9 絶対虐殺幼女
「……だいたい、どこでパクス・マギアを知ったの? 君10歳くらいでしょ」
「トランスエイジだと言っているだろ。まだ法整備が整っていないだけで、私は25歳だ」
「全く答えになってないね。むしろ驚くよ」アークは手を広げる。
「まぁまぁ、若けェの。不機嫌そうな顔するな。女子同士、楽しくお喋りでもしようじゃないか」
「お喋りよりも、国内歴史を学びたかったんだけど」
「そんなのは歳食ってからでも学べる。学校で学ぶべきことは、勉強だけではない」
「そうだね。たとえば、男子並みの腕力で、僕を意味不明な方向へ引っ張る幼女の躱し方とかね。このまま行けば、不良とエンカウントだ」
「医務室、こちら側じゃないのか?」
「違うよ。真逆」
MIH学園は途方もなく広いので、学校内で迷子になる新入生は風物詩となっている。アークは小学部からMIHにいるので慣れたものだが、ルーシにそれは通じない。
「なんだよ、意地悪だな」
「勝手に頭痛にしてくるほうが意地悪だよ。せめて不良の先輩がいなければ良いけど」
すでに危険ゾーンに入っている。学校の裏側に通じる道では、誰かが誰かを殴打したり、薬草を無茶な混ぜ方して〝トぶ〟ようにしたりと、良いことは待っていない。
「んん? なんでコイツ、私を恐れ多くも睨んでいるんだ?」」
ルーシは、睨まれたと言って校舎の裏側へ向かう生徒に詰め寄っていく。
アークは、心の中で呟いた。
(そりゃあ、こんな治安の悪いところに10歳の女の子がいたら見るでしょ)
そんな心の叫びも届くはずなく、ルーシはニヤニヤ笑う不良の胸ぐらを掴み始める。
「てめェ──!!」
「私はルーシだ。てめェじゃない」腕力だけで、不良のひとりを窓ガラスから突き落とす。「なぁ、オマエらどういう調合しているんだい? 随分トンでいるが」無邪気な笑みで、残された不良3人に尋ねる始末だ。
「ルーシ……聞いたことあるな。あのプロスペクト第1位の妹的存在だろ? それに、今や伝説のクールさんの義理の娘。だが、その内実は転生者で、クールさんと闘って自分の有用性をあのヒトに教えたとか」
トンデモガールは、やっぱりとんでもない経歴を持っているようだ。アークは元々離れているのに、更に一歩たじろぐ。
(クールくんといえば、この国最強の魔術師のひとり。この国最強というのは、つまり世界最強。大陸じゃ魔術は廃れているから。でも、どういう闘いをしたんだろう? クールくんとサシで闘える者なんて、セブン・スターズでも珍しいのに)
という謎を覚えていれば、
ルーシは余裕そうに彼女の説明をしていた不良に、頭突きを喰らわせる。
「──ッ!?」
「ペラペラ回る舌は嫌いだ。引っこ抜くぞ?」
意地の悪い笑顔を見せながら、薬草で依れていた不良たちが立ち上がるのと同時に、彼女は銀色の羽みたいな──それも、鷲の羽に見える物体を、不良たちにサッと当てる。
すると、
「ぎゃぁあああ!?」
「な、内蔵が!?」
不良たちは、まるで対処し切れずその場に倒れる。喉を引き裂くほどの悲鳴を張り上げ、やがて絶命するように意識を失うのだった。
「さて、医務室行こうぜー」
不良たちが揃って血みどろになっている中、ルーシは意にも介さない。だからアークは、ツバを呑み込んで玉を縮こませる。




