顔が、みるみる赤く染まっていく。


「そ……そんな、はずは……お前が視るものは、正しい。……だが、その、最強、というのは」


「事実です。データが証明しています」


「……そ、そうか」


耳まで真っ赤にして、彼は俯いた。


人喰い竜と恐れられた男の、あまりに不器用な照れ顔。


(……なにこれ。人喰い竜が耳まで真っ赤って。ちょっと、可愛いんだけど)


三十路社畜の心が、久しぶりに小さく跳ねた。



――一方、王宮では。


「はっはっは! セレネがいなくなって、実に清々するな!」


第二王子ライオネルは、上機嫌でワインを傾けていた。


隣では、ミアが甘い笑みを浮かべている。


「ええ、殿下。あの暗くて陰気な女、いなくなって正解ですわ。これからは私の新式鑑定で、王国はもっと華やかになりますもの」


「次の魔物討伐の部隊編成、お前の鑑定で選んでくれ。お前の見立てなら間違いあるまい」


ミアは光を派手に散らし、適当な冒険者たちを『精鋭』として選び出した。


本当は、誰の星も読めていないのに。


「この者たちなら、魔物の巣など楽勝ですわ!」


(本当は、誰の星も読めていないのだけれど……まあ、バレやしないわ)


貴族たちが拍手する。


「これで王国は安泰だな」


――その部隊が、後に魔物の巣で全滅寸前に陥ることを。


甘い嘘の代償が、どれほど大きいものになるかを。


二人はまだ、何も知らない。


失ってから気づく後悔が、すぐそこまで迫っていることを。



「助けてください……娘が、呪われているんです」


鑑定所に駆け込んできたのは、青ざめた顔の貴族夫人だった。


腕の中には、ぐったりとした令嬢。


「新式鑑定のミア様に視ていただいたのですが、『問題ない、ただの疲れ』と……でも、日に日に衰弱して」


(またミアか。適当な鑑定で命が危険に晒されてる)


