5 赤ちゃんの作り方はセンシティブ
「アークたん、こんな話を知ってるか?」カルティエはいつにもなく真剣な表情だ。「どんな夢でも叶えられる、〝パクス・マギア〟っていう魔道具を」
「うん、学校の歴史で習った」
「あれは歴史の掃き溜めへ消えたものだと思われているが、実際のところ消えちゃいない。パクス・マギアを起こす〝ラプラス〟っていう小道具は、膨大な魔力反応を示すからな。それらは、世界の均衡を保つために、アンゲルスとEU諸国、アメリカが所有しているんだ」
「そうなの?」
「しかし言い換えれば、アンゲルスからEU、アメリカからかき集められると、願いが叶っちまう」
「……ってことは」
「そう。アークたんが違和感を覚えているのは、おそらくパクス・マギアが人知れぬ場所で発現したからだと思う。そしてあれを使うと、使った者以外から記憶・記録ともに抹消される。誰が仕組んだのか知らないが──」
「大変失礼いたしました。お姉様、アーク」
重大な話をしている最中に、キャメルはトイレを済ませてきてしまった。ただ、カルティエは3日間アンゲルスにとどまるというので、そのタイミングを見計らって聞いてみるのも良いかもしれない。
「どうしたの? アーク。考え込んでるみたいだけれど」
「あー、いや。きょうの一限目の授業って、なんだっけなぁって」
「しっかりしなさいよ。だいたい、スマホ見れば分かるでしょ。ご飯食べ終えたら、それ見てちゃんと確認なさい」
「はいはい……」
あの異様な雰囲気のキャメルが、少し消え去った気がする。同い年で誕生日も1か月しか離れていないのに、姉のように振る舞ってくれるキャメルが戻ってきた。少し、嬉しく思う。
「んじゃ。アークたん、キャメルたん。あたしは国防総省に行かなきゃだからさ。勉強したまえよ~」
内地勤務といっても、カルティエほどの立場だと1日中休みになることはなかなかない。大変だ、とは思いつつも、
「うん。行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
「お姉様、プレゼントありがとうございます。お気をつけて」
「おーう」
カルティエは、立ち上がってすでに着替えてある軍服のまま国防総省へ向かっていく。
そうなれば、場にはアークとキャメルが残される。
食事もあらかた終わりかけている。あとは、アメリカ大統領が乗っていそうなリムジンで学校まで行くだけだ。
そんな最中、
「ねぇ、アーク。私たちって結婚するのよね? けれど、ひとつ疑問があるの。赤ちゃんって、どうやって作るの?」
キャメルが、突然そんなことを言い出した。
「えぇ……。キャメル、性教育とか受けてないの?」
「私はプロスペクト第1位よ。魔術関連の授業ばかり埋め込まれて、他の科目はさっぱりだわ」
「そりゃそうか。でも、なんだ。別に今すぐ知る必要もないでしょ」
「そうかしら?」
「うん。高校に入ってからでも遅くないし、だいたい僕らは大学卒業とともに結婚するって取り決めだから、まだ知らなくて良いんじゃない?」
「そういうものかしらね……」
「なにか嫌なことでも?」
「私って、自分で言うのもなんだけど、注目度高いじゃない。だから、〝プロスペクト第1位は子作りの方法も知らない〟なんて、噂立てられる可能性すらある。それが嫌なのよ」
「まぁ、確かに嫌かも」
「AIに尋ねても、〝センシティブな内容です〟って返ってくるし、困ってるのよ」
(そりゃあ、AIがエッチの方法教えたらまずいよね)
アークはそう心の中で呟きつつ、
「来たるときが来たら、僕から教えるよ」
立ち上がって、学校へ行く準備を始める。
「そうね。アークならきっと、私を導いてくるもの」
そんなわけで、学校へ向かうふたり。だが、ふたりは知らない。パクス・マギアの浸透? によって、MIH学園がめちゃくちゃになっていることを。




