3 〝存在そのものが公然わいせつ〟
一体なにが起きているのだろう。いきなりキャメルがベッドに潜り込んできて、痴女じみた発言と行動ばかりしてくる。アークにとってキャメルは、憧れの幼なじみでもあるため、余計に訝るしかない。
「それにしても、アーク。貴方腰回り細いわね。ブカブカになるものだとばかり思ってたわ」
「これでも筋トレしてるんだけどね」
「そうなの? なんの理由で?」
「ゲームのためと……魔術のためかな」
キーボード・マウスでゲームを長時間するには、相応の筋力が必要になってくる。プロゲーマーの腕がゴツゴツと太いのは、彼らが長時間のゲームのために鍛えているだという。
そして、魔術。この世界、というか〝アンゲルス連邦共和国〟には、魔術という概念がある。手から炎を起こしたり、誰かを縛り上げたり、身体能力を上昇させたり、と多種多様だ。
アークは未だ魔術を開花させていないので、せめて身体を鍛えることで開花する可能性を増やしたい。身体と魂、魔力は共鳴し合う。強靭な身体には、強力な魔術がついてくる。
「ゲームはともかく、魔術なら大丈夫よ」
「え、なんで?」
「私が守ってあげるから」
「それじゃあ、駄目だね」
一瞬、魔術開花に期待したアークが馬鹿だった。確かに、アークたちの通うメイド・イン・ヘブン学園──俗称『MIH学園』は男女比が1:4という歪な構成だし、それは女子のほうが魔力で優れているから、という理由で説明がつく。
しかし、アークとてアンゲル=ロイヤル家の次期当主。幼馴染の許婚に守ってもらっているようでは、情けない上に矜持も守れない。
「なんでよ」
「僕はアンゲル=ロイヤルの長男だからだよ。守らなきゃいけない道理もあるのさ」
「そう。けど、まだまだ私との差は大きいわよ?」
「そうだね。MIH学園プロスペクト第1位だもんね、キャメルは」
プロスペクト──有望株第1位は、そのまま高等部から発令される〝序列〟に大きく関わってくる。首席、次席は別格として、高校3年間で3番手くらいにはつけたい、というのがアークの野望だ。
「さて、ご飯食べさせてもらうわよ」
「うん」
キャメルは、スケスケのネグリジェでリビングへと向かうつもりだ。きのうは暗くて見えなかったが、こんな〝存在そのものが公然わいせつ〟みたいな格好で、アークの隣にいたというわけか? アークの額から嫌な汗が垂れてくる。
「どうしたの? 顔色が悪いわ」
「い、いや。なんでもない。なんてことない日常が尊いのを知っただけだよ」
「変なこと言うわね」
(変なのはキャメルのネグリジェだけどね!? 下着見せたいとしか思えない格好しているからね!?)
そんな心の叫びも、キャメルへはどうせ届かない。諦観の中、アークはキャメルを引き連れてリビングへと向かう。
すると、家族とすれ違った。弟ではない。義姉だ。10歳年齢の離れている、軍人のカルティエ・ロイヤルが、すれ違った途端にアークへ抱きついてくる。
「アークたんー!! きょうも良い匂いだにゃー」
「お、お姉ちゃん! ちょ、離して!」
猫なで声で近づいてきた義姉の胸の圧で、呼吸ができなくなっている。しかしこの姉、いかんせんプロの軍人なので、どうやったらアークをガッチリホールドできるか知っている。しばらく頭を嗅がれた後、姉・カルティエ・アンゲル=ロイヤルはキャメルに気が付く。
「キャメルたん!! 久しぶり!!」
キャメルは微笑む。「お久しぶりです。カルティエお姉様」
「いやー、なんだかんだで2年くらい会ってなかったよな~。そうだ。キャメルたんに2年分の誕生日プレゼントを渡さないと」
「いえ、お気遣いなく」
「遠慮しないの! ほら!」
カルティエは、手になにかを発現させる。ひとつは腕時計、もうひとつは香水だろうか。




