公爵様、公爵としての自覚を持つ~夫婦の絆の始まり
彼女が、公衆の面前で私に謝罪し、すべての権限を放棄したことで、公爵邸は一変した。
セリーヌ様は、自室に引きこもり、以前のような威勢の良さは完全に失われた。公爵邸は、私が任命した新しいメイド長を中心に、規律と清潔さが保たれるようになった。
そして、何より変わったのは、公爵様、バンテス様だった。
彼は、セリーヌ様の不正という現実を突きつけられ、自分の弱さから目を逸らしていた過去を深く反省したようだ。
「ロキシー。君のおかげで、私は、自分の愚かさに気づくことができた。私は、これまで、公爵としての責務から、ずっと逃げていたんだ」
ある日の夜、彼は執務室に私を呼び、そう言った。彼の瞳には、以前のような憂いや怯えはなく、決意の光が宿っていた。
「公爵様。あなたは、立派な公爵です。ただ、これまで、あなたを支える方がいなかっただけです」
私は、彼のプライドを立てる言葉を選んだ。
「君は、本当に、私にとって、最高の妻だ」
彼は、私の手を再び取り、今度は優しく、そして、情熱的にキスをした。
(彼の心は、完全に私に向いたわ)
私たちは、この夜から、名実ともに、真の夫婦としての絆を深め始めた。彼は、夜な夜な私を自室に招き、公爵領の再建について、私に相談するようになった。
「ロキシー。君の分析では、領地事業の失敗の原因は、何だと思う?」
彼は、以前は見ることも嫌がっていた領地報告書を、今は積極的に私と一緒に読み込んでいる。
「公爵様。帳簿を見る限り、失敗した事業は、どれも『流行に乗っただけの、中身のない事業』ばかりです。つまり、公爵領の、本来の強みを生かせていないのです」
公爵領は、水資源が豊富で、高品質な織物の生産が盛んな土地だった。しかし、セリーヌ様の影響を受けた古い顧問たちは、流行りの宝石採掘事業などに、多額の投資をしていたのだ。
「君の言う通りだ。私は、目先の利益ばかりに囚われていた。では、君なら、どうする?」
「公爵様。まずは、公爵領の本来の強みである、高品質な『ヴィンテージ織物』のブランド価値を再構築しましょう」
私は、男爵家で培った知識と、公爵家の権威を利用した計画を提案した。
「公爵様のお名前と、公爵家の紋章を、この織物に冠してください。そして、公爵様ご自身が、この織物のプロモーションを社交界で行うのです」
「私が、社交界で?だが、私は、社交はあまり得意ではない」
彼は、少し不安そうにした。女々しい性格は、すぐに変わるものではない。
「ご心配なく。私は、あなたの裏で、すべての準備を整えます。公爵様は、私が準備した資料を読み、自信を持って、ご自身の公爵領の素晴らしさを語るだけで結構です」
私は、彼に自信を持たせるために、彼の成功を完全に保証した。
「そして、私は、公爵夫人として、社交界でデビューします。セリーヌ様の影響力がなくなった今、私が公爵夫人の責務を果たすことに、誰も文句は言えません」
「ロキシー。君は、本当に、頼りになる。君がいてくれて、心から良かった」
彼は、心からの安堵の表情を見せた。
翌日から、私たちの公爵領再建計画が始まった。
私は、昼間は、公爵領の事業責任者たちとの面談を重ね、新しい事業計画を詰めた。夜は、公爵様と一緒に、社交界でのプロモーションの予行演習をした。
「公爵様、このヴィンテージ織物は、光沢が美しく、王侯貴族にこそふさわしいものです。自信を持って、その価値を語ってください」
「ああ、わかった、ロキシー。私は、君の期待に応えたい」
バンテス様は、少しずつ、公爵としての自覚と、私に対する愛情を深めていった。
彼の変化は、私にとって、最大の喜びだった。女々しかった彼が、私の内助の功によって、頼もしい公爵へと変貌していく。
私たちは、公私ともに、二人三脚で公爵家を立て直す、真の夫婦へと進化していったのだ。




