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婚約破棄された令嬢ですが、冷遇されていた第二王子と静かに国を立て直します ~無能と切り捨てられた者同士が、最も正しい王と王妃になる物語~  作者: 月花いとは


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第26話 引き受けられた責任

 中央会議の翌日、外縁区画は不思議な静けさに包まれていた。


 何かが劇的に変わったわけではない。

 窓口は開き、神殿の神官たちはいつも通り対応している。

 支援物資も、昨日と同じように配られていた。


 ――それでも、空気が違った。


「……判断して、いいんですね」


 詰所の若い騎士が、私にそう尋ねた。

 恐る恐る、といった様子だった。


「はい」


 私は、はっきりと答える。


「基準に合わなくても、現場で“今だ”と判断したなら、動いてください」


「責任は……」


「王族が負います」


 その言葉に、騎士の目がわずかに見開かれた。


「そして」


 私は、続ける。


「その判断を、私が引き受けます」


 彼は、深く息を吸い、力強く頷いた。


 それだけで、動きが変わる。


 倉庫街では、滞留していた人々が解散していた。

 神殿を通さず、詰所が直接介入し、最小限の支援を行った結果だ。


 記録は、簡潔だった。

 判断した理由。

 結果。

 次に繋げるべき課題。


 ――初めて、“責任のある記録”が残った。


 昼過ぎ。

 リリア・アルフェンが、執務室を訪ねてきた。


 昨日までの自信に満ちた表情は、少し影を帯びている。


「……中央会議の件、聞きました」


「ええ」


 私は、席を勧める。


「驚きました」


 彼女は、正直に言った。


「現場裁量を、王族が引き受けるなんて」


「驚くべきことですか」


 私が尋ねると、リリアは一瞬言葉に詰まる。


「……正直に言えば」


 彼女は、視線を落とす。


「制度を壊す行為だと思っていました」


「私も、そう思っています」


 私は、静かに答えた。


「だから、壊したのではなく、“背負った”のです」


 リリアは、顔を上げた。


「背負う……」


「はい」


 私は、彼女を見る。


「制度の欠陥を、誰かの責任として引き受ける。それがなければ、制度は人を救えません」


 沈黙。


 やがて、リリアは小さく息を吐いた。


「……私は」


 彼女は、迷いながら言った。


「公平であることが、最善だと信じていました」


「今も、そうです」


 私は、否定しない。


「ただ、公平であるためには、誰かが“不公平の責任”を引き受ける必要があります」


 リリアは、唇を噛んだ。


「神殿では……そう教わっていません」


「神殿は、善意を守る場所です」


 私は、穏やかに言った。


「責任を守る場所ではありません」


 彼女は、何も言えなかった。


 その日から、区画の動きは少しずつ変わった。


 神殿は、窓口を維持しながらも、現場判断を黙認するようになる。

 中央は、様子見に入った。


 そして――人々は、再び“話せる相手”を見つけ始めた。


 夜。

 レオンハルト殿下と、短い報告を交わす。


「……思ったより、反発は少ないですね」


「責任の所在が、見えたからです」


 私は、答える。


「不満が消えたわけではありません。でも、“誰に言えばいいか”は、分かるようになった」


 殿下は、静かに頷いた。


「王とは」


 彼は、ぽつりと言った。


「責任を引き受ける役目なのかもしれませんね」


「はい」


 私は、迷わず答えた。


 机の上には、新しい記録束が置かれている。

 公式であり、同時に、現場の声が残る記録。


 それは、まだ不完全だ。

 批判も、必ず受ける。


 それでも。


 正しさは、誰かが引き受けなければならない。


 その役目を、第二王子は選んだ。

 そして私は、その隣に立つことを選んだ。


 これは、逆転ではない。

 勝利でもない。


 だが――


 王になる者が、王として歩き始めた日として、

 後に記録される出来事になるだろう。


 静かで、重たい一歩が、

 確かに、刻まれていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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