6. そして現在に至る
「――おい、ナタン! 起きろって!」
「……ん?」
重い瞼を開けると、目の前にレイモンが立っていた。
どうやら休憩中にいつの間にか寝ていたらしい。
(なんか懐かしい夢を見たな……)
心配そうな彼をよそに、ナタンは体を伸ばしながらあくびをした。
「あぁ、悪い……昨晩小説を読んでたら、いつの間にか朝になってて……」
「だからって立ったままはないでしょ!?
見かけたときびっくりしたよ!」
レイモンは本当に心配したようで、少し怒り気味だった。
それに対してナタンは、頭を掻きながら誤魔化すように笑った。
ナタンはレイモンと出会ったあの日から、必死に訓練に励んだ。
体力は皆に劣ったままだが、得意分野の魔術では学校一の成績を収めた。
そしてそのまま彼は、特待生として卒業したのだ。
その後、少しでも家の借金を減らすために軍隊へ入ることを決めた。
最初父親は驚いていたが、昔と変わらず親思いな彼の目を見て言葉を飲んでしまった。
「あの時口を滑らしたこと、僕は許す気なんてない。
でも、父さんがかなり追い詰められていたってことは分かっている。
だから借金がなくなった後、父さんと一緒に魔導書を作りたいと思っているんだ」
卒業式の日、ナタンがそう告げるとマティスは目に涙を浮かべた。
彼はナタンの気持ちを尊重してくれて、結局笑顔で息子の背中を押した。
そして現在19歳になった彼は、学校卒業後ある軍の部隊の一員となっていた。
そこでは軍学校時代の二倍ものトレーニングがあり、訓練も比較できない程きつかった。
加えて施設が新し過ぎるせいで、魔術の練習に適した環境とは言えなかった。
しかし彼の顔には曇りがなく、むしろ今まで以上に一生懸命だった。
偶然にも、レイモンは彼と同じ部隊の所属となった。
運命のいたずらというのは本当に面白いもので、ナタンはとても嬉しかった。
だがレイモンは、ナタンと初めて会った日のことを覚えていないようだ。
無理もない。
あの時のナタンは、今のように気さくで前向きな彼と全く雰囲気が異なっていたから。
それにレイモンにとって、その時はただの通りすがりの学生だったのだろう。
少し寂しい気もしたが、今の自分をまっすぐ見てくれるだけでも十分だった。
レイモンも、いろいろ苦労しながらも必死にしがみついて実力を少しずつ伸ばしていた。
今では訓練が厳しすぎて心が折れそうになった彼を、ナタンが励ますことだって多い。
そうやって二人は、互いを支えあって成長していたのだ。
ナタンは少し頬を膨らませているレイモンに対して、無邪気な笑顔を見せた。
「ごめん、心配させて。
この後確か、敵国に関する講義だったけ? 一緒に行こう!」
彼は少し戸惑い気味のレイモンの肩に腕を回した。
そして一緒に、次に向かうべき場所へと歩を進める。
レイモンは何か言いたげだったが、ナタンの顔を見て言葉を飲み込んでしまった。
そんな中ふと、ナタンはあることを思い出した。
「そういえば、来週外出許可が下りたんだ。
確か君もそうなんだっけ?」
「えっ、あぁ……」
レイモンは少し気まずそうにナタンの方を見た。
「じゃあその日、一緒に外でお昼食べない?
僕、この辺りでおいしいハンバーガー屋知ってるんだ!
めっちゃボリューミーでほっぺたが落ちそうになるらしいよ!」
「それ本当!?」
ナタンはにこやかに頷いた。
レイモンはどうやらハンバーガーが好きみたいで、とても目を輝かせている。
ずっと、こうやって仲間と一緒にご飯を食べられたらいいのに。
それが今では、ナタンが戦争で生き残る理由の1つになっていた。
でも、これでいい。
至る所で戦争が起きている今だからこそ、こんな当たり前のような幸せが眩しいのだから。
ナタンとレイモンは、こんな時代だからこそ胸をときめかせていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
本作品は連載小説「黄金が再び輝く時」のサブストーリーです。
本編ではレイモンを主人公として、ナタンをはじめとする同級生の仲間達と共に戦地を駆け巡ります。
少しでも楽しんで頂けましたら、ぜひシリーズリンクから本編を覗いて頂けると嬉しいです。