「拝見します」


万華鏡を令嬢にかざす。


ノクスが不安げに震えた。


『セレネ……この子、くらい。星が、くろい』


「……ええ。これは『枯死の呪星』。誰かが意図的にかけたもの。放置すれば、あと七日で命を落とします」


夫人が悲鳴をあげた。


「そんな……! どうすれば!」


「大丈夫です。呪星には必ず“基点”がある。それを断てば解けます」


私は前世の観測ノート術で、呪星の運行を記録し、逆算した。


データを分類し、確率を計算し、呪いの発生源を特定する。


「……見つけた。この令嬢が最近もらった、その指輪です。外して、聖水で清めてください」


言われた通りにすると――


令嬢の頬に、ゆっくりと血の気が戻っていった。


「あ……お母様……?」


「ああ、目を覚ましたのね!」


夫人は娘を抱きしめて泣き崩れた。


ノクスが嬉しそうに、ぱあっと光を強める。


『よかった。セレネ、すごい』


「あなたのおかげよ、ノクス」


夫人は深々と頭を下げて言った。


「あなたこそ、本物の星読みです。……この御恩は、必ず社交界に広めさせていただきます」


その言葉が、後の逆転劇への、静かな伏線になるとは。


この時の私は、まだ気づいていなかった。



凶報は、嵐のように駆け込んできた。


「セレネ! 大変だ、ミアの鑑定で送り出された精鋭部隊が、魔物の巣で壊滅寸前だよ!」


オルガが青ざめた顔で私のもとへ走ってきた。


「地形も魔物の周期も、全部読み違えて……このままじゃ全滅する!」


私は立ち上がった。


その時、鑑定所の扉が勢いよく開いた。


――アルデバランだった。


今度は角を引っかけることなく、鎧をまとった彼が真っ直ぐに私を見た。


「星読み殿。救援に向かう。だが敵の巣は魔物の周期が読めず、下手に踏み込めば俺の隊も飲まれる」


彼は片膝をつき、私に頭を垂れた。


「頼む。お前の星を、貸してくれ」


人喰い竜と恐れられた辺境伯が、一人の鑑定士に頭を下げる。


「顔を上げてください、アルデバラン様。……私を信じるんですか? 金にならない、古臭い星読みを」


彼は迷わず答えた。


「お前が視るものは、正しい。それだけで十分だ」


――ああ、この人は。


蔑まれ続けた者同士だからこそ、わかる。


本物の価値を、金でしか測れない人間には、決して届かない誠実さ。


「わかりました。私も同行します。現地で、星の運行を直接読みます」


「危険だ。お前は――」


「命がかかってるんでしょう? だったら、正確なのが一番。ここの受付嬢の受け売りですけど」


オルガが噴き出した。


「行っといで、セレネ! あんたなら読み切れる!」


ノクスが、決意に呼応するように、強く強く輝いた。


『セレネ……いっしょ。ぜったい、まもる』


夜空が、私たちを待っている。



魔物の巣は、月のない闇の中にあった。


地面を埋め尽くす魔物の群れ。その奥で、精鋭部隊が最後の抵抗を続けている。


「星読み殿、指示を」


アルデバランの声は、戦場でこそ揺るがぬ鋼だった。


私は割れた万華鏡を夜空にかざす。


ノクスが最大の輝きを放ち、レンズの乱反射が星々の運行を映し出した。


(星の位置……魔物の発生周期は、月の引力と連動している。次の大波が来るのは――)


前世の観測ノート術が、頭の中で高速に回転する。


データを記録し、分類し、確率を計算する。


「アルデバラン様! 三分後、東の裂け目から魔物の大群が湧きます。今のうちに、西回りで部隊を回収してください!」


「西だな。承知した!」


彼は迷わず動いた。私の言葉を、一切疑わずに。


竜人の巨躯が咆哮し、魔物を薙ぎ払いながら西へ突き進む。


ちょうど三分後――


東の裂け目から、津波のような魔物の群れが噴き出した。


私が読んだ、その通りに。


「なっ……! ほ、本当に読み切った……!」


生き残っていた部隊員が、驚愕の声をあげる。


「まだです! 次は星が導く安全な退路を示します。ノクス!」


『うん! ひかる!』


光球が尾を引いて夜空を駆け、一筋の光の道を描いた。


星の運行が示す、唯一の生還ルート。


「その光に沿って退避を! 魔物の周期の“隙間”を通ります!」


アルデバランが部隊を導き、傷ついた精鋭たちを一人残らず光の道へ乗せていく。


魔物の大波が、寸前で彼らの後ろを通り過ぎていった。


――全員、生還。


死者、ゼロ。


夜明けの光が差し込む頃、私は詰めていた息をようやく吐いた。


アルデバランが、血にまみれた顔で、それでも真っ直ぐに私を見て言った。


「お前の星は……やはり、正しかった」


「ええ。データは、嘘をつきませんから」


彼の口元が、ほんの少し、ほころんだ。


強面の人喰い竜が浮かべた、初めての笑み。


その不器用な優しさに、私の胸が、また小さく跳ねた。



王宮に、真実が雪崩れ込んだ。


精鋭部隊を救ったのは、追放されたはずのセレネ。


そして――ミアの鑑定が、すべてデタラメだったこと。


「ミア様の鑑定は、ただの幻術だったのか!?」


「では、我々が受けた鑑定も、全部嘘だったと!?」


貴族たちの怒号が、社交界の広間に響き渡る。


かつてミアを称賛していた者たちが、次々と手のひらを返していく。


「わ、私は……ちゃんと、視て……」


ミアの派手な光の演出が、もう誰も魅了しない。


幻術の化けの皮は、剥がれ落ちた。


呪われた令嬢を救われた貴族夫人が、凛と声を張った。


「私の娘は、ミア様に『ただの疲れ』と診断され、死にかけました。娘を救ったのは、セレネ様です! どちらが本物か、明白ですわ!」


証言が、証言を呼ぶ。


ミアの誤鑑定で被害を受けた者たちが、次々と名乗り出た。


崩壊は、一瞬だった。


「な……なぜだ」


呆然と立ち尽くすのは、第二王子ライオネル。


「なぜだ、金にならないはずの星読みが……あの地味女が……!」


彼はようやく気づいた。


自分が切り捨てたものが、どれほどの価値を持っていたのかを。


失ってから、初めて。


「わ、私は悪くない! すべてミアが……ミアが騙したのだ!」


「あら、殿下。私を選んだのはあなたですわよね?」


「黙れ! お前のせいで私は……!」


醜い責任のなすり合いが始まる。


貴族たちの信用は、音を立てて崩れていった。


(地味だが正確なものを『古臭い』と切り捨て、派手な嘘を『進歩』と信じた……その報い、ですね)


