4 根底変わらずともなにかが変わる
「可愛いだろ? キャメルたんに渡したかったんだけど、あたしも軍人やってる以上なかなかスケジュールが空かなくてさ。ま、とりあえずつけてみてよ」
地毛の金髪を短く切り揃えている、義姉のカルティエは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
女性用の黒と金の時計。少し渋い気もするが、キャメルの家とてアンゲル=ロイヤル家の分家。これくらいのものは、つけていないといけない立場だ。
「随分渋いだろ? キャメルたんに合うか分からなかったけど、目つき見たら安心したよ。やっぱりキャメルたんは、レイノルズ家を継ぐ女だ」
キャメルは腕時計を見て、その精巧で豪華な作りに驚きと喜びを隠せずにいる。なにかが変わってしまったような気がするも、やっぱりキャメルもカルティエも根底は変わっていない。
「さぁーて、朝飯もりもり食べようぜー! アークたんも身体鍛えるんなら、朝飯はしっかり食べたほうが良いぞ」
「え、知ってたの?」
「制服越しにも、腕がちょっとたくましくなっているからな。悪くない発想だと思うぜ。魔術はメンタルが大きく関わってくる。そして、筋トレはメンタルを安定させる。さすがあたしの弟だ」
カルティエはそう言い、大きく笑う。豪快、という言葉が良く似合う姉である。
「ところで、お姉様はどれくらいアンゲルスにいられるのですか?」
「それがだね、キャメルたん。3日後には、また中東に出向かなきゃならないんだ。今の政府首脳は、石油が欲しくてたまらねぇからな。きっとアイツら、原油を酒みたいに飲んでるぜ?」
アークが言う。「怖いなぁ」
「嫌な時代になっちまった。あたしら〝セブン・スターズ〟は、日本で言うところの社畜だしな。まぁ……こういう時代もいつか終わる。終わらなきゃウソさ」
カルティエ・アンゲル=ロイヤルらが属す〝セブン・スターズ〟は、いわば魔術特化特殊部隊だ。毎年、アンゲルス最強の魔術師7人が選定され、その7人が国内勤務や海外勤務に分かれる。カルティエのような結婚適齢期の女性を海外勤務にするのは、如何なものだとも感じるが、それこそ彼女の言ったように〝社畜〟ということなのだろう。
「お、きょうはドイツ式か」
リビングの席に座り、カルティエは早速運ばれてきたドイツ式の朝食に目を光らせる。
「戦場じゃ、コーヒーを一杯飲むのにも苦労するからな。しかもアンゲル=ロイヤル家のコーヒーは、なんと言ってもうまい! 豆が良いんだろうな」
「お姉ちゃん、もうコーヒー飲み干してるよ」
「美味しいものは、最初に食べて飲むタイプなのさ」
そんな3人に、メインが運ばれてくる。
「温かいパンに、一流のハムとチーズ、ゆで卵……最ッ高だな!」
「お姉ちゃん、声大きいよ」
「お、悪いね。ところで、話変わるんだけどさ、キャメルたんはなぜロイヤル家へ?」
「アークとの愛を確かめに来ました。3日間話していないと、不安になっちゃうのです」
「アークたん、もっとキャメルたんと話してやりなよ。ふたりは許婚なんだからさ」
「許婚、ねぇ……」
アークは目を細める。確かに、親同士の策略でアークとキャメルは許婚状態だ。大学卒業とともに、結婚する予定となっている。
ただそれは、結婚の自由も奪われた、と捉えてもおかしくない。アークが元王族にして超富裕層に生まれた以上、親の策略に文句をつけることはできないが、少しくらい言いたいことがあったりする。
「あ、大変失礼ですけれどお手洗い行ってきますね」
「おう」
「うん」
場には、アークとカルティエが残される。
最初に口を開いたのは、アークだった。
「ねぇ、お姉ちゃん。実はさ、きょうキャメルに襲われかけたんだ。勉強部屋のシングルベッドに侵入されて。キャメルって、あんな常識ない子だったっけ?」
カルティエは、ちょっと不思議そうにパンを頬張り、それを皿に置く。




