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婚約破棄された令嬢ですが、冷遇されていた第二王子と静かに国を立て直します ~無能と切り捨てられた者同士が、最も正しい王と王妃になる物語~  作者: 月花いとは


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第25話 正しさの代償

 中央会議の席は、いつもより人が多かった。


 神殿、財務、治安、王族。

 名のある者たちが、半円状の卓を囲んでいる。

 空気は、静かだが、張り詰めていた。


 ――数字は、良い。


 それが、全員の共通認識だった。


「外縁区画における救済制度は、順調に機能しています」


 最初に口を開いたのは、神殿代表だった。

 穏やかな声。丁寧な言葉。


「相談件数は増加し、未解決案件は減少。治安指数も改善傾向です」


 資料が配られる。

 整った表。分かりやすい成果。


 頷く者が、多い。


「問題は、ありません」


 その言葉で、会議は終わる――はずだった。


「……一点、発言を許可してください」


 低く、はっきりとした声が響く。


 レオンハルト第二王子だった。


 場の視線が、一斉に集まる。


「数字の報告、確かに拝見しました」


 殿下は、落ち着いた口調で続ける。


「ですが、数字に表れていない事実があります」


 ざわり、と空気が揺れる。


「殿下」


 神殿側が、やんわりと遮ろうとする。


「制度に問題があるというのであれば、具体的な数値を――」


「数値ではありません」


 殿下は、きっぱりと言った。


「人です」


 その一言で、沈黙が落ちた。


「外縁区画では現在、支援を求めながらも、窓口に辿り着けない人間が滞留しています」


 神殿代表の表情が、わずかに変わる。


「把握しておりません」


「記録がないからです」


 殿下は、私の方を一瞬だけ見た。


 ――今だ。


 私は、ゆっくりと一歩前に出た。


「非公式ですが、記録があります」


 場が、ざわつく。


「誰だ」


「……誰が、それを作った」


 私は、深く息を吸った。


「私です」


 はっきりと、そう告げた。


 視線が、突き刺さる。

 好奇心、警戒、苛立ち。


「規定外の連絡網を使い、滞留の事例を集めました」


「それは、正式な報告ではない」


 財務側が、即座に言う。


「ええ」


 私は、頷いた。


「だから、今まで表に出ませんでした」


 机の上に、紙束を置く。

 整っていない。だが、具体的だ。


 日時。

 場所。

 待たされた時間。

 その間に起きた出来事。


「これは……」


 誰かが、息を呑む。


「順番を守った結果、支援が間に合わなかった事例です」


 私は、淡々と説明した。


「暴動ではありません。抗議でもありません」


 声を落とす。


「制度を信じた結果、動けなくなった人たちです」


 沈黙。


 重たい沈黙。


「……これは、制度の否定ですか」


 神殿代表が、慎重に問う。


「いいえ」


 私は、首を振った。


「これは、制度の“限界”です」


 その言葉に、空気が張り詰める。


「制度は、正しい」


 私は、続けた。


「公平で、透明で、説明可能です」


 視線を上げ、はっきりと言う。


「ですが、責任を引き受けません」


 誰かが、息を呑む。


「誰も悪くない。誰も決めていない」


 だからこそ、人が零れる。


「この区画で起きていることは、例外ではありません」


 私は、言葉を強めた。


「いずれ、王都全体で起きます」


 ざわめきが、大きくなる。


「殿下」


 イザーク・ヴェルナーが、静かに口を開いた。


「あなたは、制度を危険に晒しています」


「いいえ」


 答えたのは、殿下だった。


「制度を“守れる形”に戻そうとしている」


 殿下は、立ち上がる。


「私は、王族として判断します」


 場が、静まり返る。


「神殿主導の救済制度は、継続します」


 一瞬、安堵が走る。


「ただし」


 殿下は、言葉を切った。


「現場裁量による例外判断を、正式に認めます」


 どよめきが起きた。


「責任は、王族が負います」


 その宣言は、重かった。


「判断した現場ではない。神殿でもない」


 殿下は、私の方を見た。


「そして――この提言を行った者も、責任を負う」


 私は、静かに頷いた。


「覚悟の上です」


 会議は、紛糾した。

 賛成と反対。

 正しさと不安。


 だが、一つだけ、はっきりした。


 第二王子は、逃げなかった。


 会議の終わり。

 正式な結論は、保留となった。


 だが、流れは変わった。


 神殿は、沈黙した。

 中央は、簡単に「問題なし」とは言えなくなった。


 会議室を出るとき、殿下が小さく言った。


「……これで、戻れなくなりましたね」


「はい」


 私は、答える。


「でも」


 殿下は、空を見上げた。


「初めて、王として判断した気がします」


 その横顔を見て、私は思った。


 今日、起きたのは、逆転ではない。

 勝利でもない。


 だが――


 正しさに、代償を払う覚悟が示された。


 それだけで、この国は、もう元には戻らない。


 静かで、確かな変化が、

 王宮の中心から、広がり始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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