12 イエスorノー?
「まぁ、エロイことは悪いことでないが、すべてでもない。だろ?」
「そう思うよ。それがすべてな人間なんて、いつか破滅する」
「私の父のことを言っているのかい」
「そういうわけじゃないさ」
坂の上にある、富裕層向けの邸宅にふたりは近づきつつある。これは車がなければ、移動が面倒臭そうだと感じる。
「ここは成り金どもが、安い自己顕示欲を満たすために切り開かれたオアシス。ゴールデン・ストリート、って安直な名前からも分かるだろ? アンゲル=ロイヤル家の令息様からすれば」
「ごめんだけど、分かんない。家柄なんて選べるものじゃないし、選び取っているとも思ってないからね」
「なんだよ、そこは傲慢にツバでも吐きかける場面だぜ」
「古くからの富裕層への恨みが強いね……。あ、キャメルから連絡来た」
「なんて?」
「えー、『お兄様とルーシちゃんに会えるのを、心の底から楽しみにしている』らしいよ」アークは溜め息をつく。「キャメルはさ、薬がないと引き離せないほどのブラコンなんだ。クールくんについて、5時間くらい熱弁されたときもあった。きっとあの子は、誰かに依存してないと苦しいんだろうね」
キャメル・レイノルズは、模範的なブラコンだとアークは知っている。その秒的ともいえる愛情が、クールと疎遠になったがゆえ、そのままアークに移されただけなのも、彼はなんとなく分かっていた。
「それを受け入れるのも、男らしさだろ」
悩めるアークに、ルーシはアドバイス? を送り始める。
「父から聞いたが、オマエとキャメルは許婚なんだろ。大学卒業とともに結婚するとか。又聞きなので詳しくは知らないが、キャメルはクール・レイノルズの代用品でなく、アーク・アンゲル=ロイヤルを求めている。この世にクール・レイノルズはふたりもいねェし、アーク・アンゲル=ロイヤルもそうだ。だから、しっかり向き合ってやれよ。その上で、どうするかを決めれば良いだけさ」
ルーシは、真面目な顔でそう言う。そんな言葉に、アークも少し思うことがあったのか、「うん……」と俯く。
車が駐車し始めた。ゴールデン・ストリートの中でも、より高い位置にクールの邸宅はあるようだ。
「お嬢様、アークさん。降りて良いですよ」
「あぁ」
「分かりました」
アークとルーシがセダンより降りると、
「お疲れ様です!! お嬢様!!」
いかにも反社な使用人たち7人が、ルーシとアークに90度角で頭を垂れた。
「あぁ、ご苦労。ポールはいるか?」
「ポールのアニキなら、今しがた到着されましたが」
「よろしい。アーク、入るぞ」
停車した場所から玄関まで、それなりの距離がある。そこでルーシは、とんでもない提案をしてきた。
「なぁ、アーク。一度だけ提案するぞ。だから一度だけイエスかノーで答えろ」
「なにさ」
「強くなりたいか?」
「どういうこと──」
「イエスかノー、だ」
「……うん」
「よろしい。ちょうど良いのが〝セブン・スターズ〟の海外勤務を終え、ウチへ顔を出している。ソイツに稽古つけてもらえ」
ルーシの奇妙な提案に乗ってしまった。ただまぁ、アンゲル=ロイヤル家の長男として、恥じない実力が欲しいのも事実。多少苦しい思いをしてでも、なにかを得られるのならそれで良いと考えるべきだ。
ヤカラにしか見えない男たちが、ルーシとすれ違う度に頭を下げる。そんな中、唯一ルーシに頭を下げない者がいた。
洗礼された青いイタリア製スーツ・長めの黒髪をオールバック・鋭い眼光・高い身長・男前な顔立ち。
「ポール、どうだった? リビアは」
「難しいミッションだったが、なんとかアンゲルス支援政府を優勢にしてきたよ。ただ、現地人の女は積極的過ぎた。ルーシ」
ポール・エデン。アンゲルス最強の魔術師集団〝セブン・スターズ〟所属の男が、目の前にいた。