地味だが正確なものを『古臭い』と切り捨て、派手な嘘を『進歩』と信じた、その報い。


――そして、その広間の隅で。


国王の使者が、静かに動き出していた。


本物の星読みを、探すために。



「セレネ・フォン・アストレイド。国王陛下が、直々にお会いになりたいと」


使者が鑑定所を訪れたのは、翌週のことだった。


謁見の間で、国王は深く頭を下げた。


「星読み殿。此度の一件、王国は君に救われた。詫びと、礼を言わせてほしい」


王が、一介の鑑定士に頭を下げる。


異例のことだった。


「そして、一つ問いたい。なぜ君だけが、あの割れた万華鏡を扱える? 誰もが不良品と切り捨てたあれを」


私は静かに答えた。


「割れているから、価値がないと皆さんは言いました。でも、逆なんです。割れたからこそ、光が分かれ、“裏側の星”まで映せる」


万華鏡を掲げる。


ヒビの入ったレンズが、光を受けて虹色に瞬いた。


「表の星座しか読めない普通の鑑定具では、絶対に届かない領域です」


「なんと……欠陥ではなく、唯一の力だったと」


「はい。そしてこれを扱うには、光の屈折を理解する知識が要ります。私は……ある特別な経緯で、それを学びました」


前世で望遠鏡のレンズを研磨し、星を追い続けた、あの日々。


平凡で、誰にも褒められなかった趣味。


それが今、この世界で唯一無二の力になっている。


「割れた星は、捨てられた星です。誰も拾わない。でも、拾ってみれば――そこには、隠された本物の才能が眠っている」


国王は、深く感じ入ったように頷いた。


「セレネ殿。君に、新たなギルドの設立を託したい。『星宿ギルド』――真実を読む鑑定士たちの拠り所を。君を、その鑑定長に」


国宝級の栄誉。


宮廷復帰と、貴族としての地位の回復も約束された。


かつて私を追放した者たちが、今度は跪いて迎え入れようとしている。


完璧な、逆転。


――だが。


私は、静かに首を横に振った。



「ありがたいお話ですが、宮廷への復帰は、お断りします」


謁見の間が、どよめいた。


「な……何を言うのだ、セレネ殿! これほどの栄誉を!」


国王が驚いて身を乗り出す。


私は肩のノクスを、そっと撫でた。


『セレネ、いく? どこいく?』


「私が行きたい場所に行くのよ、ノクス」


私は真っ直ぐに国王を見て、告げた。


「私は、金になる嘘より、割れた星を拾う仕事が好きなので」


静かな、けれど揺るがぬ宣言だった。


「宮廷で貴族の機嫌を取る鑑定なら、ミアのような者にお任せください。私が視たいのは、そこじゃない。捨てられた者たちの、隠れた才能です」


駆け出しの冒険者の隠れた才能。


呪われた令嬢の、消えかけた命。


星座が読めないと蔑まれた、一人の竜人の孤独。


――誰も拾わなかった、割れた星たち。


「捨てられた者たちの、隠れた才能を映し続ける。それが、私の星読みです」


国王は、しばし沈黙し――やがて、穏やかに微笑んだ。


「……君は、本物だな。わかった。『星宿ギルド』は、君の望む地で、君の望むように開くがいい。王家は、それを全力で支援しよう」


「ありがとうございます」


謁見の間を出ると、そこにアルデバランが待っていた。


「……断ったのか。宮廷を」


「ええ。私には、もっといい場所があるので」


私は彼を見上げた。


「アルデバラン様。あなたの辺境で、ギルドを開いてもいいですか? あそこなら、拾うべき割れた星が、たくさんありそうだから」


強面の竜人が、みるみる赤くなる。


「そ、それは……つまり、俺の、そばに……」


「嫌ですか?」


「い、嫌なわけがあるか!」


慌てて叫んでから、彼は耳まで真っ赤にして俯いた。


「……ずっと、いてくれ。星読み殿。いや……セレネ」


初めて名前を呼ばれた。


不器用で、朴訥で、真っ直ぐな声で。


私は思わず微笑んだ。


「ええ。よろしくお願いします、アルデバラン」


ノクスが、ぱあっと嬉しそうに輝いて、二人の間をくるくる回った。


『あったかい! ここ、あったかい!』


――北の辺境。


星がよく見える、澄んだ空の下。


私は自分だけのギルドを開く。


割れた万華鏡は、これからも捨てられた者たちの隠れた才能を、静かに映し続ける。


金にならなくたって、いい。


本物の価値は、いつだって、割れた星の裏側に隠れているのだから。


(――さあ。今夜も、星を読もう)

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