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氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~  作者: 夏野みず


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権限の委譲と公爵家の改革の始まり

 セリーヌ様の不正を暴く準備ができた私は、次の手を打った。それは、公爵様から、公爵家財政に関する全権限を、私に委譲させることだった。


「公爵様。義母様が、ご自身の不正を隠蔽しようと、古い帳簿を処分する前に、手を打たなければなりません」


 私は、執務室で、バンテス様と二人きりの時を見計らって進言した。


 彼は、私の提案に、躊躇いの色を見せた。


「財政の全権限を、君に?しかし、それは、公爵家の歴史においても異例のことだ。しかも、君はまだ、正式な公爵夫人としての社交デビューすらしていない」


「だからこそ、公爵様。私が、裏で動く必要があるのです。私が表立って動けば、義母様はすぐに勘づいてしまいます。私が男爵家の出であることを利用してください。私が公爵家の財政に口を出すこと自体、誰も想定していません」


 私は、公爵様のプライドを傷つけないよう、言葉を選んだ。


「公爵様は、ただ、ご自身の領地経営に関する新たな事業戦略を練ることに集中してください。そして、公爵夫人である私が、そのための資金管理を任された、という形で、ご自身の権限を私に一時的に委譲する、という形をとりましょう」


 私は、事前に準備していた、権限委譲の書類を彼に差し出した。


「これに、公爵様のご署名と、公爵家の印章を押していただくだけで結構です」


 公爵様は、その書類をじっと見つめ、大きくため息をついた。


「ロキシー……。私は、自分の弱さが情けない。君のような、素晴らしい妻がいるというのに、私は……」


 彼は、またしても、自分を卑下する言葉を口にした。


「公爵様、弱さを認めることが、真の強さへの第一歩です。私が、あなたを強くして差し上げます。さあ、公爵様。署名を」


 私は、彼の迷いを断ち切るように、優しく促した。


 バンテス様は、震える手でペンを取り、書類に力強く自分の名前を書き入れた。そして、公爵家の印章を、書類の定位置に押した。


「これで、公爵家における財政の全権限は、私、ロキシー・ヴィンテージが掌握しました」


 私は、心の中でそう呟き、書類を大切に懐にしまった。


 権限を手に入れた私は、まず、公爵邸の使用人たちに目をつけた。


 公爵邸の管理が杜撰なのは、セリーヌ様が私的なことばかりに目を向け、本来の管理を怠っていたからだ。そして、使用人たちも、セリーヌ様派と、そうでない者たちで二分されていた。


 私は、まず、セリーヌ様派の使用人たちを、公爵様の名のもとに、配置換えした。


「公爵様の命により、あなた方には本日より、公爵領の遠方にある別邸の管理を命じます。即刻、荷物をまとめなさい」


 セリーヌ様派の筆頭である、意地悪な老メイド長は、私の突然の命令に顔色を変えた。


「これは、セリーヌ様のご意向ではないはず!あなたの出自を考えなさい、男爵家の娘が、勝手に公爵邸の人事を動かすなど!」


「黙りなさい」


 私は、静かだが、威圧感のある声で言い放った。


「これは、公爵様直々のご命令です。あなたは、公爵様のご命令に背くつもりですか?公爵家のメイド長として、公爵様の威厳を損なう発言を、これ以上するつもりならば、即刻解雇し、相応の罰則を受けていただきます」


 私の背後には、バンテス様の公爵としての権威がある。私は、その権威を、最大限に利用した。


 老メイド長は、私の冷たい目に射すくめられ、何も言えなくなった。


「わ、わかりました……」


 彼女は、不満そうに、しかし命令に従うしかなかった。


 セリーヌ様派の人間を一掃した後、私は、新しいメイド長に、私を密かに心配してくれていた、実直な中年女性を任命した。


「本日より、あなたの指揮の下、この公爵邸の管理を徹底していただきます。すべての経費を私に報告し、無駄を徹底的に排除しなさい」


「ロキシー様……ありがとうございます。私は、公爵様とロキシー様のために、尽力いたします」


 新たなメイド長は、感涙にむせびながら、私に忠誠を誓ってくれた。


 この改革は、すぐにセリーヌ様の耳に入った。


 その日の夕食時。セリーヌ様は、私を鋭い目つきで睨みつけた。


「ロキシー!あなた、バンテスに何か吹き込んだのでしょう!私の選んだメイド長を、なぜ勝手に異動させたの!」


 私は、優雅にスープを一口飲んだ。


「セリーヌ様。失礼ですが、それは、公爵様のご指示でございます」


 私は、公爵様をたてることを忘れない。


「バンテス様は、公爵家財政の立て直しのため、邸内の管理費の見直しを命じられました。その一環として、今回の人事異動が行われたと伺っております」


 セリーヌ様は、隣に座っているバンテス様を、きつい口調で問い詰めた。


「バンテス!本当なの?あなたは、いつから、こんな男爵家の娘の言いなりになったの!」


 バンテス様は、怯えながらも、私との約束を果たすべく、必死に平静を装った。


「母上。ロキシーの言う通りだ。私は、この公爵家を立て直すために、一時的に、財政の管理を、彼女に任せることにした。邸内の管理費の無駄遣いについても、看過できない」


 彼の言葉には、以前のような弱々しさがなく、微かながら「公爵としての責任」が含まれていた。


 セリーヌ様は、悔しそうに唇を噛んだ。


「そんな……バンテス、あなたは騙されているのよ!あの娘は、きっと何か企んでいるわ!」


「母上!」


 バンテス様は、テーブルを叩いて立ち上がった。


「私の妻を、それ以上侮辱しないでください!私は、彼女を信じます。公爵家は、私自身の責任において、立て直します!」


 彼のこの行動は、私にとっても予想外だった。彼は、本当に変わろうとしている。


 私は、彼の毅然とした姿を見て、心の中で、そっと彼に感謝した。


(公爵様。あなたの勇気が、私の大きな力になります)


 私の改革の第一歩は、成功裏に終わった。次は、セリーヌ様の不正の証拠を突きつける番だ。

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