2 ファースト・キスは歯磨き粉の味
「……、」
ファースト・キスは、歯磨き粉の味がした。アークは無言で、なんとなくその場を立ち去ろうと再び起き上がる。
「どこいくの、アーク」
「別の部屋」
「なら、私もついていくわ」
着いてこなくて良いのに、キャメルは起きあがりやがった。大胆な行動をした割に、アークの気持ちは全く分かっていないようだ。アークは溜め息をつく。
「まぁ、別に良いけどさ」
アンゲル=ロイヤル家は非常に広く、アークが使っている部屋も3つある。今いる部屋は勉強用で、疲れたから備え付けのベッドに寝転がっていたわけだ。そして、隣はしっかりした寝室。アロマの匂いが充満していて、万が一のために弱めの睡眠薬まで用意してある。ベッドはキングサイズで、大人ふたりに子どもふたりが寝られるほどのスペースがある。
「良い部屋ね」
キャメルは目をこすりつつ、部屋全体に広がるアロマの匂いをスンスンと嗅ぐ。
「来たことくらいあるでしょ。いや……なかったか。僕がいつもレイノルズ家にお邪魔してたしね」
アークの言葉を無視し、キャメルはベッドに顔を埋める。そのままうつ伏せで寝息を立て始めた。なにがしたいのかさっぱりだ。けれども、これが幼なじみ兼許婚である。
「まぁ、寝たんなら良いや。さて……」
寝直すには充分な時間がある。8時までに起きれば、学校へは余裕で間に合う。アークはキャメルへ毛布をかけ、自身もキャメルから離れた場所で寝息を立てるのだった。
*
朝8時ぴったりに起きるのは、アークの特技だ。彼は起き上がり、そのまま目を見開く。
「きゃ、キャメル!? なにしてるの!?」
「なにって……、アークが本当に男のヒトか気になっただけよ」
なんとなく、パジャマの下部分がない気はしていたが、まさかパンツ諸共幼なじみに捕られているとは思ってもない展開である。
「でも、確信したわ。ギャップ萌えというものかしらね。こんな大きいあれを持ってるなんて」
「…………キャメル。いい加減怒るよ?」
「そんなこと言って、怒らないのがアークじゃない」
「あのね──「まぁ、その様子だとお互いに最初ね。異性にもっとも弱いところを見せるのは」
「は? ……は?」
キャメルは、ベッドの上でアークのそれを見ていた。そして、キャメルは下半身を露出させている。反対側から見れば、お尻を突き出すようなポーズになっていることだろう。
確かに、女子のあそこを見るなんて初めてだ。初めてだが、そういう問題でもない。
「まぁ、朝からそういうことするのは良くないわね。ご飯、食べさせてもらえるかしら?」
どうも振り回されている感が否めない。しかしいちいち突っかかるのも、体力を無駄に消耗するだけ。アークはうなだれながらも、「……良いよ」と返事する。
「あと、替えのパンツもあるかしら。なんでかは分からないけれど、お股からおしっこじゃない液体が流れてるのよ」
「ないよ。僕、男だからね?」
「なら仕方ないわ。このままビシャビシャのパンツでご飯を──」
「……男物のパンツなら貸す。だからその、あんまり起き上がったりしないでくれる?」
「ありがとう」
起き上がろうとしたキャメルに、釘を刺しておく。朝8時3分。すでに疲れているのは、気の所為だろうか。
クローゼットから男物のパンツを取り出し、アークはキャメルに手渡す。洗濯済みなので、特に問題はない。
が、キャメルはジッとそのパンツを凝視している。獲物を捉えた獣のように。
「早く履きなよ……」
アークが訝りながら促すと、キャメルは、
「匂い、嗅いでも良いかしら?」
とかふざけたことを言ってきた。
「良いというと思う?」
「アークは優しいもの」
「そもそも、洗濯したヤツだから洗剤と柔軟剤の匂いしかしないよ?」
「残念だわ」パンツを履き始めた。




